何度も落ちる霊(1)

創作の怖い話 File.108



投稿者 でび一星人 様





「ま、まいった・・。降参や・・。もう勘弁してください・・。」

「よ・・っしゃぁ。 」



 ウチの名は、八木 鍋衣。

小学四年生。 ♀

入学して、三年と3ヶ月。

ようやく・・・

ようやく、達成できた。



学校制覇を。


「ほ、ほんまに強いな・・・。」

小6の番長がウチに言う。

「おう。当たり前や! でも、アンタも強かったで!」

ウチは小6番長を起こしてやった。



「アンタ、名前はなんていうんや?」

「あ、あぁ。おれは 猪猿。6年2組や。」

「ほうほう。 ウチは4年3組の八木 鍋衣や。 

まあ、ウチがこれからこの学校の番格張らしてもらうけど、猪猿は今まで通り、六年仕切っててくれたらええからな。 

別にアンタの方針に文句は言わへんから。」

「え・・。ほ、ほんまに、それでええんか?」


「あぁ。ええよ。 なるべく、弱い者むやみに苛めたりとかだけはせーへんようにな。 

何かトラブルあったら、いつでもウチに相談しに来ぃや。」


「あ・・ありがとう。 わかったで。 ワテ、これから姉さんに付いて行きますよってに!」

「ね・・・姉さんとか言うなや・・。 年下やんけウチ・・・。」



「・・・お姉ちゃん・・。」

番長と、青春チックに話をしていると、ふと後ろから声がした。

振り向くと、双子の弟の鎌司が立っていた。

ウチを含め、皆は【かーくん】と呼んでいる。

「おお!かーくんやんか。 どないしたんや。そんな背後霊みたいにいつの間にか後ろに。 

まったく気配感じへんかったで! かーくん、【気】消したりできるんか!??」


「・・・わからないよ。その【気】とかいう概念・・・。 姉ちゃん帰ろ・・。 スーパー、混みだすよ・・・。」


「あ、もうそんな時間か!」

ウチは番長に「ほな!番長!ウチ帰るわ! 明日からよろしくな!」

と一声かけ、かーくんと一緒に帰宅途中に有るスーパーへと向かった。


 うちとかーくんが帰りにスーパーに寄るのは、別にお菓子を買い食いする為やない。

ちゃんとした理由がある。

 もう、二年くらい前になるんやろか。

オトンとオカンが離婚した。

原因は、ハッキリとは言わへんかったけど、オカンが浮気をしたと察した。


 ある日、オトンが部屋に家族全員を集めて、

「お父さんとお母さん、これから別れて暮らす事になった。

鎌司、鍋衣、お前らは、お父さんとお母さん、どちらと暮らしたいか、自分で決めるんだ。」


 小学二年生のうちらに、オトンはそう言った。

普段はやさしく、大体のことは許してくれるオトンが、その日だけはものすごく怖い目をしてたのを今でも覚えとる。

 このウチが、オトンに何も言葉かける事が出来へんかったもん・・・。

オカンは、ただただ泣いてて、「ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・。」って謝るばかりやった。


 うちは、「ハッキリ言わな、わかれへんやんか!」

ってオカンに言うた。

でも、オカンはただ泣いて謝るばかり。


ウチはそんなオカンに腹がたってきて、

「謝るばかりって事は、オカンが悪いんやな! そんなハッキリせんオカンなんか嫌いや! ウチはオトンと暮らす!」

・・・って、きつい言葉を言ってしもうた・・・。

怖いオカンやったけど、凄く優しいときもあった。

間違うた事で決してウチを怒れへんオカンやった。


・・・もうちょっと、優しく声をかけたらよかったかなと、今少し反省している・・・。

ウチがそない言うた後、かーくんは、

「・・・僕が居ると・・何かと大変だろうから・・。 お父さんと暮らすよ。」

って言うてた。

そして、かーくんはポケットから飴をとりだして、オカンに渡して、

「・・・二度と、会えない訳じゃないから・・。 僕のお母さんは、一人だけだから・・。」

って、声をかけてたな。

かーくんは、優しいやっちゃでほんま。


・・・そういう訳で、ウチとかーくんは学校帰りにスーパーで買い物をして、夕飯を作らなアカンというワケ。


ウチらはスーパーでジャガイモやら人参を買い、家に帰って来た。

「ただいまぁ〜」


し〜ん・・・

もちろん誰もいないから、「おかえり」の声は無い。

二年前は、いつもオカンが「おかえり」って言うてくれてたっけ・・・。


 ウチは腕まくりをして、

「よっしゃ!かーくん、今日はウチが野菜切るからな!」

と言うと、

「・・・大丈夫?また指切らない?」

と、失礼な一言。

「ア、 アホ言うなぁ! 姉ちゃんのほうがアンタなんかより上手いんやでぇ!」

「・・・そう・・。 まかせるよ・・・。」


ウチは意地になり、タマネギの皮をマッハで剥き、マッハで切って行った。





マッハがいけなかったんだろう。






「・・・お姉ちゃん・・・。 包丁貸して・・・。 はい、これ、ばんそうこう持ってきたから・・・。」


ウチはかーくんからばんそうこうを受け取り、

「・・う、うん・・・。 おおきに・・・。」


と、うつむき加減に言った・・・。





 グツグツグツグツ・・・


沸騰した音がきこえてきて、まもなくカレーのいい香りが漂ってきた。

・・・くやしいが、やっぱりかーくんは料理が上手い・・。

たかがカレーというが、ウチが作ってたら、こうも【普通】のカレーの香りはしなかったかもしれない・・・。


 ウチはというと、指の負傷のため、部屋で寝そべって【ちちんぷいぷい】を見ている。

角さん、今日も普通だなぁ・・・。


 「・・・・。」

かーくんが、作り終わったようで部屋にやってきた。


「あ、おつかれさん! ごめんな!かーくん!」

「・・・うん。 いいよ。いつものことだし・・・。」

「は・・ははは・・・。」


苦笑するよりない。



そのまま、かーくんとウチはオトンが帰ってくるまで適当に遊んだ。

ちなみに宿題は、2人とも家ではやらない。

かーくんは、授業中ノートを取らないんだ。

先生が話してるのを聞くだけで頭に入るらしい。

それを、テストでそのまま書けば良いと本人は言っている。

90点以下の点を見たことが無い・・・。


 そんな余裕があるから、かーくんはその日出た宿題を提出するまでに、他の授業中に片付けてしまうらしい。

 ほんま、凄いやっちゃで!かーくんは!


 ウチはというと、宿題そのものをやらない。

テストで20点以上取ったこともない。

 でも、かーくんと違いノートはちゃんととっている。

しかも、良く書くので、他の生徒の二倍くらい、ノートの減りが早い。


だって、ノートのオモテからは黒板を写す。

ノートの裏からは落書き。


この二つが、ノートの真ん中でドッキングするタイプや。



今日は嫌がるかーくんと、無理やり【野球拳】をした。




結果はウチのボロ勝ち。


かーくんも、さすがにフルチンになるといつものようにマイペースでいられないらしい。

じゃんけん部門ではウチの勝ちや!!!!







六時過ぎ



「ただいまぁ〜。」


オトンが帰って来た。

「お、今日はカレーか。 いつもありがとうな。」

オトンはウチらを見てニコっと笑って、お風呂に行った。

・・・ここ二年、

オカンと別れてから、オトンはイッキに老けた。

二年前までは、あんなに白髪もなかったし、小じわも目立たなかった。

むしろ、周りからはよく「若く見える」なんていわれたりしとった。

・・・やっぱり、オトンは寂しいんやと思う。



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