あさる(2)

創作の怖い話 File.121



投稿者 でび一星人 様





私はコクリと頷く。

そして裕史と2人で家まで歩いた。

会話は無かった。

無かったけど、

裕史とこうして2人並んで歩くのは本当に何年ぶりだろう・・・。

なぜだかしらないけど涙が出てきた。

だから目薬をさして誤魔化した。

dekaoのように誤魔化した。

 


 家に着くと、大方準備は終わり、あとは夜を待つだけの状態になっていた。

「あぁ。沙織ちゃん。」

お義母さんのお茶のみ友達だった田中さんが声をかけてきた。

「田中さん・・・。 すいません。いろいろとありがとうございます。」

「何言ってんのよ。沙織ちゃん。 アナタも本当はここまでする必要無い間柄じゃないの。 

むしろ私のほうが何でも手伝いしなきゃならないのよ。 お世話になったんだから。」

「でも・・・。」


「でももヘチマも無いわよ。大体ね、息子さんが悪いのよ。 母親をほったらかして、ろくに顔も見せないなんて・・・。 

何考えてんのかしらねぇ。まったく・・・。

あ、ところで、そちらのお方は?お店の客さん?」


 私の額を一滴の汗がつたう。

私は裕史をチラ見した。

裕史は田中さんに、

「・・・息子です・・・。」

ボソっと呟いた。








 夜。

お通夜が終わり、香典の集計が終わった裕史は強引に飲まされている・・・。

私は台所に立ちっぱなし。

  「はっはっはっは〜。 まあまあ、裕史君飲みなさい。」

裕史の親戚のおじさんが、真っ赤な顔の裕史に無理やりビールを注いでいる。

 「ウゲ・・もう勘弁して下さい・・。」

 「遠慮するなよ〜。」


・・・裕史のあの状態はヤバイな・・・。 下手したら翌日1日グロッキーのパターンだ・・・。

 私は裕史の方へと歩いていき【救助】した。

裕史を抱え、別室に入り、座布団を枕代わりにして裕史を寝かせる。

「・・・明日葬式でまだ色々と大変なんだから、 少しでも寝ときなさい。」

「ゥ・・・・ン・・・スマン沙織・・・。」

 情けなく謝る裕史。

「クス・・。おやすみ。」


裕史を【安全地帯】に非難させ、私はまたお通夜振る舞いの戦地へと向かう。


 ん・・・さっきまで騒がしかった部屋が、やけに静かだ・・・。


 第六感が疼く。


部屋の戸を開ける。


「な、なんじゃこりゃぁ!!!!」

ゆうさくばりに私は叫んでしまった。

 「お、オカンか!ヒック・・・。 ハハハ。おっさんら、けちらしてもうたわぁ。」

「鍋衣!!!あんた、お酒飲んだの!?」

「ヒック。ちょっとだけやで。ほんのちょこっと。 ひゃっひゃっひゃ。」


部屋には鍋衣にノサレタであろう裕史の親族のオッサン友が大量に横たわっていた・・・。


 鍋衣が踊っている前には、コップにまだ並々とビールが残っていた。

たぶん、鍋衣は一口飲んだだけでこうなったのだろう・・・。

(鍋衣、御免!)

私は心でそう叫ぶと、サっと後ろに回り、鍋衣に当て身を喰らわせた。

「ウグ・・・。」


バタンQ


鍋衣は他のオッサン共と同じく気を失った。

「ゴメンね・・。鍋衣。 アンタの弱点は、母さんお見通しよ。」



 さて。

この大惨事、明日どう説明しよう・・・。

まあ、これだけ皆飲んだから、

きっと覚えていないだろう・・・。

ただ単に、皆飲んで寝ただけ。

うん。そういう事にしよう。

そうしよう・・・。




「シクシク・・・。」


ハッ!!

部屋の隅から泣き声が聞こえてきた。

(ま、まだ起きてる者が居たのか!!!!)

私は身構えた。

両手を合わせ、しっかりと親指を組む。

【当て身】で眠らせなければ!

この惨事を、


誰 一 人 気 付 か せ て は な ら な い ! 

泣き声の方へとゆっくり進む。

泣き主の横には、日本酒の一升ビンが3本ほど転がっていた。

(この泣き声の主・・・。カナリの酒豪だ・・・。)

合わせた両手に汗が滲む・・・。


私は上手く背後に回ると、

「御免!!!」

と叫び、両手を振り下ろした。


ガシッ!!!


「な、なにっ!?」

泣き声の主は、後ろを見もしないのに、私の振り下ろした両腕を掴んだ。


「シクシク・・・。無駄だよ・・・。それだけ殺気を放っていちゃぁ・・・。」


「か、鎌司?」

泣いているのは鎌司だった。


 「か、鎌司? これ、全部あんたが飲んだの?」

「・・・ぁ、母さん・・・。うん。シクシク・・・。」


鎌司は泣き上戸のようだ・・・。

「鎌司・・・。もう、皆寝たから(ある意味)、アンタも早く寝なさいね。」


「・・・うん・・・。」


 さて、私もそろそろ仮眠でもとっておこう・・・。

部屋の電気を消し、私は裕史の寝ている【安全地帯部屋】に、向かおうとした。


その時だった。

ガサゴソ・・・。


玄関のほうから音が聞こえてきた。



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