無人の玄関(4) |
創作の怖い話 File.190 |
投稿者 でび一星人 様 |
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「鎌司・・・これ・・・何やろ・・・故障かな・・・。」 僕は受話器にゆっくりと手を伸ばす。 「ぱんっ!ぱんぱんっ!!!!」 その時だった。 ブレッドが、僕の足におもいっきり噛み付いた。 「いたいっ!!!!」 僕は受話器をとった瞬間、その場にしゃがみこんだ。 「ぱんっ!ぱんぱんっ!!!」 ブレッドは、受話器に向かって鳴き続けていた。 僕と姉ちゃんは、そんなブレッドの姿をしばらく眺めていた。 数分後。 ブレッドは急におとなしくなった。 そして、優しい表情に戻っていた。 「・・・一体、何だったんだろう・・。」 僕は受話器をそっと元の位置に戻した。 その日はなんだか僕も姉ちゃんも怖かったから、久しぶりに一緒に寝た。 間にブレッドを挟んで・・・。 サンドウィッチの逆バージョンだ。 翌朝。 僕と姉は、まだ論争に決着がついていなかった事を思い出し、すこしばかり口論をした。 その結果、 なぜか姉が『へご吉!」と呼ぶと元気に「ぱん!」と返事するのに、 僕が『ブレッド!』と呼んでも素無視する事から、 子犬の名前はへご吉に決定した。 ・・・僕は・・・ブレッドの将来の事を考えて、良い名前にしてあげようとしたのに・・・。 口論の際、「変な名前をつけられて、この子犬が大きくなった時に困るんじゃないか?」という事を姉ちゃんに言った。 すると姉ちゃんは、「ウチらは大丈夫やったやんか!」と、妙に説得力のある一言をぶつけてきた。 あの一手は、球史に残る一手だろう・・・。 「ほんじゃぁ、いってきま〜す。」 姉は勝利の笑みを浮かべ、出勤していった。 「・・・いってらっしゃい・・・。」 僕はじゃっかん不服な口調でそう言った。 ブレ・・・へご吉は、スヤスヤと寝息をたててまだ寝ている。 「・・・ブレッド〜〜〜・・・。」 僕はそっと小さな声で呼んでみた。 「・・・・。」 ・・・無反応・・・。 「・・・へご吉〜〜〜〜・・・。」 こんどはこっちの呼び方で呼んでみた。 「・・・ぱん・・・。」 ・・・へご吉は、寝ながらもちゃんと返事をした・・・。 ・・・絶対、ブレッドの方がセンスあると思うのに・・・。 ドタドタドタ! その時、廊下からものすごい足音が聞えてきた。 驚いて廊下に出てみると、 ・・・姉ちゃんだった。 「・・・ど・・・どうしたの?」 「か・・・かかか・・・鎌司!ちょ・・ちょっと来て!!!」 姉ちゃんは僕の手を引き、玄関に引っ張っていった。 そして外に出て、家のドアを僕に見せた。 ゾっとした。 家の玄関のドアの外側には、 妙な形の手形がビッシリとついていた。 大きなもの、ちいさなもの、 指先がとがったような形のモノや、指が無いもの。 まさに、【一面ビッシリ】といった感じだった・・・。 「き・・・昨日のアレ・・・。」 姉ちゃんがそう言う前に、僕は昨日の出来事と、この手形を結びつけていた。 ・・・もし、あの時、 へご吉が鳴いて僕らがドアを開けるのを引き止めてくれなかったら・・・。 もし、あの時へご吉が噛み付いて、僕がインターフォンに出るのを阻止してくれなかったら・・・。 どうなっていたのかは解らないけど・・・ もしかしたら無事だったのかもしれないけど・・・。 なんとなく、へご吉が僕を助けてくれたような気がした。 動物には、人間に見えないものが見えるというのを、昔チラっと聞いた事がある。 だからもしかしたら・・・ヘゴ吉はあの時、ハッキリと何かを見ていたのかもしれない・・・。 そして助けてくれたのかもしれない・・・。 姉ちゃんが職場に行った後、僕はドアの手形を綺麗にふき取り、へご吉のいる部屋に戻った。 へご吉は、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っていた。 僕はへご吉の耳元で、そっと呟く。 「・・・ブレッド〜〜〜・・・。」 「・・・。」 やっぱり無反応な事に少し凹んだ。 ★→この怖い話を評価する |
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