手鞠歌(3)

創作の怖い話 File.74



投稿者 dekao 様





一気に台所まで走り、オフクロに詰め寄った

「オフクロ!! これが風呂場に!!」

オフクロは、ゆっくりと振り向くと、事も無げに

「あぁ、婆ちゃんだろ。もうね、食べもしないのに餅を玄関に並べたりねぇ。」

肩と膝から、急に力が抜けて行くのを感じながら、つい聞いてしまう。

「ウチには一体、幾つの手鞠があるんだよ!?」

「さぁねぇ? 婆ちゃんが若い頃、集めてたみたいだけどねぇ。」

俺は急にバカバカしくなってぶっきらぼうに「風呂沸かしてくる。」と言って

台所を後にした。

居間を見たが、もう自分の部屋に引っ込んだのか

婆ちゃんの姿は無かった。

ボケってのも、これが厄介なんだよなぁ、とブツブツ言いながら

風呂のスイッチを入れる。全自動でお湯を張り、保温までしてくれる。

一人暮らしの時はシャワーで済ませる事が圧倒的に多かったが

これからは湯船に浸かる日の方が多くなりそうだ。

「一年たっても 戻りゃせぬ

三年たっても 戻りゃせぬ 戻りゃせぬ」

「!?」

何か、耳元で手鞠歌の旋律がよぎったような気がした。

もちろん、風呂場には俺一人だ。

ゾクッときて、慌てて部屋に戻った。

自分の部屋のドアを明けると

「うわっつ!! …婆ちゃん!?」

部屋の真ん中に婆ちゃんが「ちょこん」と座っていた。

手には、あの手鞠を持って。

あぁ、ボケちゃって自分の部屋と俺の部屋、間違っちゃったんだなぁ

ため息まじりに手を取ろうと近づくと

「八郎、そこに座り。」

…婆ちゃん? 

でも、今、俺のこと…八郎って?

「時間が無い!! ドア締めて早く座り!!」

慌ててドアを閉め、俺は婆ちゃんの前に胡座をかいて座った。

「…八郎、お前逃げ!!」

「婆ちゃん!? どうしたんだい? 薮から棒に!? 俺は今日帰ってきたばっかりd…」

「帰らされたんだよ!! お前は!! ここに!!」

「いや、婆ちゃん、言ってる意味が分からんて。」

「…お前、駅を降りて誰かに会わなったかい?」

俺の心臓が「ドクン」と跳ね上がる。

「会わなったかい? 会っただろう!! 八郎。」

「そ、そりゃぁ狭い村だぁ。誰かに会うさぁ。」

「誰だい? 会ったのは? …お前の、よく知っている人じゃなかったかい?」

…いやな予感って、こういうのを指して言うんだな。

「…会ったよ。婆ちゃんも知ってる鈴ちゃんだぁ。」

「まるで、待ち合わせでもしたみたいに会っただろ!?」

「あ、あぁ。」

それを聞くと婆ちゃんはフーッと息を吐くと

手鞠歌を歌い出した。

「てんてんてんまり てんてまり

てんてんてまりの 手がそれて…」

「八郎、この元歌の話だったね。」

「う、うん。」

「紙と書くの、持ってきな。」

俺は、言われるまま紙とボールペンを婆ちゃんに渡した。

「いいかい? これは忌み歌なんだよ。」

「忌み歌?」

「大っぴらには口に出来ない、でも後の子孫に伝えて行かなければならない。」

「…」

「その苦肉の作さぁ。さ、八郎」

「なに? 婆ちゃん?」

「人の体の中で、天に一番近い鞠は、何だい?」

いきなりナゾナゾかy…!!

「婆ちゃん、ソレって。」

無言で婆ちゃんは、紙にボールペンを走らせる

「天 天 天鞠 天 天鞠。これを訳すとな…。」

「天(よ) 天(よ) 天(に一番近い)鞠(を捧げます) 天(に一番近い)鞠(を捧げます)」

「…婆ちゃん…これって…捧げるって。」

「生け贄だぁ。」

「天(よ) 天(よ) 天(に)鞠(を捧げます) 手(刀)が(下ろされ)反れて」

「反れて、ってのは打ち首の時、首を反らす事だぁ。」

もう、言葉は無かった。

「どこから どこまでとんでったぁ

垣根をこぉえて 屋根こえてぇ
 
表の通りへ とぉ〜んでったぁ とんでったぁ」

「表通りってのはな、上、神様の所に通じる場所に」

「飛んで行く…打ち首にされた…首、が。」

「これはな、生け贄の歌なんだよぉ、八郎。」

「しかし、俺に何の関係があるんだい!? 婆ちゃん!?」

「…手鞠だよぉ。」

「手鞠!?」

「生け贄にされる家に、転がされるんだぁ。」



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