僕らの目指した甲子園(4)

創作の怖い話 File.163



投稿者 でび一星人 様





1塁手はそう叫ぶとボールをピッチャーに返した。


忍法とは一体何だろうか・・・。

忍ヶ丘高校。

彼らは忍法に見立てたこういうトリックプレーを得意としているのか・・・?








 カキーーン!






 そんな少し嫌な雰囲気の中、

快音が鳴り響いた。




 下葉が表情も変えず、バットをその場に置いた。


打球がバックスクリーンに吸い込まれたのを確認して・・・。



 スリーランホームラン。


下葉のホームランで僕らはまた、この試合も先制する事が出来た。



 そして今日はそれだけでは終わらない。

カキーン!

五番の平田君もセンター前で出塁。

六番の中田君は相手のエラーで塁で出る。


そして・・・








 ガッキイイィィィン!!!


金属音とは思えない音が球場に響き渡る。


直球しか打てない7番の一枝が怪力を発揮する。

甘いど真ん中を場外遥か彼方にかっ飛ばしたのだ。

6-0


「タ・・・タイム!」

さすがに忍ヶ丘高校ナインは少し動揺し、マウンドに集まった。

・・・なにやらヒソヒソと相談をしている。

あまりにソレが長い為、見かねた審判が「ハリーアップ!」と注意した。

ズバン!

  ズバン!

その後、

正直役に立たないウチの8.9番はあっさり三振。

スリーアウトチェンジとなった。



 1回のウラ。

ズバン!


  ズバン!


     ズバン!


僕は真っ直ぐで三者連続三振を奪い、5分も経たないうちにこの回を終えた。

そして2回のオモテ、先頭打者として打席に向かおうとした時だった。


「・・鎌司さん、ちょっと聞いて欲しいでげす・・・。」

珍しく8番の右本君が話しかけてきた。

「・・・どうした?ドエロの右本君・・・。」

右本君は僕の耳元に口をやり、

(この回、とりあえず三振してすぐに戻って来てほしいでげす。

内容は後でげす。

とにかくお願いでげす・・・。)

と言った。

 一体右本君は何を話したいのだろう?

だが、何もなければわざわざこんな事を言ってくるはずは無いと思い、

言われた通り僕は三振してベンチに戻る事にした。


相手投手は、「や・・・やった!」と、

僕を三振にした事を喜んでいた。

・・・一体なぜこんなチームが三回戦まで駒を進めれたのだろうか・・・。

ベンチに戻ると、右本君が端っこに座っていた。

そして僕にグローブを差し出す。

「・・・とりあえず鎌司さん、グローブをアッシのように口元に当てて話すでげす。」

「・・・あ、ああ。わかった。」

言われた通り、グラブを口元に当てて話す。


「・・・で、一体話って何・・・?」

グラブで顔全体を覆った右本が話しはじめる・・・。

「ええ。いや、実はアッシはね、読唇術の心得があるんでげすよ。

ホラ、AVって、喘ぎ声がでっかいわりに、セリフの声って小さいでしょ?

ストーリーを楽しむ上で、セリフは聞きたい。

でもボリュームを上げるとオカンにばれちまう。

そこでアッシは読唇術を身に着けたんでげすよ。

・・・まあ、こんな趣味じゃぁ一生【独身術】なんて事になりかねませんが・・・。

あ、そういうのは要らないって?

そいつぁ失敬!


・・・いやね、本題に戻りますが、

その読唇術で、さっきあいつらがマウンドに集まってた時の会話を、

少しですが読み取る事が出来たんでげすよ。


・・・なにやら、『こんなにはやい展開だと、薬が効く前にコールドで終わっちゃうよ』

とか言ってたでげすよ。」


「・・・薬?・・・」

「ええ。たしかにそう言ってやした。

アッシにも何の事かはわからないでげすがね。

それだけです。

一応気になったもんで・・・。」


「・・・ふむ・・・。」


『薬が効き始める』とは、一体何の事なのだろう・・・。


「・・・鎌司さん、鎌司さん。」

アゴに手をやり、すこし考えていると、なにやら必死に右本君が呼んでいた。

「・・・あ、ゴメンゴメン、どうした・・・?」

「い、いや、こんな事くらいで『三振して戻ってきてくれ』なんて、良い過ぎでげしたかね・・・。」

どうやら右本君は意外と繊細なようだ。

「・・・いや、ありがとう。 大きな情報だよ・・・。」

「そ、そうでげすか!てへっ。照れるでげす。」

右本はてれながら頭を掻いた。

右本君は意外と直情型人間のようだ。





カキーーーン!!!




そうこう話をしていると、グラウンドからは快音が聞こえてきた。

身を乗り出し、グラウンドを見る。


唖然とした。


また、下葉がホームランを打ったのだ・・・。

これで前の試合から数えて5打席連発となるホームラン・・・。


 出塁していた貝塚君と優真君も驚いた表情で下葉を見ている。

下葉は顔面蒼白でしんどそうだ。

ハイタッチをしようと手を挙げて待つ貝塚君たちにも引きつった笑顔を必死に作っているように見えた。


「・・・下葉、ナイスホームラン・・・。」

ベンチに戻ってきた下葉に声をかけると、

「・・あぁ・・・ありがとう・・。」

と言って下葉はぐったりとベンチにもたれかかった。

・・・下葉が心配だ・・・。



「・・・あ、鎌司さん、どうやらまたアイツら、相談を始めたようでげすよ。

今回はしっかりと読唇術で読み取ってやるでげすよ・・・。」


 マウンドに集まっている忍ヶ丘ナインを見ながら右本君が言い出した。


「ん〜なになに、

A『今で、試合開始から何分や?』

B『40分って所かな。』

C『やばいがな!あと20分はかかるで!』

B『ま、でもそれくらいなら大丈夫ちゃうか?前の試合も8点差付けられてから効いてきたし。』

A『そ、そうやな。 薬が効いてきたら、相手は野球所じゃないもんな。』

C『そうそう。はっはっは。あれが効いてきたら、立ってられへんくらいの腹痛や。

下手したら放棄試合やからな。』

D『で、でもよ、ちゃんとまんじゅうと弁当、アイツら食べたんかな?』

E『おい!何言うねん!ちゃんと上手い事変装してアイツらに渡しといたわ!

 今までの高校の連中もちゃんと食べてたがな!』

D『そ、そうやな。スマン。 あと20分。

なんとか粘ろう!』


一同『おうっ!』       。」


 忍ヶ丘ナインは掛け声と共に守備位置に散らばっていった。


「鎌司さん・・・と、いう内容を読み取ったのでげすが、どういう意味でしょうか・・・。

弁当やまんじゅうって、意味がわからんでげす・・・。」


僕はピンと来まくっていた・・・。

まず、朝の差し入れ・・・

野球部を嫌っている校長がまんじゅうを差し入れするのがそもそもおかしい。

・・・そして、金銭面のヤリクリに余裕が無いはずの高野連が弁当の至急をした事・・・。

・・・あれらはきっと、忍ヶ丘高校の陰謀だったのだろう。

忍者で言う所の【毒を盛る】技なのだろう・・・。


幸運にも、僕らはあの弁当は食べていない。


あれらを全て食べたのは・・・。






 


 「ゲームセット!!」


14-0

3回のウラを抑え、僕らは三回戦もコールド勝ちを収める事が出来た。


「な・・・なんで薬が効かないんだよぅ・・コイツラ・・・。」

と、忍ヶ丘高校の部員は泣きながら呟いていた。



 「よお!お前らお疲れさん!」

外に出ると、姉ちゃんが元気良く出迎えてくれた。

「・・・姉ちゃん、体、何ともないの・・・?」

「ん?おう。ピンピンしてるわ。・・・なんでや?」

「・・・いや・・・何も・・・。」



→僕らの目指した甲子園(5)



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