何度も落ちる霊(2)

創作の怖い話 File.109



投稿者 でび一星人 様





オトンが風呂からあがり、三人でカレーを食べる。


「あぁ!かーくん、今日メシ5合しか炊いてへんやろ!!!」

「・・あ、ごめん・・。今日カレーだったの忘れてた・・・。」


「ま、まぁまぁ。 お父さん、カレーソバにして食べるから。二人で仲良く食べなさい^^;」


「オトンが食べへんところで、米足りへん事には変わりないわ!!!」

「・・・お姉ちゃん・・・。 どんだけ食うんだよ・・・。」


  そんな会話をしながら、ウチらは軽目にご飯を食べた。



 カレーを食べ終わり、ウチは三人分の食器を洗う。

洗うのはいつもウチや。

何でかというと・・・。


 部屋ではオトンとかーくんが将棋を指している。

オトンはすごく楽しそうだ。

オトンのこんな顔は、かーくんと将棋を指してる時にしか見られへん。


 やっぱり、オカンと別れてから、オトンはどれだけ笑った時でも、どこか寂しそうな雰囲気が消えへん。

でも、かーくんと将棋を指す時、

この時だけはホンマに楽しそうに、将棋の世界に入ってる感じがする。


だから、ウチはそんなオトンを少しでも見たいから、食器を洗う。

もしこんな理由がなかったらウチが洗うはずあれへん。




 「う〜ん・・・まいった・・・。お父さんの負けだ・・。」

「・・ありがとうございました・・・。」

どうやらオトンが負けたらしい。

最初のうちは、かーくんを手玉にとってたみたいやけど、最近はほとんどかーくんが勝っているようや。



 食器を洗い終わり、ウチも部屋に戻る。


「お、なっちゃん、ありがとう。ごめんないつも。」

オトンがウチに謝る。 【なっちゃん】とはウチのアダ名や。

昔は皆、なっちゃんって言うとった。

今では学校のシモベたちは【鍋衣様】って呼ぶのが多くなってもうたけど・・・。


 おとんがかーくんに話す。

「かーくん、本当に将棋強くなったなぁ。 お父さんも、けっこう強い方なんだけどな・・・。 

そうだ。 明日休みだし、一回将棋クラブにでも指しに行ってみるか?」

「・・・」

かーくんは即答しなかった。

「まぁ、嫌ならいいよ。 もし行きたくなったら声かけてよ。 お父さんより強い人もたっくさんいるからさ。」

「・・・うん・・・。」



時間を見ると、もう七時前だった。

ヤバイ!早くお風呂に入らんと、グルナイが始まってまう!

「かーくん!風呂入るで!」

「・・・うん・・・。」




ウチはかーくんを引っぺがし、風呂に入った。



ウチが湯船に浸かり、かーくんは体を洗っている。

「なぁ、かーくん、明日、オトンが言うてる将棋クラブ、行ってみるんか?」

「・・・ん・・・。 どうしよう・・・。」

「迷ってるなら行ってみたらどうや? ウチも、いくならついていくで!」

「う・・ん・・。迷うというか・・・。 本当はあまり好きじゃないから・・・。将棋・・。」



 そっか・・・。

やっぱりかーくんもウチと同じで、

オトンが将棋をしてる時の楽しそうな顔を見たくて、相手してるんやな・・・。



「そっか・・。 それやったら、しゃぁないな・・・。 オトン、嬉しそうやったけどなぁ。 かーくん誘う時・・。」

「・・・ホント?嬉しそうだった・・・?」

かーくんが泡だらけの体をこちらに近づけて言った。

「・・え、う、うん。 多分、自慢したいんとちゃうか??ヨソのおっさん共に。」

かーくんは少し考えて、

「・・・お父さんが・・喜ぶんなら・・ 行ってもいいかな。明日。」


 やっぱり、かーくんは優しいやっちゃで。



 風呂からあがり、オトンに「・・明日、いくよ・・。」とかーくんが伝えると、

オトンはすごく嬉しそうに明日の服とかを準備しとった。


 そんなオトンを見て、ウチらも嬉しくなった。





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「かーくん!なっちゃん! 準備できたかぁ〜?」

「・・・う〜ん・・・。」

オトンの声で目が覚めた。


見ると、隣で寝ているはずのかーくんが居ない。


ガチャッ

部屋のドアが開く。

「・・お姉ちゃん・・・。 二度寝しちゃったのか・・・。」

・・・ナヌ。 二度寝・・・。 そうか、またウチは、無意識で起きた時間があったんやな・・・。


 慌てて準備をし、なんとか2人が玄関で待つ時間を10分に留め、ウチら三人は外へ出た。

7月のお日様が容赦なくウチらを照らす。

暑い・・・。


「なっちゃんも、今日将棋指してみる?」

電車のキップをウチに渡しながら、オトンが言った。

「ハサミ将棋なら、ウチもやるで!」

「・・・そっか・・。 じゃ、今日は見学だね・・・。」

オトンは困った顔をして笑った。


 電車で西へ3駅くらい行ったところで降り、商店街の真ん中らへんの建物に入った。

「へ〜。こんなところに、こんなんするところあるんやな!オトン!」

「フフ。 知らなかったろ?」

おとんは自身ありげにそう言うが、小4で3駅も離れたところなんて普通知らんがな! って思った。


 「こんにちは。お久しぶりです。」

階段を登り二階に上がったところに部屋があり、そこにいたオッサンにオトンが声をかけた。

「おぉ〜。八木君やんか!久しぶりやなぁ。 なんや、えらい歳とってしもうて・・。」

「はは・・。」


オトンは愛想笑いをしている。

ぶっちゃけ下手だ。


 「今日はうちの息子を連れてきましたよ。 強いですよ。 

僕も最近は歯が立ちません。 五段くらいはあるんじゃないですかね?」



オッサンは、「ホンマかいな! また、えらい秘密兵器こしらえてきたんやなぁ。」

と笑った。


 「そっちの綺麗なお嬢ちゃんは?」

オッサンはウチを見ながら言った。

「娘です。 双子なんですよ。こいつら。」

「へぇ〜。そうなんかぁ。 また、お母さんに似て、2人ともエエ顔してるわぁ。 今日は奥さんは留守番か?」




・・・オッサン・・地雷踏みよった・・・。



「・・はは・・。 別れました・・。二年ほど前に・・。」

オッサンは困った顔で、

「え・・あ、そ、、そっか。 あ、 ごめん。 ごめん・・。 そっかぁ。 あぁ・・。」

と、言葉にならない声を発していた。



 「とりあえず、指してもらおっか。 一応、五段の手合いでいいか?」

そう聞くオッサンに、オトンは

「・・・はい。 ヨロシクおねがいします。 あ、僕は前のままで、四段でお願いしますね。」

と言ってた。


 部屋に入ると、将棋盤がズラリと机に並べられとった。

30〜50個はあるやろう。

お客さんは土曜日という事もあってか、既に30人くらいは居てた。

これが混んでるのか暇なのかはイマイチウチにはわからん。


 かーくんは端っこの席につき、【六段】の人と将棋を指す事となった。



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