夏に咲く桜(10) |
創作の怖い話 File.151 |
投稿者 でび一星人 様 |
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数日後――― いよいよ決戦の日はやってきた。 「おはよう!八木君!」 ウチボが元気良く挨拶する。 「・・・あ、おはようございます・・・。」 鎌司も返事を返した。 「今日は頑張ってね。 先生は名目上監督としてベンチに座って本でも読んでるから。」 「・・・はぁ・・・。」 第一試合が終わったようで、ゾロゾロとベンチから他校の選手が引き上げてくる。 親指高校は二試合目なので、入れ替わりでベンチ入りする。 「いよいよやな、鎌司。 オレたちの最後の夏が始まるな。」 キャプテンの下葉が鎌司に声をかける。 「・・・ああ・・・そうだね・・・。」 鎌司は静かに返事をした。 鎌司の拳は強く握り締められていた。 それは言葉や態度とは裏腹に、 鎌司の気持が高ぶっている事を現していた。 鎌司達がアップをしていると、OL学園の選手もゾロゾロとベンチに入ってきた。 「・・・とうとう来たっスね・・・。」 優真の表情が引き締まった。 どの選手も一流の英才教育を受けた選手ばかり。 そのオーラを肌で感じているのだろう。 キャプテンの下葉がOL学園のオーダーを持ってやってきた。 「・・・鎌司、やっぱすげぇわ・・・。 このオーダー、どこぞのスポーツ新聞で見た事ある選手ばっかりやで・・・。」 鎌司も、姉がバイトするコンビニでたまに高校野球雑誌やスポーツ新聞をタダ読みさせてもらっていたから、 少しばかりの知識はあった。 鎌司はオーダーを見た。 【 OL学園 先発オーダー 1番 ショート 待井 稼頭央 2番 セカンド 竜浪 和義 3番 ライト 服留 孝介 4番 ファースト 清腹 和博 5番 サード 今丘 誠 6番 ピッチャー 桑太 真澄 7番 レフト 咲来 広大 8番 キャッチャー 喜怒 克彦 9番 センター 王村 サブロー 】 「・・・すごいオーダーだね・・・。打つだけじゃなく、守りも足も揃ってる選手が多い・・・。」 「ほんまにな・・・。 鎌司、何か作戦はあるか? 何なら今のうちに聞いとくで?」 下葉は鎌司に近付き聞いた。 「・・・そうだね・・・。 とりあえず、円陣を組もう。 試合前に少しだけ話したい事があるから・・・。」 「お、おっしゃ。わかったで。 ほしたら皆集めてくるわ!」 下葉はそういうと皆を呼びに走って行った。 皆をベンチ前に集めて円陣を組み、鎌司が話しだした。 「・・・皆、今日ここに9人集まってくれた事、本当に感謝している・・・。 監督の内場先生がまったく野球を知らないという事で、僕が指揮をとらせてもらうんだけど、 一つお願いがある・・・。 僕の出したサインがおかしいと思ったら、無視してもらっても構わない・・・。 ・・・自分の正しいと思った事を、自分の精一杯の力でやってほしい・・・。 ・・・半信半疑なままで何かをする事だけはやめて欲しい・・・。 とにかく、自分の力を全て注ぎ込める事をやってもらいたい・・・。 ・・・だからもし、答えがまったくわからないのであれば、 僕の指示を利用して、迷わずにそれをやって欲しい・・・。 そうすれば、自ずと100に近い力が出せると思う・・・。 以上。 皆、相手はOL学園。 胸を借りるつもりで共にがんばろう・・・。」 「お、オーー!!」 「オーー!!」 「おー!!」 それを横で聞いていたウチボは、 (八木君、いつの間にこんなカリスマ的要素を備えたのかしら。 チームが一つになったわ・・・。) と感心していた。 「おお〜〜〜。 す、凄いなぁ。OLの応援団は・・・。」 鍋衣と吉宗が少し遅れて、観客席にやってきた。 そしてまずは相手応援席の【数】に圧倒された。 200人?300人以上居るだろうか・・・。 豪華なブラスバンドまで出動している。 吉宗はチアリーディングのパンチラに釘付けだ。 「・・・おい!おい!吉宗!」 「ん・・あ、あぁ。何?鍋衣ちゃん。」 「お前、何見とれてんねん・・・。 そんな事より、何やねん。ウチラの応援客は・・・。 吉宗とウチの2人だけやないか!」 「ん・・・まあ、仕方無いな・・・。 いかんせん、創部以来1勝もしてない高校やからな・・・。 OBとして申し訳ない!!」 「まあ・・・そないに気にすんなや、昔の事は。 吉宗がヘタクソやったって事やんけ。」 「・・う・・うん・・・。」 鍋衣は少しテンションの下がった吉宗をヨソに、「ちょっと借りるで」と、 吉宗が持っていた双眼鏡を手に取った。 「どれ。OL学園の連中がどんなツラしてるんか拝んでみるかな。」 双眼鏡でノックを受けているOL学園の選手を見る鍋衣。 「おぉ〜。 なかなかゴツイ体してるなぁ。 高校生かコイツらホンマに。」 双眼鏡を覗く鍋衣に、気持を切り替えてケロっとした吉宗が解説を始める。 「・・・まあ、今年のOL学園の注目はなんと言っても【KKコンビ】やろうな。」 双眼鏡を覗きながら鍋衣が返事をする。 「KK?何やそれ。【空気 壊れた】の略か?」 「・・・何でもローマ字に略すなや・・・。まったく最近の若者は・・・。 ちゃうわ。 4番の清腹と、エースの桑太の事や。 それぞれの名字の頭文字を取ってKK。 ごっついやつらやでぇ。 既にプロでも通用する力があると言われとる。 見てみい、あそこの観客席。」 吉宗が指さす方を見ると、ずらりとプロのスカウトらしき人たちやパパラッチがひしめきあっていた。 「ほぉ〜。 そないにすごいんや、その2人。 どれどれ、ちょっと顔を拝見してみよっか。」 鍋衣は双眼鏡でKKコンビを見る。 「ほぉ〜。あの4番っぽいやつ、さすがにゴツイ体しとるなぁ。 ピッチャーっぽい方はえらいスマートやな。 ん〜。 しかし何やな。 なんかどっかで見た事ある顔やな〜・・・。 帽子のツバでわかりにくいけども・・・。」 「まあ、よく新聞やテレビにも出てたからな。 鍋衣ちゃんもそれで目にした事あるんちゃうか?」 「なるほどな。 サブリミナル効果やな。」 「まあ、少し違うけどそんなもんやろな。」 「はっはっはっはっはーーー。」 「はっはっはっはっはーーーーー。」 親指高校の二名の応援団の爆笑が観客席にこだましていた。 「・・おい、真澄。」 グラウンドで2人並んで話をしている清腹和博と桑太真澄。 「ん、何だ?和博。」 「あの観客席にポツンと座ってる二人見てみろや。」 清腹が指さす方を見る桑太。 「・・・ん、高校生カップルにしか見えないが。 女の方、何だアレ?」 「はっはっは。そうや、笑うやろ。 きっとあの手に持っとる双眼鏡の縁に【墨】でも塗られてたんやろな。」 「・・・可哀想に・・・。この21世紀に【地肌メガネ】なんて・・・。」 「本人、まったく気付いてないで、あの様子やと・・・。」 「お、エライこち見とるで!あのKKコンビ!」 観客席から双眼鏡を覗く鍋衣のテンションが少し上がった。 「はっはっは!ハーーーっはっはっはっはっはーーーー!」 吉宗はそんな鍋衣の目の周りを見て笑っている。 「・・な、何や吉宗、きしょくわるいな・・・。そないにサブリミナルがツボやったんか?」 「はっはっはっはっはーーーーー!」 2人がそんなミニコントをしている時、 親指高校ナインの陣取る3塁側ベンチには緊張のピリピリムードが漂っていた。 「・・・いよいよやな・・・。」 キャプテンの下葉が特に緊張しているようだ。 試合開始間近。 選手一同がベンチの前に並ぶ。 「皆、ガンバッテネ!」 ウチボが火打石をカチカチしている。 「・・・先生、何だよそれ・・・。」 鎌司が呆れぎみにウチボに言った。 「・・・ん?なんか出陣って感じするじゃない。」 「・・・。」 「整列!!!」 ホームベース手前に立つ主審の掛け声。 「おう!」 「おっしゃぁ!!」 「おうでゲス!!!」 一斉に走り、整列する両部員。 審判が元気一杯に叫ぶ。 「これより! 親指高校とOL学園の試合を始める! 礼っ!」 選手一同が帽子を取り礼をして、 OL学園ナインがそれぞれ守備位置に駆けて行く。 親指高校は先攻だ。 「始まったな・・・。鎌司、まず頼むで!」 「・・・あぁ・・・。」 →夏に咲く桜(11)へ ★→この怖い話を評価する |
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