あさる(1)

創作の怖い話 File.120



投稿者 でび一星人 様





私の名前は沙織と言います。

色々あって、今は一人身です。

この田舎町で、ひっそりとスナックのママをやっています。

父は、まだ私が幼い頃に亡くなりました。

母も、20年ほど前から消息不明です。

 孤独には、もう慣れました。

・・・って、思ってたんだけど・・・。


 少し複雑な関係なのかもしれないけれど、

元旦那のお義母さんが、

私にとって家族のような存在だったのかも知れない・・・。

 お義母さんとは一緒に生活していた時期が二年ほどあって、

お義母さんは私に対して本当の娘のように接してくれた。

元旦那と別れた後も、

気遣って、私がやってるお店にときどき顔を出したりもしてくれた。

意識はしていなかったけど、

私の心の支えになってくれていたんだね。

お義母さん・・・。

あ、そうか。

本当はもう、お義母さんって呼ぶ間柄でも無いんだね・・・。



 そんなお義母さんが、今朝亡くなられた。

80を超えても、元気だったお義母さん。

でも実は、高血圧や糖尿を患い、

1週間前くらいから入院していたらしい・・・。


 朝、電話の音で目が覚めた。

内容は、お義母さんが入院している病院からだった。

病態が急変し、ほんとうに唐突に亡くなられたそうで・・・。

 元旦那や息子たちは遠く大阪で生活をしているため、

お義母さんは私の連絡先を病院には教えていたそうで・・・。


 連絡を受け、私は気まずさもあったけど、

元旦那の家に電話をした。

最初息子の鎌司が出た。

 息子や娘は、時折手紙をくれたり、

盆や正月、こっちに帰って来た時に会ったりしていた。

でも旦那とは別れて以来一切連絡を取っていない。

・・・きっと、こんな女とは二度と話をしたくないだろうし・・・。

息子は、「・・・まあ、普通に話してみて。」と言って、元旦那と代わってくれた。

すぐに電話を切ると思われた元旦那が、意外にも話を聞いてくれた。

この7年で、旦那も何か変わったのだろうか・・・。



 そんな事で、今日の昼過ぎに、元旦那の裕史と、

双子の子供たち、 鍋衣と鎌司がこちらに来ます。

 

 私は・・・


私は、裕史の事を今どう思っているかは、もう自分でも解らなくなってしまったんだけど、

裕史と再会した時に着ていたこの服を着て、

この駅で待つ事にします。



 数分後、電車が来た。

田舎なので、二時間に1本しか電車は来ない。

この電車に、裕史や子供たちが乗っている。


・・・胸が高鳴る。

妙な緊張で、ここから逃げ出したい気持も少しある。

でも会いたい気持のほうがはるかに強い・・・。
 
 「おかん!!!」

・・・あれは鍋衣だ。

娘の鍋衣が、私の元へと駆け寄ってきた。

「・・・鍋衣・・・。」


 鍋衣を見るのは二年ぶりになる・・・。

鍋衣がまだ中学1年生の頃、

正月にこっちに帰って来たときに一度会った。

三年生になった鍋衣はすっかり女性らしくなったようで・・・。

私の若い頃の雰囲気と少し似ているけど、

私よりはるかに美人な顔立ちをしていた。


駆け寄ってきた鍋衣はポケットから小さな箱を取り出し、私に手渡して

「久々やな!おかん! 白髪増えたんとちゃうか? これ、お土産や。」

と言って白い歯を見せた。

「何これ?なんか買ってきてくれたの?」

「フフフ。ヒミツや。 まあ、ウチらが帰って落ち着いてから見たらエエから。」

鍋衣の左頬の上の方にばんそうこうが貼ってある。

きっとまた、ケンカでもしたんだろう・・・。

鍋衣とそんな感じで話をしていると、ゆっくりと息子の鎌司が歩いてきた。

「・・・鎌司。」

「・・・。」

鎌司は何も言わずに軽く頭を下げた。

そして私が持っているカバンを持ち、

「・・・とりあえず、ばあちゃんの家で良いのかな・・・。」

ボソっと呟いた。


「え、ええ。ばあちゃんの家でOKファームよ。 ばあちゃんの友人と葬儀屋の人が準備してくれてるわ。」

鎌司から独特な存在感を感じながら返事をした。


「・・・そう・・・。」

鎌司はそう言うと、ゆっくりと家の方へと歩いて行った。

「お、おい!待てや鎌司!!!」

鍋衣も、テクテク歩いていく鎌司に着いて行った。


 「・・・さて、私も行かなきゃ。」

私はふぅっと一息つき、駅の方を見た。



「あ。」

駅の改札付近には、超ゆっくりとこちらに歩いてくる裕史が居た。

不自然に、顔は横を向いている。

でもあきらかに横目でこちらを見ている模様・・・。


 裕史は気まずいんだきっと・・・。

相変わらず丸解りだ・・・。


 数分して、ようやく裕史が私の元までたどり着いた。

キョロキョロしてるフリをしている模様・・・。

そしてようやく口を開く。

「ぁ、ぁぁ。沙織居たのか・・・。久しぶり・・・。」


「ええ・・・。久しぶりね。」

「あの・・・。色々と、ゴメンナ。 もう関係ないのに、いろいろと母さんに・・・。」

「うううん。そういう事は言わないで。お義母さんには私もお世話んなったし・・・。」

「そ・・っか。 とりあえずありがとう・・・。」



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