リトル・へご(1)

創作の怖い話 File.201



投稿者 でび一星人 様





やあ!


皆、元気?

僕の名前は【へご吉】

僕の大好きな【ナベイ】が付けてくれた名前なんだ!


 今日はね!

【ナベイ】の弟の、【カマジ】と一緒に、サンポをしてるんだ!

しかも今日は遠くまで来ている。


『リョコウ』感覚のサンポらしい。


『ストレス』の溜まったカマジに、お父さんとナベイが勧めたらしい。





 「・・・お〜い・・・ブレッド〜。 行くぞ〜。」

 「・・・。」


カマジが呼んでるみたい・・・。


でも、僕には【ヘゴ吉】って名前がちゃんとあるんだ!




 「・・・チェ・・・行くぞ、へご吉・・・。」

 「ぱんっ!」


 僕はカマジの方へ向かって走った。


 カマジは、たまに僕を【ブレッド】と呼ぶ。


カマジは僕の名前をそうしたかったみたいだ。


僕はカマジも好きだけど、ナベイはもっと好きだ。

だから僕はナベイの付けた【へご吉】って名前にしか反応しない事に決めてるんだ。



 僕はカマジの横に付いて歩く。

僕はカマジとの散歩が好きだ。


カマジは、皆に内緒でいつも僕の首輪を外してくれる。

カマジいわく、

「・・・オマエは賢いから、逃げないだろ・・・。」


だそうだ。

カマジは人間の中では頭が良い方みたいで、

僕がちゃんと空気読める事を理解してるみたいなんだ!




 

 カマジと僕はしばらく古い家を見ながら歩き、

少しカマジが疲れてきたみたいなので、ベンチに座って休む事になった。

僕はカマジの足元にチョコンと座る。



 「・・・ふぅ・・・少し疲れたかい?へご吉・・・。」

「ぱんぱんっ!」

「・・・そうか・・・お前は元気だね・・・。 

僕は・・・付かれたよ・・・。

昔はこれでもスリムだったんだよ・・・。

今ではドロンズ並に太ってるけどね・・・。」

たしかに、カマジは日に日に太って行ってるみたいだ。

幸せだから太ったのかな?

でも、カマジはなんだか幸せそうじゃない。

 お父さんやナベイが出かけた時、

よく頭をかきむしって難しい顔をしてるカマジを見る。

カマジはきっと、いっぱいいっぱい悩み事があるんだろうな。



 ぺろっ。

僕はカマジの膝に前足を乗せ、手をぺろりと舐めた。


「・・・ん?何だ・・・? 慰めてくれてるのか・・・?」


「ぱんっ!」


「・・・フフ・・・そっか・・ありがとう・・・。」



カマジはそう言うと、メガネをクイっと上げて笑った。







「・・・よいしょっと・・・。」


しばらくして、カマジはゆっくりと立ち上がった。


「・・・へご吉、ちょっとここで待ってて・・・あそこでマンジュウ売ってるみたいだから、

買ってくるよ・・・もちろん、へご吉の分もね・・・。」


「ぱんっ!ぱんぱんぱんぱんっ!」


 カマジはそういうと、重そうな体でのっしのっしと歩いて行った。



「ハッハッハッ!」


僕はマンジュウが大好物だ。

興奮が抑えきれない。



 僕のシッポはMAXに振り回されている。



 あぁ・・・。

はやく来ないかなぁ〜〜。


マンジュウとカマジ・・・。





 

「ワンッ!ワンワン!」



 と、その時、

背後から犬の鳴き声が聞えてきた。


ゆっくりと振り向く。

「ワンワン。(オイ、オレ様の縄張りで何やってやがる小僧。)」


どうやら、このあたりを仕切っている野良イヌらしい。

体はキズだらけで、とても強そうな犬だ。


「ぱんっ!ぱんぱん!(ごめんなさい!

僕、へご吉。カマジがちょっと買い物に行ってるから、ここで待ってるの!)」


「ワンワンワン(へご吉・・?はんっ。変な名前だな。 それに、お前変わった鳴き方してるな。)」


「ぱんっ。ぱんぱんっ(え?僕の名前変なの? それに鳴き方は皆違うんじゃないの?)」


「ワンワン(・・・ああ。お前は変だ。間違いない。 オレ様は、過去幾度と無く色んな狂犬と戦って来た。

だから間違いない。 お前は変わってる。)」


「ぱ・・・ん・・・。(し・・・しらなかった・・・。)」



「ワ、ンワンワン。ワンワンワ(フ、まあいい。とにかく、主人が来たらすぐに去れよ。 

ここはお前には危険だ。 オレ様の縄張りとはいえ、荒くれ者は沢山居る。

・・・話の通じないやつもな。)」


「ぱんぱん(そ、そうなの?へぇ!教えてくれてありがとうおじさんっ!オジサン、優しいんだね!)」


「ワン・・・。(フ、よせよ・・・。オレ様は優しくなんて無い・・・。 

お前とも・・・場合によっては今後殺しあう事になるかもしれんのだ・・・。

変に情をもつなよ・・・。 イヌ界で生きる為の鉄則だ。 覚えておけ。)」


「ぱん(う・・うん・・・。お、覚えておくよ・・・。)」


「ワンワ ワワン(・・・じゃぁな・・・小僧・・・。)」


おじさんはそう言うと、ゆっくりとどこかへ歩いていった。


 
 なんだか、見た目は怖そうなおじさんだったけど、

きっと本当は優しいおじさんなんだろうなぁ!

・・・遅い・・・。


おじさんが去ってからしばらく経った。


でも、カマジが戻ってこない・・・。




『・・・へご吉、ちょっとここで待ってて・・・』



・・・カマジはそう言ってたけど・・・。


こんなに遅いのはおかしい・・・



もしかして・・・


カマジ、事故にでも遭ったのかな!??


それとも・・・



僕は捨てられたのかな・・・。




 なんだかとても悲しくなってきた。




「ぱんっ!ぱんぱん!!!」


僕は大きな声で鳴いた。


・・・でも、カマジは戻ってこなかった。



・・・よしっ。


カマジのところへ行ってみよう!




クンクン・・・。


僕は匂いを頼りに、カマジの後を追った。



カマジの匂いは、地面にちゃんと残っていた。




クンクン・・・



   クンクンクン・・・。




・・あれ?おかしいぞ?



カマジの匂いが、途中で途絶えていた。



 右も左も、前も、



ここから先にカマジの匂いがまったく無い・・・。



 どういう事だろう・・・。


カマジ、あんなにデブなのに、空でも飛んだのかな?



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