手鞠歌(2)

創作の怖い話 File.73



投稿者 dekao 様





「オフクロ? どしたんだぁ? そんなオッカナイ顔してぇ!?」

ハッとした後、取り繕うように笑いながら

「え? ハハハ、いんや違う違う!! 婆ちゃんがご機嫌だから珍しいなあって。」

矢継ぎ早に喋りまくるオフクロ。こういう時、人は何かを隠している場合が多い。

「え〜? 婆ちゃん、いつも機嫌は良いんじゃないかぁ?」

「いや、それが最近はねぇ、急に怒り出したりしてね〜。」

婆ちゃんは、俺達なぞ居ないも同然と手鞠を上下にしながら歌い続けている。

「表の行列 なんじゃいなぁ
 
紀州の殿さま お国入りぃ〜

金紋(きんもん)先箱(さきばこ)供(とも)ぞろいぃ

おかごのそばには ひげやっこ

毛やり〜をふぅりぃふぅりぃ やっこらさぁのやっこらさ」

…楽しそうだ。何となく婆ちゃんに

「なぁ、その手鞠歌って婆ちゃんが子供の頃の歌かぁ?」聞いてみた。

手を休め、婆ちゃんは

「あ〜、この歌は新しいんだぁ。」

聞こえたらしい。しかし、新しい歌をここまで覚えているってのも驚きだ。

「でもなぁ、一郎。この歌の元歌はな、昔々から伝えられていt…」

「さ!! お婆ちゃん!! もうすぐ食事ですよ〜♪」

オフクロが急に割って入った。

「オフクロ、今、婆ちゃんと話をしt…」

「八郎、あんた久しぶりなんだから近所の友達とかに挨拶は?」

俺は苦笑しながら

「いや、子供じゃあるまいし。その内に飲み屋とかで会うだろ。」

「そう、じゃお風呂を沸かしてちょうだい♪」

…何だ? このテンション?

まぁ、イイやと思い婆ちゃんを振り返ると

また手鞠をゆっくり上下させながら歌っていた。

「てんてんてまりは てんころり
 
はずんでおかごの 屋根の上

「もしもし 紀州のお殿さま

あなたのお国の みかん山

わたしに 見させて下さいな 下さいな」」

…さっき婆ちゃんが言っていた「元歌」が気になったが

風呂を沸かしに、俺は風呂場へ向かった。

俺が家を出た7年後リフォームして、最新式のバスルームになったと

オヤジ、電話で自慢してたっけなぁ…。

少しシンミリしながら、俺は風呂場のドアを開けた。

「…っつ!?」

確かに最新式なのだろう、カビも生えていないモダンなバスルーム。

ただ、その新しいバスルームに全く似つかわしくない物があった。

洗い場の真ん中に

コロン…と

古びた手鞠が…一つ、転がっていた。



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