Bad day(8) 血と涙

創作の怖い話 File.15



投稿者 ストレンジカメレオン 様





もしある兄妹がいて、お互い自分を犠牲にしても、相手を守りたいと思ってたとしよう…

純粋に尊敬し合える相手だとしよう…

そんな相手を自分の手で刺してしまう心の痛みと、相手に刺される痛みではどちらが痛いだろうか…


不思議と恵理に刺された腹部からは痛みはなかった…

こんなのに比べたら、刺してしまう痛みの方が、はるかに辛いだろう…

この血の量……

腹部の痛み……

オレは明らかな矛盾を感じた。

腹部に刃物が刺さっている感覚がわずかしかないのだ…

オレは刺された腹部をよく見てみた。

その瞬間、涙が込み上げた…

恵理が右手で持っている刃物は恵理の左手を貫通して、

オレの腹部にはわずかに刺さっているだけだったのだ。

まるでオレの腹部から血が噴き出しているように見えたのは、恵理の左手からの出血であった。

「浩一………

気絶した演技をするのよ……」

恵理はオレにそっと囁いた。

涙が止まらなかった…

オレの手元は血と涙が混ざった液体が絡みついた…

それは見た目は真っ赤で気持ち悪く感じるかもしれないが、

極限の状況で人間の優しさや温かみがもたらした液体であった…

今のオレに出来ることは恵理の言うとおりにするしかなかった。

オレが床に倒れると、早速スピーカーからの悪魔の声が響いた。

「やはり、お前はうちの元エリートだけあって、随分と非情な行動を取れたじゃないか。見事だな。

この調子ならまた、活躍出来る日は近いかもな!

ハハハハハハ!」

「……………………」

恵理は黙っている。

「どうした?

自分が起こした行動に後悔でもしてるのか?

まさかそんなことはなかろう。

あんなに勢い良く、自分の兄を刺したんだからな」

スピーカーからの声と同時に恵理はオレに言った。奴らに感づかれないために。

「奴らが部屋のドアを開けに来たら、一緒に一気に、部屋の外に出るのよ…」

そのことをオレに伝えた恵理は叫んだ。

「後悔などあるはずがない!!勝負はついた!!

早くこの部屋のドアを開けろ!」

「お前の優秀な行動に免じて、ドアを開けてやろう!!」

すると一人の男がドアの鍵を開け、部屋に入ってきた。

「浩一…

今よ!!!!」

オレと恵理は一緒に部屋から飛び出した。

その瞬間、警報が頭に響くほど鳴った。

もうここで奴らに捕まったら、最後だ。

オレと恵理に残された道は、ここから逃げ出すことだけだ。

オレは以前、ここで恵理と再会して、脱出した時のことを思い出した。

あの時は恵理が非常用の鍵を持っていたが今はそれがない……

「恵理……

非常口の鍵がなければ、ここから出られないんじゃ…」

「実は非常用の出口は12桁の暗証番号を押すことでも、出られるようになってるの!

その日の日付から特殊計算された12桁の暗証を押せばドアは開くわ!」

「その日の日付の特殊計算!?

12桁!?

そんな暗証番号を分かることが出来るのか!?」

「瞬間記憶能力がこんなとこで役に立つとは思わなかったわ。

今、頭の中で計算してるわ!心配はいらないから出来るだけ早く走って!

血の跡が私達の場所を明確にしてしまってるわ…」

恵理の左手からの血は止まっていなかった…

非常用の出口まであとわすかの所までオレたちはやってきた。

「おかしいわね…奴ら、追いかけて来ないわ…」

「まさか待ち伏せ!?」

「そうかもしれないわ、こうなったら待ち伏せされる前に、早く脱出するしかないわ」

「ちょっと待って…」

オレは自分の着ている服の一部を切り裂いた。

そしてそれを恵理の左手に縛り付けた。

「これで少しは血が止まるかもしれない。」

「浩一…

ありがとう、さあ急ぐわよ」

礼を言うのはオレの方だった。

恵理の優しさは、オレを強くさせていた。

自分の命を捨てる覚悟は出来ていた。

恵理のためなら…

非常口までたどりつき、恵理は暗証番号を押した。

地獄からの脱出口は開かれた。

しかし、そこには1人の男を銃を構えて、待っていた。

オレも恵理もその男を知っていた。

まさかこの男が待ち伏せをしているとは思いもしなかった…

「み…宮本さん……」

「浩一君、恵理君、私に撃たれたくなかったら、ちょっと付いてきてほしい!」

銃を突きつけられたオレたちは宮本さんに従った…

もう成す術はなかった。

しかし宮本さんはどうやら、月光会の建物に戻そうとしているわけではなさそうだ。

ある目立たない寂れたアパートの一室へと案内された。

「そこに座ってくれ…」

オレと恵理は部屋に用意された座布団に座った。宮本さんとはいうと…

オレたちに土下座をして謝った…

「すまなかった……

私はこの二十年間、騙され続けていた………

謝って済む問題ではないと言うのは分かっている。

シンさんがしてきたことは、私の想像を越えていた…

自分のしていることに疑いを持つときもあった。

今回の君達の件で、完全に悪魔に騙されていたことに気付いた…

私は……………

馬鹿だった。

君達の親を殺し、君達をこんな状況に追い込んだのも私が仕組んできたことだ…

いつの間にか私は狂信者になっていた…」

そして宮本さんはシンさんと初めて出会った日のことを話し始めた。




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