でびノート(9)

創作の怖い話 File.55



投稿者 でび一星人 様





「…フ。まあいい。

この分は、しっかりオマエにお返ししとくからな。

…オレは、マーガリンというキャンバスに、

キレイな紅を描いてやるぜ!!!」

…上手くないし…。

「おう!いいぞ阿部ちゃん!」

「やれやれ〜!」

…自分ひとりでは何も出来ないであろう舎弟二人が、阿部をそそのかす。

「ヘヘ。

じゃ、まずは、尻出せマーガリン!

オマエも、オレと同じ苦しみをあじわえ!」

阿部はポケットから人参を取り出す。

…冗談じゃない!!!

「い…嫌だよ!

や、やめろよ!」

「うるせえ!

ホラ、お前らも手伝え!」

阿部は舎弟二人に指示を出した。

「おう!」

舎弟二人はすぐさまオレの体を押さえつけ、ズボンを下げる。

「や…やめろよおお!!

やめてくれえええええ!!!」

「ヘヘヘ…。

あえて痛くしてやっからよぉ」

阿部の手が、オレの尻に伸びる…。

…と、その時だった。

「…ん…ふがああああああああああ!!!」

突然、阿部の体が宙に浮き上がった。

「!!!?」

「!!?」

「!!!!?」

一体何が起こったのか理解しきれず、宙に浮き上がる阿部を見上げるオレと、阿部の舎弟二人。

「があああああああぁああああああひあいああぁああああぁぁああぁあああ!!」

まさに阿鼻叫喚とでも言うのだろうか。

阿部は叫びながら、校舎の三階に引き付けられるように飛ばされていった。

そして、三階の窓の外側に取り付けられている金網に吸い込まれるかのように、

阿部の両腕が巻きつけられていった。

「ギャが亜あぁあああああああああああ!!」

阿部の叫び声は校舎中に響き渡った。

「な…何だあれは…」

阿部の声に気付き、グラウンドで絵を描いていた生徒や先生も、声のする方を見上げる。

…三階の窓の金網。

泡を吹き、気を失っている阿部は、まるでそこに磔られているかのようだった。

阿部の両腕は、ありえないくらいに折れ曲がり、まるでツタの葉のように金網の網目に絡まっていた。

校舎の時計を見ると、10:50分だった。

事態に気付いた先生が素早く通報した為、

すぐさま救急車だかレスキュー隊だかがやってきて、10分後には、阿部は救出された。

…しかし、あまりに無残で修復不可能だと判断された両腕は、もがれるように切除された。


キーコ…

  キィーコ…

 キーコ…。

…どこだここは?

気が付くと、オレは薄暗い部屋の中に居た。

下は畳。

広さは四畳半くらいか?

部屋の出入り口らしき場所は何処にも見当たらない。

  キィーコ…

  キィーコ…

 キィーコ…

…ん?

ところで、一体何なんだ…さっきからきこえるこの音は…。

オレは目を凝らして部屋を眺めた。

すると、部屋の端っこの方で、何か金属をこすり合わせている人影を見つけた。

「な、何してるんですか?」

人を見つけた安堵感か、

オレはその人に声をかけた。

 キィーコ…

 キぃ…

オレが声をかけると、その人は動きを止めた。

…そして、後ろを向いたまま、かすれるような声で話し始める。

「…何って…

見てわからないのかよ…マーガリン…」

…ん?この声は…もしや…。

その人はゆっくりとこちらを向いた。

「…よう。マーガリン…」

振り向いた人影は…阿部だった。

…だが、なんだか阿部の様子がおかしい。

阿部の目は、白目の部分が無く、真っ黒だ。

「あ…ベ…。ど、どうしたの?その目…」

なんだか居様な雰囲気を感じ取ったオレは、恐る恐る阿部に言った。

「…目…。

目なんて…別に普通だろうが…」

阿部はスクっと立ち上がり、オレの方へと近付いてきた。

「!!!?」

立ち上がった阿部を見て、オレの全身から汗が噴出す。

阿部の両手はグチャグチャになっていた。

…そう。

あの金網に、ツタの葉のようにグルグル巻きついた、ズタズタになった手…。

骨も、肉も、皮も…。

どこがどれなのか見分けがつかないような状態…。

「…なぁ…マーガリン…。

…オレの目なんて…どうって事ないだろう…?

…このウデ、酷いと思わないかぁ?

なぁ…?」

阿部はズタズタになった手をゆっくりと振り上げた。

その手には、大きな鎌が握り締められていた。

「あ…あぁ…」

驚きのあまり、声にならない声を発するオレ。

「マーガリン…。

酷いよなぁ…オマエ…。

オレのウデ…こんなんなっちゃったよぉ…。

…オマエなんかにこんなんされちゃったら…オレ、悔しいからよぉ…。

オマエ殺すわぁ…」

阿部は振り上げた鎌をオレの頭めがけて振りおろして来た。

「や…やめろお!!!」

自己防衛本能か。

オレはとっさに阿部を突き飛ばした。

「おぉっと…」

阿部はヨロヨロと後ずさり、尻餅をついた。

…そして、その拍子に、ズタズタな阿部の両腕は、もげ落ちるようにボトリと地面に落ちた。

「…あ〜あ…。

…マーガリン…。

…オレの両腕…もげちゃった…。

…オマエのせいで…両腕もげちゃった…。

…オマエのせいだからな。

オマエの…

オマエの…

オマエの…

オマエの…

オマエの…

オマエの…
オマエの…
オマエの…
オマエの…
オマエの…
オマエの…
オマエの…
オマエの…
オマエの…
オマエの…
オマエの…
オマエの…
オマエの…
オマエの…
オマエの…
オマエの…
オマエの…
オマエの…」


…オレのせい…?

…オレのせいなのか…?

阿部の手がもげたのは…オレのせい?

…オレは…ただ…。

…でびノートに、アイツの手がもげると書いただけだ…。

…オレがちぎったんじゃない…。

…アイツの手は…ノートに書かれて、勝手にちぎれたんだ…。

「…違うよ…マーガリン…」

「…えっ」

阿部は、地面に落ちた手に身を寄せ、必死にまた体に引っ付けようとしながら話す。

「…オマエが実際に手を下したかどうかは問題じゃない。

…このウデは…オマエがちぎったんだよ…。

オマエが、オマエの願望で、オマエの意思で…

…このウデをもぎとったんだ…」

こいつ…オレの心が読めるのか…。

阿部は必死に腕を体に引っ付けようともがいている…。


…今まで…数え切れないくらいオレをイジメてきた阿部…。

…しかし、そんな阿部でも、こんな姿を見ると、なんだかとても哀れに思えてくる…。

「あ…阿部…。ゴメン…。

…オレ…まさか本当にこんなことに…。

…ゴメン…阿部…」

…そう。

…オレはやりすぎたんだ…。

いくらイジメられていたからといって、

両腕をもぎとるなんて事はやりすぎだ…。

「マーガリン…。

…もう遅せぇよ…。

…もう…オレの手は生えてこないからなぁ…。

…あぁ…マーガリン…。

…オレの一生…終わっちゃったぁ…。

オマエに、オレの一生…

…奪われちゃったぁ…」

…オレが…阿部の一生を奪った…。

…そうなるのか…オレがアイツの…一生を…。

…オレが…。

「ヒヒヒヒヒヒ…いいなぁマーガリン…。

オマエはこれからの一生を普通に過ごせて…。

あ〜あ…。

オレ…こんな手じゃぁ何も出来ねえ。

ハハハハ…

アハハハハハ…。

アハハハハハハハハハハハハハハハハァハハハハ」

阿部…なんで笑ってんだよ…。

…なんで…そんな手になって…。

…阿部…オマエ…。

…オレを責めてるのか…?

「ハハハハハハハハハハハ」

辞めろ…笑うな…。

「ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ」

辞めろ…

「 や め ろ お お お お お お お お お お お お お お お お お お お お お ! ! ! ! 」

ガバァッ!!!

「はぁ…はぁ…

…ゆ…夢…?」

気が付くと、オレはベッドの上にいた。



→でびノート(10)へ



★→この怖い話を評価する

大型懐中電灯


[怖い話]


[創作の怖い話]