Bad day(5) 崩壊

創作の怖い話 File.12



投稿者 ストレンジカメレオン 様





「さあ!殺し合え!早く殺し合え!!ハハハ!」

オレよりはるかに背の高い男がオレに殺し合いを強要している…

オレの手に握らされた鋭利なナイフ。

しかもその殺し合う相手は…………

「はぁ… はぁ… 夢か!?」 オレは目を覚ました。

オレはあの日、恵理と別れて以来、この悪夢をよく見るようになった。

そしてあの日以来、派遣会社からも姿を消した恵理とは一度も会うことはなかった。

あれから、いつもの日常に戻ったのだ。

あの日、オレが見たものと聞いたものはそのままオレの一つの記憶として閉じ込めたままにしてある…

いつものように朝食を済まそうと下へ降りると

「あっ 浩一! 起きたか!

オレは今日はある団体と会談があるから、もう出掛けるからな〜、仕事はサボるなよ!」

「シンさん、今日は仕事休みなんだ!今日は一日、施設の掃除をしてるよ」

「そうか!そしたら頼むよ!他のメンバーにも手伝わさせるんだぞ!じゃ、行ってくる。」

シンさんは笑顔で出掛け、オレはそれを笑顔で見送る。

いつものことだ。

そういつも通り…

しかしオレの心の奥底ではそういうわけにもいかなかった…

あの日、オレの中で思い出された記憶のかけら…

恵理という存在…

月光会の一員でありながらあの日、オレを助けてくれた事実…

そして恵理が発した言葉の内容…

さらにあの日以来、俺を悩ます悪夢…

どれも全て、虚説だった…では済まされるはずがない。

だからと言ってあの日、恵理が言った言葉を裏切ってシンさんに全てを話しても良いのだろうか…

話さなければこの平和な日常が続くのだろう。

だが、オレの見えない所で、なにか良くない事が起きていて、

恵理は今もなお、多くの苦しみを背負って生活しているに違いない…

本当にこのままで良いのだろうか。

毎日毎日オレはあれから、そんなことばかり考えていた。

そして今日も。

「おーい、みんな!今日はみんなで施設の大掃除だ!

みんなで仲良く手伝って掃除するんだぞ!じゃ当番決めるぞ!」

「はーい!!」

ここの施設の子供たちは親がいないという恵まれない境遇でありながら、とても素直で良い笑顔を持っている。

それは何故か。

それはシンさんを筆頭にここにたずさわっている人達の人柄のおかげに決まっている。

ここが月光会とつながっているわけないのだ!

そうに決まっている…

でも何故オレはシンさんに真実を聞く勇気が出ないのだ…

考えても考えても自分一人ではどうしようも出来ない、オレはどうするべきなのか全く分からなかった。

「ピンポーン」

そこに突然インターホンを鳴らす音が聞こえた。

(誰だろ…?)

オレは施設の入り口のドアを開けた。

「あっ こんにちは、浩一君」

「あっ、お久しぶりです」

「久しぶり、シンさんはいるかい!?」

来たのは宮本のおじさんだった。

宮本さんは警視庁の上層部の方でシンさんととても仲が良く、

オレもここに来てからはいろいろとお世話になっている。

オレが何かやらかす度に、宮本さんはオレのことを親のように叱ってくれた。

「シンさんは今日、ある宗教団体の方達と会談があるみたいで出掛けちゃってるんです、

何か伝言があるなら僕からシンさんに伝えときますよ」

「いやいやそんな大したことじゃないんだ、それより浩一君も何かあったらおじさんを頼っていいんだぞ。

こう見えてもおじさんは頼れる存在なんだぞ。

ハハハハ」

「ありがとうございます!!あっ………」

月光会…

恵理…

そんな言葉がオレの脳裏をかすめた。

「どうした?浩一君、」

「あの…宮本さん、月光会って知ってますか…?」

宮本さんの柔らかい表情が一瞬にして、深刻なものへと変わった。

「浩一君、どこで月光会の存在を知った!?シンさんからか!?」

「あ……はい…」

「ならその会に関わろうとしたり、あまりその会の名を口にしない方が身のためだ!

あの会の連中は、危険だ!しかし尻尾をつかめていないのが現状だ。

まあおじさんやシンさんに任せとけば大丈夫!」

「ぼ、僕に何か手伝えることはないですか!?」

「こらこら、同じことをおじさんに言わせるんじゃないぞ。

関わろうとしないほうが浩一君の身のためなんだ、じゃ、また今度出直すよ。

シンさんによろしくな」

そう言って、宮本さんはすぐに帰ってしまった。

やはり宮本さんも月光会のことを知っていた。

やはりシンさんにあの日のことを話すべきなのだろうか…

いざとなれば宮本さんだっている。

警視庁でかなり力を持っている人だ。

逆に出来るだけ早く、シンさんにあの日のことを話さなくてはいけないのかもしれない!

きっと恵理は会の連中に良いように騙されているんだ!

恵理のためにも、シンさんのためにも、

オレはシンさんに月光会について話すことを決めた。

施設の掃除を終えると、みんなは部屋に戻り、オレはシンさんを静かに待った。

きっとシンさんなら、オレがここに来れた理由だって知っているだろうし、

シンさんに話せば恵理だって助かるかもしれない。

そして…

「ただいま!」

シンさんが会談から帰ってきた。

「シンさん、お疲れ様です。いきなりすいません。ちょっと相談したいことがあるんです」

「浩一、相談したいことって!?」

「月光会についてなんです。実は…」

「ちょっと場所を変えよう。オレの部屋に来い。」

やはりシンさんも月光会という言葉を出した途端に表情が一変した…

「で、相談したいことって言うのは?月光会についてか?」

「はい…実は少し思い出したんです。自分の過去のことを、

オレはあそこで育ったんです。

そして現実ではありえないような事があそこでは行われていたんです…

オレはどうしてここで生活してるんですか!?」

「そうか…それでどこまで思い出せたんだ?」

「本当に少しだけなんです…

オレは地下に閉じ込められて、人を殺すための教育をされていました…

あんまり詳しいことは思い出せないんですが…

それと実は、付き合っていた彼女が恵理っていって、実は月光会のメンバーだったんです…

それで恵理から少し話を聞いて……」

「なにっ!どんな話を!?」

「それが……………

自分はオレの妹だなんて言い出して、

それで……ついには…

〔太陽の光〕が月光会とつながっているって…」

「お前の彼女はあいつだったか…

あれだけお前に近づくなと言ってあったのに!!

あの馬鹿が!!

しかも、そんなことまでしゃべりやがって!」

「えっ…………」

シンさんから返ってきた言葉はこれ以上ないシンさんへの信頼を一気に崩壊させるものだった…

そしてその瞬間、目の前にいる男は、オレの中で自分が信じていた存在とは別の存在になった…

「お前、月光会送りだな、あの女と一緒にまた再教育を受けてもらおう。

せっかく脱走まで試みてこっちに来れたのに兄妹そろって残念な奴だな!

それと何故ここにお前が来れたって!?

お前ら兄妹が脱走を試みた日、オレはお前らにチャンスをあげたんだ!

そこまでは覚えてはいないみたいだがな、

生き残ったほうがこっちに来れるっていう条件で、お前らに殺し合いをさせたんだよ!!

ハハハハ!」

恵理と別れて以来、見ていた悪夢……

それは恵理と殺し合いを強要される夢…

あれも過去の記憶の断片だったのか…

それじゃオレは恵理を刺して、ここへ来たというのか…………

「うっ!ぐあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

オレは感情に任せ、目の前にいる男に飛びかかった!!

しかし飛びかかった瞬間、オレは腹部に嫌な感覚を覚えた……

刺されていた…

携帯用のナイフか………

「馬鹿め…」

そう言うと男は机の中から薬品のようなものを取り出し、弱ったオレにそれを湿らせたを布をオレの口へ当てた…

一体オレはどうなるんだ…?

恵理は…?

あの時、恵理を信じていれば…………

恵理…ごめん…オレはダメな兄貴だったなぁ…

オレの意識は遠退いていった…




  → Bad day(6) 繰り返される悪夢 



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