黒い影(6)

創作の怖い話 File.128



投稿者 でび一星人 様





・・・してやられた・・・。

まさか、この世代の小娘がこんなネタで攻めてくるとは思わなかった。

 
僕は紙に【負けたよ】と書いて丸め、それを氷室さんの机に投げた。


 昼前に学校は終わり、カバンを抱えて教室を出る。

今日と明日、部活は休みだそうだ。

何やら、グラウンドを使ってはいけないらしい。

・・・まあ、冬休みに死ぬほど練習することになるだろうから、二日くらいすぐに取り戻せると思うが。


「八木く〜ん!」

階段を下っていると、後ろから声が聞こえてきた。

・・・氷室さんだ。声で解る・・・。

「・・・何・・・?」

「はぁはぁ。 いや、なかなかの傑作だったでしょ?南こうせつ。」

「フッ・・・。」

不覚・・・。

また人前で笑ってしまった。

どうやら当分の間【南こうせつ】は僕のツボになる模様だ。

「・・・負けたよって、手紙投げたよ・・・。」

「ん・・・あぁ。意外な反応にビックリしたよ。 八木君、意外と笑いのセンス持ってるんだね。 鉄仮面の男かと思ってたよ。」

・・・バカにされているのだろうか・・・。

「おおおおおおい!鎌司ぃいいいいい!!」

前方から、猛ダッシュで姉ちゃんが走ってきた。

姉ちゃんはアラレちゃんのように砂煙を撒き散らせながら目の前で止まった。

「鎌司!今日部活無いらしいやんか。 早よ帰って【なるとも】見るで!」

「・・・もう終わってるよ・・・【なるとも】は・・・。」

「ええ!そうやたっけ?今何時や?」

「・・・もう11時過ぎてるよ・・・。」

「何ぃ!しもうた! 二時間ほど寝てたから体内時計狂ってもうたがな!」

「・・・体内時計の使い方おかしいだろ・・・。」


「フフ。 面白いお姉さんね。」

そんなヤリトリを見て、氷室さんは笑いながら言った。

「・・ン?誰や?このブスチビは?」

姉は初対面で笑われたので少しカチンと来たのかもしれない・・・。

「・・・同じクラスの子だよ。氷室さんって言うんだ・・・。」

「・・・ふ〜ん。 珍しいな。鎌司が女の子連れてるって。 何や?お前らやましい事しようとしてんちゃうやろうな?」

「・・・何言ってんだよ・・・。」

そんなヤリトリをしていると、ヨロヨロと二つのカバンを持った男子生徒がこちらに走って?来た。

「ゼェ・・ゼェ・・は、速いですよ・・・鍋衣さん・・・。」

鍋衣とは、姉ちゃんの名前。 なべいと読む。

その男子生徒はモヤシ君だった。

パシリのモヤシ君はやはり姉ちゃんの体力には到底追いつけないらしい・・・。

「おお!ゴメンゴメン。忘れとったわ。 ご苦労やで。モヤシ。」

「勘弁してくださいよ〜。重すぎですよ。このカバン・・・。」


「ガハハ。スマンのうモヤシ。 でも、敵がドコに潜んどるか解らんやろが。 武器は常に身に着けとかんとな!」

・・・なるほど、大量の武器が入っているのか・・・。

しかし【身に着けて】はいないだろう・・・。

 姉ちゃんは僕やモヤシ君、そして氷室さんの顔を見回し、

「そうや!自分ら、今日暇やろ? ボーリング行かへんか?ボーリング?」

と、唐突に企画を発表した。


「・・・いいよ・・・面倒くさい・・・。」

「エエエエ〜〜たまには行こうやぁ。 鎌司ぃぃ。」

「・・・姉ちゃんはいつも急すぎなんだよ・・・。 それに2人の都合もちゃんと聞いてから決めないと・・・。」


「私は行けるよ!ボーリング!楽しそうじゃない!」

・・・思いの他氷室さんは乗り気だ・・・。

 モヤシ君はサイフを取り出して残金を確認している。

きっとモヤシ君に【拒否権】は与えられていないのだろう・・・。




 カコーン

  ダンッ!




 騒音が鳴り響く。

僕はあまりボーリング場と言う所が好きでは無い。

理由は五月蝿いからだ。


 「ガッハハ!モヤシ何やねん!そのフォーム!」

「ぇ、ぇぇ〜。何か変ですかね〜?」


 姉ちゃんとモヤシ君は楽しそうだ。

・・・まあ、モヤシ君は本当に楽しいのかはわからないが。

「八木君?」

「・・・。」

氷室さんが僕に声をかけてきた。

「ねえ八木君。何かあまり楽しそうじゃないね。」

「・・・そんな事無いけど・・・。」

正直その通りだが、『楽しくない』とはさすがに言えない。




 「おうおう!鎌司! このままぼんやりやっても面白ない。

ここは一つ、【チーム戦】と行かへんか?」

1ゲーム目が終わり、姉ちゃんが提案を持ちかけた。

「・・・チーム戦・・・?」

「おう!そうや。 ウチはモヤシと組むわ。 自分ら2人組んだら良えわ。

2人の点を足して、合計点の高い方が勝ちや!」


「おもしろそう!鎌司君!やろうよ!」


・・・氷室さん、意外とノリ良いんだな・・・。

「負けた方が、ここのお金払うんやで!」


姉ちゃん・・・また強引な・・・。


モヤシ君はサイフの中身をまた確認している。

・・・きっと負ければモヤシ君が全部払わされるのだろう・・・。
 
 
カコーン


  カカコーン・・・


鎌司  ・・・196点

氷室さん・・・81点

鍋衣  ・・・236点

モヤシ ・・・19点




「こらぁ!モヤシぃ!!!」


「ひぃ〜 す、すいませんでしたぁ〜〜〜。」

「・・・姉ちゃん・・・一生懸命やってたじゃないか。モヤシ君が可哀想だよ・・・。」

「アハハ。」


 結果は、↑の通り僕らの勝利だった。


 あまりに可哀想だったので、僕と氷室さんは1ゲーム分の金額だけモヤシ君に手渡した。

姉ちゃんは結局全部モヤシ君に払わせたようだ・・・。




 精算を済ませ、僕ら4人はボーリング場を出た。

「ほな、鎌司、今からモヤシと買い物行くさかいに、先帰っててや。」

「・・・また買い物?前も行ってなかったっけ・・・。」


「・・ぉ、ぉぅ。ちょ、ちょっとな。 な、なぁ。モヤシ。」

「え、・・は、はい。まぁ。・・・はいっ!」


・・・絶対何か隠してるな・・・。


「ほな、ウチらはこれで!」

そういって姉ちゃんは走って行った。

「ま、待ってくださいよぉ〜〜〜。」

超重そうなカバンを持たされ、モヤシ君もその後に着いて走って行った。



 「フフ。やっぱりおもしろいお姉さんね。」

「・・・ん・・・。 怖くは無かった・・・?」

「え?全然。 怖いの?」

「・・・いや。怖くないならそれで良いけど・・・。」

「ん?ん?」

 これ以上この話題をすると面倒くさそうなので、僕は家の方へと歩いて行った。

「あ、ま、待ってよ!」



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