Bad day(4) 別々の道

創作の怖い話 File.11



投稿者 ストレンジカメレオン 様





「ここで捕まった……………?オレたちが……?」

「そう…私達はここで子供の頃、脱出を試みたわ!

まさかその後、あんなことになるなんて知らずに…

あのとき私は………

とりあえずいったん外に出るわよ、話はそれから!」

「分かった!!」

(オレと恵理とは、子供の頃、ここで育っていたということか…

なら何故、オレは〔太陽の光〕にいて、恵理はこんな場所に残ったままなんだ…?)

非常口から外に出ると、あの建物から少し離れた場所に出て来た。

異空間からやっと現実の空間に戻ってこれた感覚だった。

しかし、恐ろしい過去の記憶のかけらに触れてしまったオレは、もう簡単には今

までの平和な日常は戻れないということを心の奥で痛く感じていた…

「浩一、私が非常口から出たら、怪しまれるわ…ここからはあなた一人で駅に向かって!

そしたら今日、会った喫茶店に向かって!

そこで待ち合わせよ。

安心して!すぐ向かうから!」

「わ…分かった…待ってる」

オレはそこで恵理と別れ駅へと向かった。

オレは早く真実を知りたかった…

自分の過去などどうでも良いと思っていた…

ただ今を生きて、将来シンさんやみんなのために役に立てるならと思って過ごしてきた…

しかし、オレの運命のスイッチは、記憶の断片と触れ合うことで切り替わったのだった。

いや、切り替わっていたスイッチがまた元に戻っただけなのかもしれない…

それが良いことなのか良くないことなのか、この時のオレに知る術はなかった。

ただただ本当に自分の過去、真実を知りたかった。

喫茶店へ着いたオレは、これから知る自分の過去と向き合う覚悟を決め、静かに恵理を待った。

そして喫茶店に入ってから一時間が経とうとしていた時、入り口のドアが開き、恵理が店内へと入ってきた。

「え、恵理!!」

恵理はさっきとは、うって変わって落ち着いて店内へ入り、オレの目の前に座った。

「浩一!今から私が言うことを聞くなら覚悟を決めて!

あなたが今までの生活を続けたいなら聞かなくてもいいわ。

その時は私とはここでお別れよ。」

「恵理…オレは覚悟を決めている…オレは子供の頃、あの場所にいたことを少しだけ思い出したんだ。

なんで今自分はこうして暮らしてるのか…

恵理はなんであんな恐ろしい会にいるのか…

自分の過去のことも全部知りたいんだ…」

「分かったわ。浩一ならそう言ってくれると信じていたわ。さすが私の兄さん。」

「に、兄さん…!?」

オレは動揺を隠すことは出来なかった…今まで付き合っていた恋人は小さい頃、

あんな恐ろしい場所で一緒に育っていて、しかもオレのことを兄さんと呼んだ…

「そうよ。あなたは私の兄さん。

私達は両親を目の前で殺され、あの会に拉致されてきたのよ。忘れもしないわ、

あの忌まわしい夜のこと…」

「そ…そうなのか…」

次々に想像を超えた過去の事実を聞かされ、オレは頭の中の整理と自分の感情を

抑えることに精一杯になっていた。

「恵理、じゃあなんで今オレは〔太陽の光〕にいて、恵理は月光会に残ったままなんだ!?」

「そ、それは……」

恵理の顔が急に暗くなった。

そして数秒の沈黙が続いた…

「……じゃあとりあえずそれは置いといて、恵理はあの会で暗殺や拉致の手伝いをしてるのか!?」

「私は情報収集係だから実際に暗殺や拉致自体はしていないわ…

私のある能力があの会の人間に気に入られて情報収集係になったわ。

でもそういうかたちで暗殺や拉致の手伝いをしていることに間違いはないわ。」

「ある能力…?」

「瞬間記憶能力。私は小さい頃から、ありとあらゆることを瞬間記憶し、頭の中に留めておくことが出来たの。

その能力のおかげで今は情報収集係なのよ。

だから小さい頃の時の記憶も鮮明に覚えているわ。

どれも覚えておきたくないものばかりだけれどね…」

忘れたい記憶も忘れることは出来ないということか…

その能力は恵理にとっては皮肉な能力だ…

「恵理は月光会のメンバーだけど、今も会から抜け出したいと思ってるんだよね …

良ければうちの施設に来ないか!?

シンさんは月光会と一人戦ってるんだ!!オレたちでその手助けをしよう!」

「ダメ!!浩一、こんなこと聞いても信じられないかもしれないけれど、

〔太陽の光〕は月光会と密につながっているわ!

きっとシンさんって方はうちの上部とつながりがあるに違いないわ!

私と浩一が連絡を取り合ってるのがバレたら、きっと………」

「えっ…〔太陽の光〕が……だってシンさん……みんなを救いたいって…………

いやシンさんに限ってそんなはずはない!!

恵理が会の人間に騙されてるんだよ!

そんなこと絶対にありえない!!

だから!!」

さすがにオレは恵理が言ってることを全て信じることは出来なかった。

いや信じたくなかっただけなのかもしれない…

「騙されてなんかいないわ…何度もあそこに〔太陽の光〕の人間が来たわ。

その度、暗殺や人身売買で得たお金はその人間に手渡されたわ。毎回かなりの額だわ。

そして〔太陽の光〕の人間は月光会が警察やメディアに怪しまれる度に自分たちの世間から信頼性を利用して、

裏から援護し、うちが犯した罪を別の名もない宗教団体に無理やり、被せるの…

そうやってこの二つの団体は成り立ってるの。

まさに太陽の光を借りて月は光っている。

そんな関係なの!!」

「もういい加減にしてくれ!!!!!!

なにがそんな関係だよ!

次から次へと!!

それが全て事実ならオレはどうすればいいんだよ!?

オレはシンさんのために生きてきたようなもんだ!

それが本当なら今までオレがしてきた事は一体何だったんだよ!!

大体、恵理は何で月光会に残ったままなんだよ!?

それこそおかしいじゃないか!?

オレは〔太陽の光〕にいるのに!

二人で脱出を試みたはずだろ!!」

「こ…浩一…

そうだよね………

信じられないよね…そう私が言ったこと全部嘘。

だから私と浩一は関係ないわ…だからもう私には構わないで。

そして今日見たもの、私から聞いたことは全て忘れて」

恵理のこんな暗い表情は初めて見た…

だからといってオレはシンさんを疑うことも出来なかった…

「恵理……恵理の言ってることを全て信じてないわけじゃないよ…でも………」

「分かってる…浩一は優しいし、人をすぐ疑うような人間じゃない。

だから幸せになってほしい…とりあえずシンさんに私のことは喋らないで!それがお互いのため。

じゃあ浩一………ごめんね…

さよなら…」

そう言って、恵理は、喫茶店を出て外の闇へと消えていった…




  → Bad day(5) 崩壊 



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