Bad day(3) 記憶の断片

創作の怖い話 File.10



投稿者 ストレンジカメレオン 様





月光会………

その響きから抱くイメージはまさに闇…

人間を人間と思わない連中があの建物の中に…

そして恵理はその建物の中へと入っていった…

この現実をどう受け止めれば良いか分からないオレは無意識にその建物の入り口へと近づいた。

心臓が高鳴る…そして無性に中が気になる…

恵理は一体、何者なんだ。殺し屋の一味なのか…それとも殺し屋への依頼で来たのか…

どちらにしろ、信じがたい現実であった。

中を覗ける場所がないか、建物を一周したが、どうやらそれらしきものはなかった。

再び入り口の前に立ち尽くしたオレはそっと、入り口のドアに耳を当てた。

「…………………」

中は静まり返って、誰かがいるような様子はなかった。

そしてオレはそのまま、入り口のドアのノブに手を伸ばした。

「ガチャ………」

ゆっくりと少しだけ、ドアを開け、中を覗いてみると、長椅子が三つほど並べられた空間が目の前に広がった。

依頼客を待たせるための部屋だろうか…

しかし、そこには恵理の姿どころか、誰かがいる気配すら感じなかった…

(やはり恵理は月光会の一員なのか…)

この現実をまだ受け止めきれていないオレは、吸い込まれるように建物の中へと、静かに入っていった。

異様なまでに静まり返ったその空間は、現実の空間から離れ、

別空間へ来てしまったのではないかという錯覚を思わせるほどであった…

(今日はとりあえず活動日ではないみたいだな…)

この受け付け部屋の奥には、ドアが一つ、両脇にもドアがあった…

そしてオレは奥のドアの所まで進み、ゆっくりとノブに手を伸ばした…

「ガチャ………ガチャ…………」

しかしドアには鍵がかかっていて、そのドアを開けることは出来なかった。

奥のドアに鍵がかかっているのを確認したオレは

今度はすぐに右側にあったドアを開けようとノブに手を伸ばそうとした…

その時、このドアが明らかにおかしいことにオレは気付き、ぞっとした……

鍵はあちら側ではなく、こちら側からかける仕組みになっていた……

(な…なんで…まさか…誰かを閉じ込めておくための……)

次の瞬間、

「ガチャ」

後ろのドアからノブを回す音が聞こえた…

(まっ まずい…反対側のドアから誰かが入って来る!)

オレは急いで目の前のドアを開け、中へと隠れた。

すると目の前には、地下へと続く階段が現れた。

ここまで来たら引き返せないと思い、恐怖心をおさえ、オレは一段、一段、ゆっくりと階段を降りていった。

階段を降りきると、薄暗い廊下が目の前に広がった…

その廊下を見た時、なぜだか知らないが異常なまでの恐怖感がオレを襲った……

そして恐怖感と共に、ここに来たのは初めてではないような……そんな感覚もオレを襲った…

(ここの廊下……たしかに以前見たことあるような……うっ…思い出そうとすると吐き気がする…)

ゆっくりとオレは廊下を進んだ…

いくつもドアがあり、どれも頑丈な造りのドアになっていた…

(うっ………ここは…………?オレも以前ここに閉じ込められていた……?)

失っていた幼少の頃の記憶がここに来たことをきっかけに少しずつ思い出されていった……

たしかにオレはここに閉じ込められていた…そして人を殺すための教育を受けていた……

当時、オレと同じくらいの子供たちがここに閉じ込められ、一緒にこの最悪の教育を受けていた…

もちろん教育者からの虐待は日常茶飯事に行われていた…

あまり詳しいことは思い出せないが、

とりあえず明日を迎えるのが嫌でしょうがない日々をオレはここで送っていた…

そして特に嫌だったことを一つ思い出した……

それは子供同士のナイフでの刺し合い……

オレたちはナイフを持たされ、急所ははずすというルールのもと、ど

ちらかが気絶するまでお互いを刺し合うことを強要される日が何ヶ月かに一度あった。

オレの中でそんな嫌な記憶が蘇ってきた。

(…頭が痛い……オレはここで………誰か大切な人と刺し合うことになったような……………)

自分の恐ろしい過去が急に思い出され、ワケが分からなくなったオレは、震えながら、その場でうずくまった。

(そういえば…恵理はなんでこんなところにいるんだ…やはりこの恐ろしい会のメンバーなのか…)

「カツン…カツン…」

そんなことを考えてうずくまっていると、後ろから足音が聞こえた。

(まっ、まずい…誰かくる!!)

「カツン…カツン…」

「誰かいるの?」

後ろから聞こえた声は恵理の声だった。

隠れる場所もなく、どうしようもなくなったオレは全てを諦め、

その場で震えながら、後ろを振り返り、恵理がこちらに来るのを待った。

ぼんやりと恵理の姿が見えた。

「恵理……」

「こ、浩一!!なんでこんなとこに!!なにか物音がするかと思ったら…」

「そ、それはこっちのセリフだよ!恵理こそなんでこんなとこに!!」

「うっ…とりあえずここにいるのは、まずいわ!他のメンバーにバレないように 外に出るわよ!

もう上には戻れないわ!会議が終わって、他のメンバーが会議室から出てくる時間だわ!」

「恵理…オレを助けようとしてるのか!?」

「後で全部話すから今はここから出ることだけを考えて!!

こんなとこにいるのを他のメンバーに見つかったらすぐに殺されるわよ!」

「わ、分かった…」

「とりあえず、非常口があるから、そっちに向かうわよ!鍵は私が持ってるわ!」

オレは恵理と一緒に、非常口を目指しさらに奥へと進んだ。

意外にも地下は広く、なかなか非常口へとはたどり着かなかった。

しかし、通り過ぎる景色に見覚えがあるのは確かであった…

完全に失っていた記憶がその景色を通り過ぎる度に、さらに少しずつ蘇っていた。

そう、どれも思い出す度、吐き気がするような記憶たちが…

そして、ここで恵理と二人で非常口を目指すというこの状況……以前にも……同じような状況が……………

「あれが非常口よ!!まさかまた浩一とこんな状況になるなんて…子供の頃は、

私達、あそこで捕まっちゃったのよ、ふふふ、浩一は覚えてないだろうけどね!」




  → Bad day(4)  別々の道



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