夏に咲く桜(11)

創作の怖い話 File.152



投稿者 でび一星人 様





1番打者の鎌司がヘルメットをかぶり、右打席に向かう。


ボール回しを追え、ファーストの清腹和博がマウンドの桑太真澄にボールを手渡しに行く。

「・・・真澄、今からオレたちの伝説が始まるンや。

1回戦の弱小高校相手いうても気抜くなや。

二回戦ではシードの【下宮高校】と対戦や。

勘狂わんようにな。」


「あぁ・・・。わかってる。」


桑太真澄は「ふぅ。」と息を吐き出す。

超高校級と言われる彼も、やはり初戦は少し緊張しているのだろう。


「・・・よろしくお願いします・・・。」

鎌司がヘルメットを取り、一礼してから打席に入る。

桑太も一礼する。


「プレイボーイ!」


ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウーーーーーーーーーーーーーーン・・・

主審のコールと共にサイレンが鳴り響く。


桑太はゆっくりとふりかぶり、第一球を投げた。

ズバンっ!!!


「ストライーーーク!」

審判のジャッジの声が響き渡る。


「オオオオーーー!!!」

歓声がこだますOL学園の応援スタンド。

「は・・・早えぇ・・・。」

ベンチの下葉たちが唖然とする。

今まで見た事もないような直球。

おそらく140キロは出ているだろう。

キャッチャーが桑太にボールを投げ返す

桑太は1球ストライクを奪った事で少しリラックスしたのか、腕を回した後、

早いテンポでまた真っ直ぐを投げ込んだ。


バシッ!

「ストライク2!!」

審判のウデが上がる。

「ワアアアアアアアアアア!!!」

大歓声のOL学園応援スタンド。

早くも追い込まれてしまった鎌司は打席を外し数回素振りをする。

桑太はふりかぶり、三球目を外角に投げ込んだ。



コンッ!


外に外したボール球に、鎌司がバントをした。


「セ・・セーフティーや!」

1塁ライン際にボールが転がる。

ダッシュする鎌司。

1塁手の清腹が猛然とダッシュする。

しかし桑太のフィールディングは超早い。

素早く桑太がボールを取り、1塁に投げようとして・・・辞めた。

1塁ベースカバーに入ったセカンドの竜波が両手で大きく【×】印を描いていた。

鎌司はとっくに1塁ベースを駆け抜けていたからだ。

(は・・・早い・・・。)

桑太は自身のフィールディングに絶大なる自信を持っていた。

その素早さをもってして、ここまで完璧に1塁を駆け抜けられてしまったのだ。

「いいぞ!鎌司! おっしゃあ!」

ベンチの下葉が拳を突きあげた。

「年がら年中走っとる鎌司の足はすごいからなぁ!はっはっは!」

喜こんでいる下葉にウチボが

「コラ!下葉君! 油断は禁物よ!」

と軽く叱った。




 ノーアウト1塁。

1塁ランナーは俊足の鎌司。

桑太にとって嫌な展開となった。


『2番 セカンド 貝塚君』

アナウンスが流れ、2番の貝塚が左打席に入る。

貝塚は静かに1塁ベース上の鎌司が出すサインを見て、バントの構えをした。

桑太は、(まずは得点圏にランナーを進める・・・か。 セオリー通りだな・・・

しかし・・・そう簡単にはいかないよ・・・。)と心で呟く。


 1球目

高めのボールゾーンに直球を投げ込んだ。

バシィ!


「ボール!」

審判のジャッジがこだまする。


(・・・やるな。この2番・・・。きちんと見極めている・・・。)

二球目、


桑太は二球目、カーブを内角低めギリギリのところに投げた。

貝塚はバットを引き、ヒッティングに切り替えてきた。

(ヒッティングか!)

バント処理に供えて猛ダッシュしてきた1塁手の清腹が止まる。


ブルン!


貝塚は空振りして転んだ。

キャッチャーの喜怒はボールを右手に持ち代えると、すかさず二塁に送球した。

なんと鎌司はスタートを切っていたのだ。

「セーフ! セーーフ!」

貝塚の空振りのため、一瞬送球が遅れた分、鎌司の盗塁が成功した形となった。



「いいぞ!鎌司!!!」

ベンチの下葉のテンションが更に上がる。


OL学園は初回に思わぬピンチを迎える形となった。



コンっ!

三球目、

貝塚は難なくキレイにバントを決め、鎌司を三塁に送った。

(あの2番・・・嫌な存在だな・・・。 難しいプレーを当たり前のようにこなす・・・)

桑太はそう思いながら汗を拭った。



『三番 ショート 美角君』


「おっしゃぁ! いきなりチャンス来たっスね!!!」

美角優真はワクワクしながら打席に向かっていった。

こういうチャンスをプレッシャーでは無く楽しみに感じるタイプらしい。

右打席に入る優真。


(このバッターも、警戒しないとな・・・。 構えに隙が無い・・・。)

桑太はセットポジションから、三塁に数度けん制球を投げながら優真をどう打ち取るかを考えていた。


 1球目、2球目と、

大きく外にウエストするボールを投げた。

スクイズを警戒しているらしい。

しかし鎌司はスタートを切らない。

(打って来るのか・・・?)

3球目


桑太が投げる動作に入った瞬間だった。


鎌司はスタートを切った。

優真はバントの構えに切り替える。

(来たか!しかし、スタートが早い!)

すかさずキャッチャーの喜怒が立ち上がり、大きく外に構える。

桑太もそれを見てウエストに切り替える。


バシィ!

「ボール!」

優真はそのボールに飛びつこうとはしなかった。

そして鎌司もスタートのフリをして、すぐさま三塁ベースに戻った。

いわゆる偽盗というやつだ。

(偽盗か・・・。こしゃくな・・・)


カウントはノースリーとなった。

キャッチャーの喜怒がサインを出す。

(桑太・・・1塁は空いている。無理に勝負しなくても良い。

際どいボール球で勝負だ。)

喜怒は外角に構える。

桑太はバツグンのコントロールでそこになげこんだ。


カキーン!


優真は目一杯腕を伸ばし、そのボール球を捉えた。

そしてしかめっ面をする。


フラフラと打球は1塁のファールグラウンドへ。

「オーライ!オーーライ!」

清腹が走って行き、手を上げる。

そしてガッチリとファールフライを掴んだ。

(ノースリーからボール球に手を出してくれて・・・助かったな。)

桑太はホっとしながらボールをとった清腹を見ていた。


「清腹!!!ボールバックだ!!!!」

その時、キャッチャーの喜怒が叫んだ。

「えっ?」

清原が見ると、三塁ランナーの鎌司がホームめがけて走っていた。


「く・・・!タッチアップか!」

清腹はその強肩でボールをホームに返す。

矢のような送球がストライクで本塁の喜怒に帰って来た。

鎌司は上手く回り込み、ベースにタッチする。

喜怒も鎌司の手にタッチする。

際どいプレーだ。


審判のジャッジは!?






「セーフ!セーーフ!!!」


スタンドがどよめいた。

約二名だけは大盛り上がりだ。



 ベンチに戻り、鎌司が皆にハイタッチをする。

なんと、あのOL学園に対して1点を先制したのだ。


 清腹は桑太の方へと駆け寄り申し訳なさそうな顔で言う。

「ス・・・スマン、真澄・・・。一瞬の油断で・・・。」

桑太は清腹の肩に手をやり、

「・・・気にするな。まだゲームは始まったばかり。

次、気をつけよう。

そしてこの1点は必ずすぐにとりかえす。」

と、鋭い目を親指高校ベンチへと向けていた。


バシィ!

バシィ!

バシィィ!!!


「ストライク!バッターアウト!!!」


下葉はあっけなく三振。

「・・は、速過ぎる・・・。」

どうやら桑太に火が付いたようだ・・・。


 1回オモテが終わり、1-0と親指高校がリードするという思わぬ展開となった。

鎌司がマウンドに向かう。

下葉が急いでキャッチャーセットを身に着けている間、優真が変わりに鎌司の投球練習を受ける。

バシィ!

「良いっすね!八木さん! 今日も球走ってるっスよ!」

 その投球練習をベンチから眺めるOL学園の監督と選手。

監督はベンチの外へと身を乗り出し、

ベンチに一番近い観客席に陣取った怪しげなサングラスの集団に話しかける。

「・・・オイ、科学班。 あのピッチャーの球は何キロだ?」

スピードガンを持った【OL学園科学班】の一人は、即座に計測して結果を報告する。

「ははっ。今の球が132キロ、さっきのが129キロでありますっ!」

「・・・130前後か。 けっこう速いな。 こんな弱小校の投手にしては上等だ・・・。

しかもサウスポー。 独特の角度がある。

オイ、お前ら! しっかり球を見ていけよ!」


「はいっ!」


 鎌司の投球練習が終わり、1番ショートの待井が右打席に入る。

「プレイ!」

鎌司は自分でサインを出す。

下葉は頷き、構える。


 ふりかぶり、ゆったりとしたフォームで鎌司は真っ直ぐを投げ込んだ。


ドシィ!!!

高め真っ直ぐがキャッチャーミットに吸い込まれた。

「ストラーイク!!」


(は・・早い・・・。)

打席の待井は唖然とした。

投球練習時に見ていた130キロとはとても思えない速球だったからだ。

(下手したら桑太よりもはやいんとちゃうか・・・。)


バシィ!

バシィ!


「ストラーイク!バッターアウト!!!」

待井のバットが空を切った。

あけなく3球三振。



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