リトル・へご(2)

創作の怖い話 File.202



投稿者 でび一星人 様





僕がキョロキョロしていると、数人のオバサンが買い物袋を下げて話をしてるのが見えた。



「ほんと、さっきのお兄ちゃん大丈夫かしらねぇ。」


「ほんとほんと・・。急に倒れて救急車で運ばれるなんてねぇ。」


「意識無かったみたいよぉ。」





・・・急にたおれた?


 救急車?


    意識が無かった?




「ぱん!ぱんぱんっ!」




 僕はいてもたってもいられず、そのオバサンたちに吠えた。



「ま!なにかしら、このチビ犬! 首輪してないわ。野良よ!野良!


保健所に電話しなきゃ!」



 オバサンたちはギャースカピースカ言ってる。


僕はイヌの第六感で、身の危険を感じたのでこの場を去った。




 近くには大きな川が流れていたので、川沿いの道をずっと走った。


走って走って走った。





 「はぁ・・はぁ・・・。」



さすがに息がきれてきた。




 明るかった空も、だんだんと薄暗くなってきた。





 僕は草のおい茂る原っぱにたどり着いたので、その場に座り込んで休む事にした。

草の匂いは、なんだか落ち着くけれど、


カマジ・・・心配だよ・・・。



「ぱーーーーん!」



吠えてみても、カマジからの返事は返ってこなかった・・・。





 



 夜になった。




真っ暗な景色の中、草が風に揺れる音と、川のせせらぎが聞える。


 僕はうずくまって目を閉じた。


夜は少し寒い。



カマジ・・・僕・・・寂しいよ・・・。



 

 
 「ワンワン!(オイ!ちっさいの!そこで何してる!)」



目を瞑ってじっとしていると、突然後ろから声が聞えた。


見ると、3匹のイヌが立っていた。


遠くに建ってる家明かりにぼんやり照らされた三匹。



 太ったイヌと、 痩せたイヌと、 性格の悪そうなメスイヌだった。



「ぱんぱん(あ・・・僕、へご吉って言うんだ。君たちは?)」


「ワンワン!(名前なんて聞いてねえよ!何してるんだって聞いてるんだよ!)」

太ったイヌが言った。


「ぱん・・・。(ご・・・ゴメンね・・・。 僕、飼い主とはぐれちゃって・・・迷ってたらここに辿りついちゃったんだ・・・。)」


「ワンッ。(はんっ。お前、飼い犬か。 どおりで弱そうだと思ったぜ。・・・すぐにここから出て行きな。

ここはオレらの縄張りだ。 ぶっ殺されなかっただけでもありがたいと思え!)」


「ぱ・・・ん(そ・・そうなんだ・・・。ゴメンナサイ・・・。)」


太ったイヌにそう言われたから、


僕はとぼとぼと、また真っ暗な道を1匹歩いた。

・・あぁ・・・



おなか空いたなぁ・・・。




気づけばお腹がペコペコで、


歩く元気も無くなってきた・・・。



「ぱん・・・。(あぁ・・・このままここで寝ちゃおっかな・・・。 

でも、ここで寝たら、また誰かが『オレの縄張りだ』って言ってくるんだろうな・・・。)」


・・・でも・・・もう疲れた・・・。


僕はその場に座り込んだ。



「ワン・・・。(オイ、小僧。そんなところでなにしてるんだ・・・。)」



・・・やっぱり、後ろから声が聞えてきた・・・。




「ぱん・・・。(ごめんなさい・・・僕、疲れちゃって・・・。少し休ませて欲しいんだ・・・。)」




そう言って僕は振り向いた。



「ワン?(ん?)」


「ぱん!(あ!)」






 「ぱんっ!(オジサン!)」



そこには、昼に出会ったオジサンが立っていた。




「ワン(・・・ん?昼の小僧か? こんな所で何やってるんだ・・・。 飼い主はどうした?)」



「ぱん・・・。(オジサン・・・僕、カマジとはぐれちゃったんだ・・・。

カマジ、もしかしたら何か病気で倒れちゃったかもしれないんだ・・シクシク・・・。)」


僕は泣いてしまった。


「ワン・・・。(・・・坊主・・泣くな・・・。 泣いても、だれも助けてはくれんぞ・・・。 野良とはそういうものだ。)」


「ぱん・・・。(シクシク・・・オジサン・・・僕、野良になっちゃうのかな・・・。)」


「ワン。(・・・さぁな・・・ただ、その覚悟はしておいた方が良い・・・。 )」


「ぱん。(そっか・・・。悲しいなぁ・・・。)」


「ワン(・・・じゃあな。坊主。 ここも安全とは言えない・・・せいぜい気をつけな・・・。)」


オジサンはそう言うと、トコトコとどこかへ歩いていった。

そっか・・・。



僕らイヌには、


飼い主が居ないと、



安心できる場所なんて無いんだね・・・。




でも・・・・。



眠いや・・・。



ここで寝ちゃおう・・・。











 僕は少しだけ寝た。


1時間か?


2時間か。



 お月様は少しだけ位置を変えていた。







 「ワンワン!(オイコラ!ちいさいの! オレたちの縄張りから出て行けって言っただろうが!)」



枕元から声がした。



起きて見ると、さっき僕に絡んできた、太ったイヌ、痩せたイヌ、性格の悪そうなメスイヌが居た。



「ぱん・・・。(あ・・・ゴメンナサイ・・・僕・・・眠くて眠くて、お腹も空いて動けなくて・・・。)」


「ワン!(言い訳なんて良いんだよ! オイ、お前ら、コイツを今からぶっ殺すぞ! 

1度言って解らないヤツは体で覚えさせなきゃな・・・まあ、覚える前にこの世から消えてるけどな。はっはっは。)」


太ったイヌの指示で、痩せたイヌと性格の悪そうなメスイヌは僕を取り囲んだ。




「ぱん。(ゴメンナサイ、ゴメンナサイ・・・乱暴はやめて・・・。)」



僕は怖かった。


だからじっと震えて目を閉じていた・・・。

「ワン!(行くぞ!かかれっ!)」


太ったイヌの掛け声と共に、三匹は一斉に僕に飛び掛った。





「キャイーーーン!!!!」









 三匹の叫び声が深夜の川辺に響き渡った。





 


「ワン(・・・坊主・・・今回は特別だぞ・・・。)」



僕はゆっくり目を開けた。



「ぱんっ!(オジサンっ!)」



目を開けると、僕の前には大きなオジサンの姿があった。


オジサンの前には、バタンQになったさっきの三匹の姿。



「ぱんぱん!(助けてくれたんだね!オジサン!ありがとう!)」


「・・・ワン(・・・勘違いするな・・・。 たまたまここを通りかかっただけだ・・・。)」


オジサンはそう言うと、ゆっくりとバタンQ三匹に歩み寄り、鼻をペロっと舐めて起こしてあげていた。



気がついた三匹はオジサンの姿を見て震え上がった。



「ワ・・・ワン(ひ・・ひぃ〜〜〜。ア、アナタは【夜霧のジル】・・・

な、なんでオレたちなんかの縄張りに・・・。か、簡便してくださいよぉ・・・。)」


太ったイヌは、さっきまでとは打って変わって腰の低い態度でオジサンにそう話していた。


「ワン(・・・すまんな・・・。 少し散歩をしていてな・・・ 邪魔したな。 このチビはオレ様の連れだ。 オイ、いくぞ!)」


オジサンは僕をチラリと見てウインクした。


「ぱ・・ぱん。(う・・・うん。)」


僕はトコトコとオジサンに付いていった。




三匹はキョトンと僕らを見ていた。




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