でびノート(7)

創作の怖い話 File.53



投稿者 でび一星人 様





少しでも信じたオレがバカだったよ…。

ガシッ!

「…」

「…ん?」

パンチが、顔に振り下ろされてこない…。

オレはゆっくりと目を開けた。

「…阿部君。何があったのか知らないけど、暴力はよくないわよ?」

筒井だった。

筒井は、阿部が振り下ろそうとした手を掴んでいた。

「せ…先生…。

で、でもコイツ、オレが今死にそうになったのを見て、笑ってたんですよ!」

「…それはよくないわね。

…でも、暴力もいけない事よ。

とりあえず離れなさい」

「…は、はい」

阿部は素直にオレから離れた。

筒井はそんな阿部に一言二言話し、教室に行くように言った。

オレに対してはあんなに怖い阿部も、先生の言う事は素直に聞くようで、

オレをキっと睨みながらも、おとなしく教室に戻っていった。

「…」

「さ、馬上君、立てる?」

「…」

筒井はそっとオレの体を起こしてくれた。

「…馬上君。君、さっき阿部君に窓が落ちてきたところを見て笑ってたって本当?」

「…」

「…そう。話したくないならそれでもいいわ。

…馬上君。

君はとりあえずスポーツをしてみなさい。

先生はね、バレーボール部の人数を増やしたいからいつも君をスカウトしてるってのもあるけど、

君自身の為でもあるのよ。

もし、バレーボールが嫌なら他の部活でもいいわ。

何かやってみなさい。

スポーツで鍛えられるのって体だけじゃないわ。

心も鍛えられるのよ」

「…っさい…」

「…えっ?」

「…うるっ…さいよ先生…」

「…」

「…先生に…何が解るんだよ!

先生は、オレがいつも家に帰って、どれだけの用事してるのか知ってるのかよ!」

「…」

「何も知らないのに…部活とか言うなよ!!

皆が皆、遊びたいだけで帰宅部してるんじゃないんだよ!!!

何も知らないくせに、何が教師だよ!

オマエらは人の事も知らずに、人に物教えてるのかよ!!!!」

「ま…馬上君…」

ダッ!!!

 オレは泣いていた。

悔しさや、情けなさや、怒りやら、

色んな感情がこみ上げてきて泣いていた。

そして筒井先生の前に居るのも気まずいから、

あんな捨てゼリフを吐いてその場から走り去った。

…いや、正直、逃げた。

…筒井先生はオレを助けてくれた…。

オレを心配してくれてもいる…。

…でも…。

…でもやっぱり…筒井はオレの事を解っていない…。

理解していない…。

だから筒井の優しい言葉は、オレの心の奥底までは届かない。

心の奥底から、手を伸ばす事の出来ないオレは、筒井の手を掴む事が出来ない…。

…オレは…。

オレが悪いのか…。

オレはツイていないだけなのか…。

くそう…。

くそう…。

…走ってあの場から逃げ出したオレは、

何だかんだ言って教室へとやってきた。

結局、オレが逃げる規模なんてたかが知れてるという事だ。

その場から逃げる事は出来ても、

大きく逃げる勇気は無い…。

自分の机までやってきて、カバンを置こうとしたオレの動きが止まる。

…机の上は、カッターナイフでズタズタに刻まれていたからだ。

その周りには、木くずが散乱していた。

…間違いない。

犯人は阿部だ。

阿部が今、カッターナイフか何かでズタズタにしたんだろう。

オレは木くずを手で払いのけ、席に着いた。

「…オマエ、今日の休み時間、体育館裏に来いや。

全部だ。

全部の休み時間な…」

座ったオレを見計らったように、

後ろに座る阿部がボソっと呟いた。

…でびノート…。

少し期待させられた分、今のオレは物凄い地獄気分だ…。

…あんなノートに期待したオレがバカだった…。

あんなウソノートに…。

そんな事を思いながら、オレは1時間目に使う教科書を取り出そうとする。

「…!?」

カバンのチャックを開けたオレは驚いた。

なんとカバンの一番上に、でびノートが入っていたからだ。

…でびノートは家に置いてきた…。

…間違いない。

…だって、あんな事書いてるノートを阿部に見られでもしたら…。

…だから、当然このノートは家に置いてきてたはず…。

…それがなんでカバンの中に…。

オレはカバンの中のでびノートを少し開いて中を確認した。

【名前】阿部 司
【時刻】9月25日(金)AM11:00
【場所】教室
【出来事】両手がもげる
【結果】学校に来れなくなる

…!??

AM11:00??

…そ、そうか…。

まだ今は朝の八時半…。

昨日オレは、このノートに【9月25日】と書き込んだのは覚えていた。

…でも、時間指定までしていたのはちょっと忘れていた…。

11時に…阿部の両手はもげる…!!!

…いや、でも、それはこのノートが本物だったらの話で、

もしこのノートがデタラメノートだった場合…。

オレの心はまた暗闇に…。

…でも…家に置いてきてたはずのノートがカバンに入っている…。

…このノートは、何かそういうノートのような気もする…。

「…オイ、マーガリンよ。

オマエ、震えてるのか…?

何か変なもの持ってきてんじゃねえだろうな?

ちょっとカバンの中見せてみろよ」

「…はっ!」

色々考え事をしていたオレに対し、後ろから阿部がそう言った。

でびノートを握るオレの手が汗ばむ…。

「オイ!マーガリン!いいから見せろよ!!」

阿部の手が、オレのカバンめがけて伸びる。

「い、いや、な、何でも無…」

抵抗する間も無く、オレはあっさりとでびノートを奪われてしまった。

「…」

無言でパラパラとでびノートを見る阿部。

…終わった…。

あんなものを見られたら…。

腕がもげるなんて書いてるあんなノートなんて見られたら…。

…きっとオレは…。

…阿部に殺される…。

終わった…。

オレはもう…終わりだ…。

心に広がる絶望感…。

パタン。

ノートを一通り読み終え、閉じる阿部。

「…オイ、マーガリン。これ、一時間目借りとくな。

ほれ、こっちのノート、代わりに貸しとくからよ」

???

阿部はそう言ってオレに社会のノートをポイっと投げた。

…何だ?このリアクションは?

なぜ阿部は怒らない??

自分のウデがもげるとか書かれてるんだぞ!?

「あ…あの…」

混乱したオレは、とりあえず阿部に声をかけた。

「…ん?何だ?

オマエ、このノートを隠そうとしたんだな?

ケッ。

もういいかげんに諦めろよ」

「…えっ」

阿部の手に握られて、丸められたノートを見て、オレは思わず声が出た。

そのノートは、オレの社会のノートだった。

「オイ、マーガリン。

いつもこうやってオマエが宿題やってくれて、すごい助かってるよ。

…でも、今朝の事は別件だからな。

休み時間はちゃんと体育館ウラに来いよ」

阿部はオレを睨みつけた後、席に座り、後ろからオレの椅子を蹴った。

「…」

オレはとりあえず無言で席に着いた。

そしてカバンをまさぐる。

…無い。

でびノートが無い。

…さっきたしかに確認したはずなのに…。

阿部の様子を見る。

…阿部がオレから奪ったノートは…社会のノートだ…。

今日の一時間目に使うノート…。

…また、いつものように阿部の為に活用されてしまうノート…。

…ん?いやでも待てよ…。

そういえばそもそも、昨日オレ、社会の宿題なんてやったっけ…。

ガラガラガラ。

「オイ〜!HRだ!席につけ〜〜〜」

いろいろと考えていると、担任が竹刀を持って入ってきた。

担任の名前は【原黒 麻巳】

麻巳とかいう一見キレイな名前だが、趣味はマージャンで、

他の教師の目を盗んでは教室で酒やタバコをやるとんでもない教師だ。

ちなみに35歳 独身 剣道3段。

原黒が竹刀で黒板をビシビシやると、チラホラと立っていた生徒は皆おとなしく席に着く。

やはり、暴力を利用すると何事も楽なんだろうと感じる。

原黒のHRが終わり、一時間目の社会。

阿部は、オレのノートを見てスラスラと答え、先生に褒められていた。

…でも…やっぱりおかしい…。

オレは昨日、社会の宿題の事などスッカリ忘れて寝たと思うのだが…。

 …一時間目が終わり、オレは阿部が待つ体育館裏にやってきた。

「よう。マーガリン」

阿部は二人の舎弟を引き連れ、ニコリと笑った。

…それからの十分は、酷いものだった。

舎弟の一人がオレを羽交い絞めにし、

阿部ともう一人が交互にオレを殴る。

いわば人間サンドバック状態…。



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