でびノート(8)

創作の怖い話 File.54



投稿者 でび一星人 様





口の中もあちこち切れているし、数日前に付けられた痣の部分を殴られた時は、地獄の痛みだった。

「…次は第二ラウンドだ。ゆっくり休んどけよ。はっはっは」

休み時間が終わり、教室に戻ってきたオレに、阿部は笑顔でそう言った。

二時間目、理科の授業中。

時計を見る。

10:07

…あと…約一時間…。

もし、でびノートが本物なら…。

今日の11時に、阿部の両腕がもげる…。

…あと一回…。

…あと一回、地獄の休み時間を乗り越えれば…。

…楽になれる…。

…。

…。

…いや…。

…何を考えているんだオレは…。

…よ〜く考えてみろ…。

…オジサンはああ言ってたけど、

実際でびノートが願いを叶えてくれるという保障はどこにもない…。

…もし、本物でなければ、阿部の手による地獄はまだまだずっと続く…。

…何日も…何ヶ月も…。

…下手したら何年も…。

…変に期待するのは、やっぱりやめよう…。

…裏切られてガッカリするのは…もううんざりだ…。

オレはでびノートに期待するのを辞めた。

そして、次の休み時間、なるべく痛く無い態勢をどう取るかを考えた。

キーン コーン カーン コーン…。

10:35

休み時間に入るチャイムが鳴る。

ガタッ。

「…じゃ、先行ってるからな。

…バックれんじゃ無ぇぞ…」

阿部は真っ先に教室を出て行った。

…オレも、ゆっくりと席を立ち、体育館裏に向う。

…でびノートが本物であれば、この一回をバックれるのもアリだろう。

…でも、でびノートが本物じゃ無い場合、

一回のバックれは、物凄く倍増して次の暴力に反映される。

…そんなの怖すぎる…。

重い足取りで、オレは体育館裏にやってきた。

…!?

「オラーもっと気合いれて掃け〜!」

「ひ…ひぃ…」

…何だ?この光景は?

体育館裏に来ると、阿部と二人の舎弟は、痣だらけの顔で、

せかせかとホウキを持って掃除をしていた。

…そしてその三人を監視するかのように腕を組んで立っている女子生徒…。

「オイ!オマエ、名前何て言うねん」

「ひぃ…。あ…阿部です」

「おう。阿部か。

南米のマラソン選手みたいな名前やな」

「…」

「オイ!今ウチ、おもろい事言うたんや。

笑えや!」

「…は…はは…」

…あの女子生徒は…。

…アレは、隣のクラスの八木さんだ…。

…噂によれば、たしか中二にして、既に三年の番長も締めてしまったと聞く。

…さすがの阿部も、あの八木さんには叶わない…ってワケか。

…皆から恐れられている八木さんだが、

今の僕にとっては天使のような存在に感じる。

「…ん?オイ!そこ!誰かおるんか!」

八木さんが、オレの気配を感じ取ったらしい。

オレの動物的本能は、逃げられないと結論を出した。

「…は…はい…すいません…」

ゆっくりと、角から姿を現すオレ。

「…ん?オマエ誰や?」

「…あ…あの…馬上といいます…」

「…で、何の用や?

ココはウチのお気に入りの場所やねん。

親の死以外の理由では来んといて欲しいんやわ」

「そ…そうなんですか…すいません…

…そこの、阿部に呼ばれて…」

阿部を指さすと、阿部は何とも言えない表情になった。

阿部を見る八木さん。

「またオマエかぁ!!!

オマエ、ウチのお気に入りの場所をボロボロに汚しやがって!!

ここはオマエのパーティー会場か!

あぁ!?」

…おそらく、八木さんの休憩場所でも無いと思うが…。

「ひぃ…す、すいません…」

阿部はよっぽど酷い目に遭わされたのだろう。

八木さんの一言に対し、イチイチ縮こまってしまっている。

破れたズボンから丸見えのお尻には、

人参が突き刺さっている。

いい気味だ。

結局、その時間、

オレは掃除をさせられる三人を見学していた。

かなり殴られる事を予想していただけに、

まるで天国にいるかのような10分間だった。

授業開始のチャイムが鳴ると、八木さんは体育館裏で昼寝を始めた。

…何というか、この人からは【自由】を感じた。

三時間目。

美術の時間。

教室で、先生が何やら色の説明をしている。

青緑と緑みの青がややこしい。

授業を受ける最中、後ろから阿部が鉛筆で突付いてくる。

阿部は小声で、

「…オマエ、さっき笑ってたろ?

覚えてろよ?

次はこの屈辱の分も加えてボコボコにしてやるからな?

下手したら殺すぞお前?」

等とオレに言っている…。

…正直怖い…。

…嫌だ…。

…そして、オレを突付いているのが鉛筆では無く人参だと判明した。

…物凄く嫌だ…。

「はい!以上だ!

じゃ、今日はその色を利用して風景画を描いてもらいます!

今からグラウンドに行きま〜す!」

授業開始から10分ほどが経過しただろうか?

突如、先生がそう言い出した。

授業中、外に出れるから何となく嬉しそうな皆。

「…オマエ、オレと一緒に行動しろよ…」

ボソっとオレに言う阿部…。

…怖い…。

グラウンドに出た。

皆、各々好きな場所に座って風景画を描く。

…オレは、阿部に腕をつかまれ、先生からは見えない離れた場所へと連れられた。

遅れてやってくる、阿部の舎弟二人。

「…オイ、マーガリン。

オマエ、なんでオレ達がこんな傷だらけになったか知ってるか?」

不機嫌そうに言う阿部。

「…えっ…。

…それは…あの八木さんの縄張りに…」

「うるさい!黙れ!!

全部オマエのせいだ!」

「…えっ…そんな事言われても…」

「オマエがあんなに遅く来なければ、オレ達はこんな目に遭わなくてすんだんだよ!!

オマエが先に来てれば、全部オマエのせいにできたんだからな!」

…むちゃくちゃだ…。



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