黒い影(5)

創作の怖い話 File.127



投稿者 でび一星人 様





練習が終わり、いつものように着替えた後帰宅する。

冬の空はもう真っ黒だ。

街灯の明かりが辺りを薄暗く照らす。


・・・今日姉ちゃんは先に帰ってると言ってたな・・・。

そんな事を考えながら門のところに行くと、誰か女子生徒が立っている。

(姉ちゃんか・・・?いや、しかし今日は帰っているはずだが・・・。)


近付いてみると、その女子もこちらに気づいたみたいで、近寄ってきた。

「や、やぁ。八木君。」

「・・・。」


その女子生徒は氷室さんだった。


「や、八木君。ちょっと今日残る用事があってさ、遅くなったんだ。

そしたら丁度君も帰りみたいだったから。どう?一緒に帰らない?」

・・・こんな時間まで、氷室さん学校で何の用事があったんだろうか・・・。

「・・・別に良いけど・・・。」

「ほ、本当。良かった。」

「・・・良かった?」

『良かった』とはどういう意味だ・・・。

「あ、あ・・・。」

氷室さんは焦っているのか、口をぱくぱくさせている。

「あ・・・ん〜。」

氷室さんは言葉にならない言葉を発し、腕を組み、なにやら納得したような顔をし、

「ん・・。適当な理由が思いつかないから、本当の事を言うよ。」

と言った。

「・・・本当の事・・・?」

「うん。本当の事。 ほら、八木君って、あまり皆と話したりしてないじゃない。 

だから、断られるかなって思ってさ。それがあっさり一緒に帰ってくれるって言うから、

良かったなって思って。」


・・・そんな事か・・・。

「・・・そう・・・。 別に、皆と話さない訳じゃないよ。皆が話さないだけだよ・・・。」

「そ、そっかそっか。ふむふむ。」

僕は黒ブチメガネを右手でクイクイ上げながら頷いている氷室さんを置いてくように門を出る。

「あ、待ってよ八木君!」

氷室さんは少し駈けるように着いてきて僕の横に並んだ。

「はぁはぁ。八木君。君はいつもこんな時間まで練習をしているの?」

背の低い氷室さんは横から僕の顔を覗き込むようにして聞く。

「・・・練習が終わるのがこの時間だから・・・。」

「そっかそっか。ふむふむ。」

氷室さんは相変わらずメガネをクイクイしながら頷いている。


 そんな感じで適当に氷室さんの問いに答えながら歩いているとコンビニが見えてきた。

このコンビニがある交差点を右に曲がりしばらく行くと僕の家がある。


 僕がコンビニのところを右に曲がろうとすると、氷室さんは左に曲がろうとした。

「・・・氷室さん、そっちなんだ。僕右だから。 じゃあ・・。」

と僕が言うと、

「あ、い、いやいや。私もそっちだよ。ハハ。」

と言って右の道へと駆け寄った。


 そのまましばらく歩く。

氷室さんはなんだかソワソワしている・・・。

「あ、あのさ、八木君・・・。」

氷室さんが口を開いた。

「八木君、あのさ、今日は一人だったみたいだけど、彼女さんはどうしたの?」

「・・・彼女さん・・・?」

「ん・・・ほら。よく一緒に帰ってるじゃない。 隣のクラスの、あのキレイな子。」


・・・姉ちゃんの事か・・・。

「・・・あれは姉ちゃんだよ・・・。双子なんだ・・・。」

「え!八木君双子だったの!!」

「・・・うん・・・。 そんなに大声ださなくても良いと思うけど・・・。」

「あ、あ、ゴメン。ハハハ。 そっか。あれはお姉さんだったのね。」

・・・そんなに驚く事でも無いと思うが・・・。

「・・・じゃぁ。僕の家ここだから・・・。」

家・・・といってもマンションだが、その前に着いたので氷室さんに声をかけた。


「あ、そっか。ここが八木君のマンションなんだね。 今日は一緒に帰ってくれてありがとね。」

氷室さんはペコリと一礼した。

「・・・別に・・・。」


「また明日ね。」

そう言うと氷室さんは元来た道を引き返して行った。

・・・やっぱり氷室さんの家はあのコンビニを左に曲がらなければいけなかったんだろう・・・。

翌日。

僕はいつも通り登校し、自分の席に座る。

今日を含めてあと二回登校したら冬休みだ。


「お、おはよう。八木君。」

隣から声が聞こえてきた。

見ると氷室さんだった。

「・・・おはよう・・・。」

クラスの人間に挨拶するなんて何ヶ月ぶりだろう。




 「はぁ〜い、皆さん、席に着くのだ〜〜。」

アニメオタクの担任が教室に入って来て、何やら話を始める。

何やら色々冬休みでの生活態度の説明をしているので外の景色を眺めながら聞いておいた。


 カサッ・・・。

「・・・ん・・・。」

何かが手に当たった。

見てみると、丸められた小さい紙だった。

開けて見てみると、

【ハズレ】

と書いてあった・・・。


誰だ・・・こんな事するのは・・・。

隣を見てみると、氷室さんが机に上半身を伏せて寝たフリをしていた。


・・・こいつか・・・。

紙を丸め直して机の端に置く。

そしてまた窓の外を眺める。



カサッ・・・



・・・また丸めた紙が飛んで来た。



・・・【視力検査】という意味だろうか・・・。 紙には小さく【c】と書かれている。

氷室さんは相変わらず【寝たふり】をしている。

 僕はまた無視をして窓の外を眺める。

立ち並ぶ町並みを眺める。


カサッ・・・



・・・またか・・・。

相手するから調子にのるという言葉は正しいと思う。

僕は無視をした。



カサッ

 カサッ・・・。

・・・更に二つ、投げ込まれた・・・。

相当シツコイ・・・。

僕は未開封の三つのうち、最初に投げ込まれたであろう紙を見る。

【じゅんです。】


・・・意味が解らない・・・。

二つ目を広げる。


【ちょーさくです。】


・・・これはもしや・・・。



三つ目




【南こうせつ。】


「フッ・・。」


不覚にも、軽く笑ってしまった。

はっとして、氷室さんの席を見た。

氷室さんは机に伏せた状態で、顔をほんのりこちらに向けていた。

・・・そして、【勝利の笑み】のようなものを浮かべていた・・・。



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