あさる(3) |
創作の怖い話 File.122 |
投稿者 でび一星人 様 |
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(誰・・・。) 間違いなく、一人残らずあの部屋に寝ていたはず・・・。 私は足音を立てないようにそっと音のする方へと向かった。 ・・・どうやら、音は台所から聞こえて来るようだ。 台所をそっと覗いてみる・・・。 街灯の明かりが窓から射しこみ、信じられない光景が目に入ってきた。 シャグリ・・・ シャグリ・・・ シャグリ・・・ 奇怪な音を立てながら、 人ではないナニかが冷蔵庫をあさっていた。 全身が毛に覆われたそのナニかは、座り込んでいるにもかかわらず、頭は天井スレスレの高さだった。 私は音を立てないようにそっと部屋に戻り、裕史の隣に横たわった。 そして目を瞑り、ただただ震えていた。 チュン チュンチュン・・・ ・・・そのまま寝てしまったのか・・・。 気がつくと、夜が明けていた。 隣に裕史は居ない。 昨日皆が寝ている部屋に戻ると、すでに全員が起きて葬式の準備をしてくれていた。 昨日のアレは・・・夢だったのかしら・・・。 ・・・ん? 鍋衣と鎌司が庭で立たされている。 2人の前には裕史が居る。 「・・・どうしたの?」 庭に行き、私は裕史に何をしているのか聞いた。 「ん。あぁ。沙織。いや・・・ゴメンな。こいつらさ、昨日オレが寝た後酒飲んだらしくて、 冷蔵庫に入れてた今日の朝飯、全部食べやがったみたいなんだよ・・・。」 「・・・冷蔵庫・・・?」 「オトン〜〜。覚えてへんねやてぇ〜。 ゴメンやってぇ〜。」 「うるさい!お前以外に誰がこんなに食うんだ!・・オイ!鎌司お前もだ!お前ともあろう者が、何で酒なんか!」 「・・・ゴメン父さん・・・。頭痛いんだ・・・もうすこし小さい声で話して・・・。」 さすがの鎌司も、今日はしんどそうだ・・・。 「まぁまぁ。裕史、もうそのへんでいいんじゃない? 私、パンでも買ってくるわ。」 「ん・・・。」 裕史は不機嫌そうな顔をしながらも、皆が準備している部屋へ歩いて行った。 「ふぅ・・・オカン、助かったわ。ありがとう。」 「フフ。・・それより鍋衣、あんた、本当に冷蔵庫の中身全部食べたの?」 「う〜ん・・・。食べた気もするけど、食べてない気もする・・・。 っていうか、わかれへんわ。 オッサンに酒一口飲まされたところから記憶無いから。」 ・・・昨日のアレの真相は、結局わからず仕舞いか・・・。 その後、葬式も無事に終わり、 火葬場に向かう前の最後のお別れの時、 それまで【母の死】にピンと来ない感じだった裕史の目から涙がこぼれていた。 もうこれで、母の顔を見る事は最後という現実をようやく理解できたのかもしれない。 私は大人になってから親族の死というのを経験していないのでよく解らないが、 そういうショックというのはすぐに理解出来ない事があるのだろう。 夕方。 「・・・沙織、本当に関係ないのにいろいろとありがとう。 助かったよ。」 「もう・・・。そういうのは言わないでって言ったでしょ。」 裕史と子供たちと一緒に駅のホームで電車が来るのを待つ。 「鍋衣も鎌司も、受験頑張ってね。母さん応援してるからね。」 「ぉ・・ぉぅ・・・。」 「・・・・」 鍋衣の返事は、自信の欠片も感じられなかった。 鎌司は受験もさほどプレッシャーに感じていないんだろう。 かなり余裕の高校を受けるらしいし・・・。 電車が来て、三人は帰って行った。 私は自分の店に行き、掃除をする。 二日間、臨時休業してしまったが、明日からまた営業しなきゃならない。 これが、今の私の生活。 お義母さんにはこんな事言っちゃ悪いかもしれないけど、 この二日間、夢をみさせてもらった気分だ。 【家族】の夢を。 気持を切り替え、私はまた明日から一人で生きていかなければならない。 ちなみに、鍋衣からもらった箱の中には紙が1枚だけ「入っていた。 【アホがみーるー】 と、書いてあった。 いつかまた、【当て身】を喰らわしてやらなければならない・・・。 ★→この怖い話を評価する |
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