でびノート(6)

創作の怖い話 File.52



投稿者 でび一星人 様





オレはそんなモヤモヤした気持ちを抱え、校庭を横断し、校舎へと向う。

「おーーい!マーガリン!!!」

校舎横断中のオレに対して、頭上から声が聞えてきた。

ゆっくりと顔をあげる。

「ヘヘ。よく無視しなかったな!」

阿部だった。

阿部は二階の窓から、手と頭を乗り出すように、窓枠を脇でまたいでいた。

「オイ、マーガリン!早く来いよ!

暇なんだよ!遊ぼうぜ!

ヘヘヘ…」

阿部は嫌な笑い方をして、オレにオイデオイデをしている。

…くそう…。

行きたくないよ…あんなやつの居る教室になんか…。

…でも、行かないワケにはいかない…。

オレはゆっくりと歩を進める。

なるべく阿部を見ないようにして…。

…そして数歩進んだところで、ある事に気が付いた。

三階。

…そう。阿部が身を乗り出している場所の丁度真上。

…そこの窓を、先生と数人の野球部員が直しているのが目に入った。

きっと、野球部の誰かが大きなホームランでもかっ飛ばして割ったんだろう…。

…ドクン…。

何だ?

今、オレの胸がなぜか高鳴った…。

…身を乗り出している阿部…。

…その真上で、窓を取り外している…。

…もし、今あの窓が落ちて来れば…。

ドクン…。

胸がまた高鳴る…。

…でびノート…。

…そうだ…。

オレは昨日、でびノートに…たしかこう書き込んだ…。

【阿部司の両腕がもげて、学校に来れなくなる】…と…。

ドクン…ドクン…。

まさかあのノート…。

  …いや、でもまさか…。

 …そんな事あるワケない…。

…でも…。

…もし…あの窓が落ちてきたら…。

…落ちろ…。

  …窓よ…落ちろ…。

オレの心の中に…悪魔が訪れたのだろうか…。

オレは今、あの窓が落ちてきて、阿部に当たって欲しいと心底願っている…。

「オイコラー!マーガリン!!! 早く来いやぁ!! 暇だっつってんだろうがぁ!!!」

阿部がオレに叫ぶ…。

だが、オレの視線と意識はそんな阿部では無く、三回の窓に向けられている。

…落ちろ…。

窓よ落ちろ!!!

野球部員…手を滑らせろ!!!!!!!!!!!

「あっ!」

…その時だった。

三階の野球部員が手を滑らしたのが見えた。

阿部に向かい、下へと落ちる窓。

まさか本当に…!!!

僕の顔はニヤケていただろう…。

当たれ…。

阿部に当たれ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

…だが、反射神経の良い阿部は、とっさに頭上から迫るピンチに気が付いたんだろう。

すぐさま頭を引っ込めた。

そして少し遅れて腕も…。

シュ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜…。

ガシャーーーーーーーン!!!!!!

2階を通過し、地面に叩きつけられ、物凄い破壊音を奏でる窓…。

…阿部は…。

阿部はどうなった…!?

僕は2階を見上げる。

…2階の窓から、阿部の顔が見えた。

…阿部は…無事だったのか…。

阿部の顔はオレを睨んでいた。

そしてゆっくりと、阿部はまた窓から身を乗り出す。

そして怒った表情でオレに言う。

「…おいコラマーガリン。

オマエ…なんで笑ってんだよ?あ?

…オマエ…オレに死んで欲しいとか思ってんのかよ?あぁ?」

窓から顔を出した阿部は怒っている…。

「オマエ、ちょっとそこで待ってろ!」

阿部はそう言ってオレを指さした。

そして窓から姿を消した。

…嫌だ…怖い…。

阿部は…オレを殴りに来る…。

地面に叩きつけられた窓ガラスを見る。

酷い有様だ。

…だが、被害者は誰も居なかったらしい。

硝子や窓枠はグシャグシャだが、血と思われる赤い液体は一滴も見当たらなかった。

ゾロゾロと、地面に落ちた窓に群がってくる登校中の生徒や教師。

…そしてその人ごみの中から抜け出してくるように…阿部が現れた。

阿部はゆっくりゆっくりとオレに近付いてくる…。

怖い…。

  怖い…。

阿部の顔は、100パーセント怒っている…。

 怖い…。

   殴られる…。

 怖い…。

阿部は、あの一瞬で顔と手を引っ込め、無傷のようだ…。

怖い…。

そうこう考えている間に、阿部はオレのすぐ目の前までやってきた。

「…コラ、マーガリン。

オマエ、今笑ってたろ?

性格悪いぞお前?

下手したら、オレ死んでたんだぞ?

オマエの友達が死ぬんだぞ?

何笑ってんだよ?」

「ご…ごめ…」

   ゴスッ!!!

景色が揺らいだ。

…阿部のパンチを、もろ頬に受けた。

口の中に広がる鉄の味…。

オレの体が後ろに吹っ飛んだ。

「…こんなもんで済むと思うなよオマエ…。

ボコボコのズタズタにしてやっからよぉ!」

阿部はオレの体に覆いかぶった。

「す…すいません…ゆ…ゆるひて…」

「オラァ!!!」

阿部のパンチが振り下ろされる。

オレは目を閉じる。

…くそう…。

でびノート…。



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