無人の玄関(3)

創作の怖い話 File.189



投稿者 でび一星人 様





・・・ん?



「・・・そうだ・・・。」


なんと、良い案が頭の中で閃かれていた。


「ん?どないしたんや!鎌司!」

「ぱんっ!」


姉ちゃんと、子犬が僕をじっと見る。


「・・・ようは・・・さ、

近所や大家さんに、犬を飼ってるって、

バレなければ良いわけだ。」


「お、オウ!そうやな。 ほんで具体案は?」

「ぱんっ!」


「・・・うん。

とりあえず・・・さ、

この子犬は、家でいくら鳴いても、犬ってバレないよね・・・。

【ぱん】って鳴く犬は、たぶん他に居ないから・・・。


だから、散歩に行く時に、他の人に一切解らないようにすれば良いんだ・・・。」



「ほうほう・・・なるほど・・・。」

「ぱんっ!」


「散歩に行く時には、何か変装できるような気ぐるみを着せよう・・・。

それでOKじゃない?」


「な・・・なるほどな・・・。

何や、大分苦しい案やけど、ソレで行こう!

鎌司が言うた事は、何かうまく行くようになってるから。

昔っから。」


「ぱんっ!」


「・・・。」

僕と姉ちゃんは、子犬を連れて家に帰った。


父さんはけっこう飲んでいたらしく、


駐輪場の父さんの自転車の横に、父さんのパンツが落ちていた。

とりあえずそのパンツを子犬に着せ、

僕らは部屋に帰った。


そして父さんを説得してみると、

思ったよりアッサリ受け入れてくれて、


「面白い鳴き方じゃないか〜 オイデオイデ!・・・ヒック」


って、


ものすごくかわいがっていた。


・・・明日になったら、酔いが冷めて覚えていないかもしれないから、念書はきっちりととった。




 その後、

眠りに就いた父さんを寝室に置き、

僕と姉ちゃんは、部屋に入って大事な話し合いをする事となった。


題して、【子犬の名前決め選手権】


「そら、こいつは【へご吉】や! ウチが拾ってきたんやさかい、へご吉で決まりや!」

「・・・一体その名前の由来は何なんだよ・・・。」

「由来とか、難しい単語使わんといてくれ! インスピレーションや!」

「・・・横文字、意味解ってるのかよ・・・。」

「ところで、何や?鎌司も、付けたい名前とかあるんかいな?」

「・・・あるよ・・・。」

「言うてみぃ。」

「・・・【ブレッド】って、どうだろう・・・。『ぱん』って鳴くから、いいかな・・って。」

姉は少し考えて、

「フン。ぜんぜん却下やな! へご吉の足元にも及ばんわ!」

と、鼻で笑い飛ばした。

なんだかカチンときて、

「・・・姉ちゃんこそ、センス無いんじゃないの・・・服だってダサいし・・・。」

と、チクっと攻撃した。

「な、何やて〜〜〜!服は今関係ないやろ!」

「・・・そうだね。センスの話だったね。 姉ちゃんが良いと思う名前、何だったっけ?・・・」

「へ・・・へご吉やけど・・・。」

「ふ・・・。」

鼻で笑ってやった。

「お、おい!鎌司オマエ今、鼻で笑ったやろう!」

「・・・気のせいじゃないの・・・ふ・・・。」

「アアア!!笑った!お前今わらった!ちょっとオモテ出ろや!この引きこもりが!」

「ひ・・・引きこもりだって・・・? 姉ちゃん、僕の気にしてる事を・・・いいよ。オモテ出よう。

僕だって元高校球児。女でIQ20くらいしかない姉ちゃんになんか負けないよ・・・!」

「IQ20やと〜〜〜?オマエ、ウチを舐めるのもたいがいにせいよ〜〜〜?

もし、それ、褒めてるんならありがとう!」


 僕と姉ちゃんはにらみ合いながら玄関に向かった。

その時だった。


「ぱんっ!!!」


子犬が僕らを見て、しっぽを振りながら鳴いた。

「ん?どうしたんや、へご吉?」

「・・・どうしたの?ブレッド・・・?」


「ぱん!ぱんっ!」


 子犬は玄関に向かって、少し鋭い視線を送りながら鳴いている。

僕と姉ちゃんは、玄関をそっと見た。









・・・何も無い・・・。



でも・・・





なんだか、変な空気を感じた。





姉ちゃんも、なんだかソレに気付いたらしい・・・。



「ぱんぱんっ!!!!」


ブレッドは、玄関に向かって鳴き続けている。

「・・姉ちゃん、部屋に戻ろう・・・もう一回、ちゃんと話し合おう・・・。」


「そ・・・そうやな。少し頭冷えたわ・・・戻ろうや・・・。

 ところでIQって何や?」



僕と姉ちゃんは部屋に戻り、ブレッドを真ん中に置き、また討論を始めた。







・・・ピンポーン




その時だった。



玄関のチャイムが鳴った。





「・・・誰だろう・・・こんな時間に・・・。」




僕と姉ちゃんは立ち上がり、インターフォン用の受話器をとった。


「・・・はい?」


僕が出たが、無言。



それを察したのか、姉ちゃんが僕から受話器を奪い取り、


「はい?どちら様ですかね?」


と、少し強い口調で言った。


ガチャン!



姉ちゃんは受話器を強く切った。


「・・・無言や。けったくそ悪い。ピンポンダッシュや。因果応報やな。 昔よくやってたツケが回ってきとるんやろう。」

「・・・姉ちゃん・・・よくその四字熟語知ってたね・・・。」

ピンポーン・・・










またチャイムが鳴った。







 「・・・ったく・・・しつこいな・・・。」




僕が受話器をとろうとした、その時だった。



「か・・・鎌司・・・。」


姉ちゃんが少しこわばった顔で僕の肩を叩く。



「・・・何・・・?」



「あ・・・アレ・・・。」




姉ちゃんは、最近取り付けた、玄関が映し出されるモニターを指さしていた。


部屋から外の様子が伺える優れものだ。





「・・・ん?」



僕は、すぐに違和感に気づいた。





モニターには、




誰も映っていない。

























ピンポーン・・・。











またチャイムが鳴る・・・。






モニターには誰も映っていない・・・。



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