黒い影(14)

創作の怖い話 File.136



投稿者 でび一星人 様





テレビでは、人が死んだニュースをいくつか報道している。


世の中には、大切な人を失い悲しむ人が沢山いるんだ。

なぜか、今日はそういう見方が出来た。

きっと一昨日におしょうから聞いた話や、それに・・・

それに、昨日氷室さんに言われた一言がひっかかっているんだろう・・・。


「・・・よし・・・。」

僕はやはりこのままではなんだか気分が重いので氷室さんに電話する事にした。


でも・・・

でも、氷室さんは電話に出てはくれなかった。


 僕はカタチにない、とても大きなモノを失ってしまったような気がした。





 その日から、僕は野球も将棋も、

なんだか身が入らないようで、

妙に集中出来なくで・・・。


 あれから毎日電話をしたが、氷室さんは相変わらず出てくれなくて・・・。

僕は氷室さんの事も気になるし、

氷室さんの【黒い影】も気になるし・・・。

失いたくない・・・。

という思いに駆られて、

それが抑えきれなくなって・・・。


 氷室さんが電話に出てくれなくなってから5日目、

僕は氷室さんの家を訪ねる事にした。


 大きな壁伝いに歩き、門の横にあるインターホンを押す。

ピンポーン・・・。



『・・はい。』

氷室さん本人だ!

「・・あ・・・八木ですけど・・・。」

『えっ・・・。』


『プツッ・・・。』

「あ・・・。」

インターフォンを切られてしまったらしい・・・。

「・・・氷室さん・・・。」

僕は・・・どうやら嫌われてしまったらしい・・・。


諦めて帰るか・・・。

いや、でも・・・。

氷室さんのあの黒い影も気になる・・・。


僕は氷室さんを失いたくなかった。

だから僕はもう一度インターホンのボタンを押した。


ピンポーン・・・


『・・・』

中と繋がった音がした。

だが、氷室さんは無言だ。

・・・聞いてくれているのか・・・

それとも耳を向けてくれていないのか・・・。

それは解らないけど、

僕は氷室さんにメッセージを残した。

「・・・あの、話したい事があるから・・・。今からあの公園で待ってるから・・・。

氷室さんが来るまで・・・ずっと待ってるから・・・。」


『プツッ』

インターフォンの受話器を置いた音がした。

氷室さんは今のメッセージを聞いてくれたのだろうか?

・・・どっちでもいい・・・。

あの公園で、待とう。

僕は公園に向かって歩き出した。



 

 その日

僕は公園のベンチに座り、氷室さんを待ち続けた。

朝に予定されていた【三段リーグ】の対局をすっぽかして待った。

昼になった。

昼からの野球の練習を無断でサボる形になりながら待った。

夕方になった。

那覇村先生との稽古も無断で休んだ。


・・・でも、氷室さんは一向に来る気配は無かった。

「フフ・・・バカだよな・・僕・・・。」

なぜだか笑えて来た。

来るのか来ないのかも解らない。

そもそもここで待ってる事を聞いてくれたのかもわからない。

そんな氷室さんを、僕はここで待っているのだから。


夜になった。

ポツ・・


 ポツ・・・


「・・・雨・・・か・・・。」

雨が降り出した。

ザーー・・・


本降りのようだ・・・。

真冬の夜の雨は、僕の体温を奪う。

ビショビショになりながらも、僕は待ち続けた。

今何時だろうか?

公園の時計は壊れて止まっている。

時間もわからないけれど、夜の公園、しかも雨。

人の気配はまったく感じられなかった。



「・・・寒い・・・。」

 僕はベンチに座り、両肘をそれぞれ反対の手で握るようにして身を縮めた。

そうしていてもかなりの寒さだが、まだ幾分体温を維持できる体勢だと思ったからだ。



 更に数時間が経った。

氷室さんは結局現れなかった。

「・・・バカだな・・・、僕・・・本当に・・・。」


 雨の降りしきる公園のベンチから腰を上げ、僕は歩いて家に帰った。

家に帰ると、玄関の前で父さんがたたずんでいた。

「鎌司!!」

父さんは僕を見つけると、すぐに駆け寄って来てくれた。

「お前・・・こんな時間まで何やってたんだ!?どれだけ心配したかわかってるのか!」

「・・・。」

 何も言い返せなかった。

「まあ・・・。とりあえず風呂にでも入れ。 びしょびしょじゃないか・・・。」

 


 湯船に浸かり、僕は今日1日の事をぼーっと考えていた。

 野球の練習をサボってしまった事。

奨励会の対局をサボッてしまった事。

 師匠との稽古をサボってしまった事・・・。

本当に僕は、何をやっているんだろう・・・。

結局来る事の無い氷室さんの為に、

沢山のモノを犠牲にしてしまった・・・。


 ガチャッ、ガタガタッ


風呂場の外から玄関を開ける音がした。

「鎌司、帰って来たって!!?」

・・・姉ちゃんの声だ。


姉ちゃんは、僕を探しに外を走り回ってくれたようだった。





 「あ、はい。鎌司のやつ見付かりましたんで。ええ。明日はちゃんと行くように行っておきますんで。」

・・・父さんが、師匠に電話をしてくれているようだ・・・。






 「おお!吉宗さんか? 鎌司、見付かったわ! エライ心配かけさしてもうてゴメンな!

・・・え? 何やて? アホか!ウチ今から寝るから会うとか無理や!」

・・・姉ちゃんは、吉宗先輩に携帯でいろいろと僕の事を話してくれているようだ・・・。




 「・・・皆・・・ゴメン・・・。」

浴槽に浸かりながら、僕は呟いた。

本当にたくさんの人に心配と迷惑をかけてしまった。

なんてダメなやつなんだろう。僕は・・・。


 そのまま2時間、お風呂に入っていた。

なんだか父さんや姉ちゃんに顔をあわせるのが気まずかったからだ。



→黒い影(15)へ



★→この怖い話を評価する



[怖い話]


[創作の怖い話3]