父と息子(1)

創作の怖い話 File.99



投稿者 でび一星人 様





いつの間にか歳を取り、

おれは48歳になった。

一年ほど前に、先輩が退職し、仕事のほうで役職に着く事になり、

給料がイッキに15万も増えた。

それまで、実家のほうで別居してた妻と2人の子供を呼び寄せ、

今は家族四人で平和に暮らしている。


・・・しかし、まだ子供たちが小さいからいいものの、

このオンボロマンションは、ちと四人で住むのには狭すぎる。

マイホーム購入も考えなければいけないのだが、いかんせんこの歳だ。

ローンを組んだとしても払っていけるかどうか・・・。


「お父さん!」

妻の沙織が呼んでいる。

「ほいほい。」

ちょっとふざけて返事してみた。

「早くこっちに来なさい!」

やっぱり、沙織はカチンと来たようだ。 このO型女め。

おれは早足で沙織のいる台所へと向かった。 

・・・べ、別にビビってなんかはいない。


台所に着くと、沙織がおかずを盛っている。

「お父さん、ちょっとご飯並べるの手伝って!」

「えぇ〜。 疲っかれてるし、全部用意できてから呼んでくれよ〜〜。」

「いいから手伝いなさいよっ!」

「はい。喜んで。」


優しいおれは、沙織が盛りつけた料理を丁寧にテーブルに並べた。

「かーくん!なっちゃん!ご飯よ〜〜〜」

沙織が四歳になる双子の子供たちを元気に呼ぶ。

2人は向こうの遊び部屋で、仲良くダイヤブロックで遊んでいたようだ。


「ほ〜〜〜い!」

「・・・」


元気な娘と、大人しい息子が台所へとやってきた。

「今日は、あんたたちの大好きなカラアゲよ!」

沙織がウインクする。

「やっほほ〜い。」

娘は超テンションが高い。

椅子に飛び座り、いただきますも言わずに食べようとする。

「こら!なっちゃん!」

沙織はきっと、鬼ママだ。 あの、保育園で問題児と言われているなっちゃんの動きがピタリと止まった。


ふと、かーくんの方を見ると、大人しく座り、頂きますの号令がかかるのをじっと待っている。

どうして双子でこんなにそっくりなのに、こうも中身が違うのか・・・。


「はい、じゃあ、手合わせて! いただきます。」

「いただきまーす。」

「・・ぃただきます・・。」

「いただきます。」


家の家族は、食に対しての意識が高い。

食する事に必死で、会話が無い。

近年では、最も野生に近い食家族かもしれない。


「ごちそうさまでしたっ!」

なっちゃんが1番に平らげ、椅子から飛び降り、急いで遊んでいた部屋へと駆けて行った。


かーくんは相変わらず、モグモグと静かにゆっくりと食べている。

 まだ4歳にして、おとなしいわが息子。

「おい、どうだ?かーくん?保育園は楽しいか?」

父と息子の会話がしたくなり、おれは息子に声をかけた。

「・・・うん。楽しいよ・・。」

「そ、そうか・・。」

                   ☆会話終了☆

「・・ごちそぅさまでした・・。」

しばらくして、息子はそろっと椅子を降り、姉の居る【あそび部屋】へと歩いて行った。


「・・ふぅ。」

おれは腕を組み、一息ついた。

沙織はシンクで食器を洗っている。

「・・姉弟でも、ああも性格が違うもんなのかなぁ。」

沙織に話しかけた。

「う〜ん。 そうねぇ。 同じように育ててるつもりなのに、不思議よねぇ。」

 食器を洗い終えた沙織が、自分のコーヒーと、おれの紅茶を入れて隣に座った。

おれはコーヒーが飲めないからね。


「あ、そうそう。」

沙織がなにか思い出したように口を開いた。

「そういえばね、なっちゃんは至ってわんぱくなだけらしいんだけど、かーくんの事で今日、

保育園の先生から気になる事を聞かれたの。」

「・・ん?気になる事?」

「・・うん。 なんか、『かーくんって、家でも独り言とかよく言ってるんですか?』って・・・。」

「独り言?」

たしかに大人しい子だが、独り言を言ってるところなんて見た事がない。

沙織は、「・・うん。『いえ、別にそんな事ないですけど?』って答えたら、『あ、そ、そうですか。』って・・・。」

「う〜ん・・。 何かあるのかな?」

「ね。気になるでしょ? お父さん、ちょっと男同士の会話で聞いてみてよ。 そういうの好きでしょ?男の子って。」

「・・いや・・それ、なにかドラマとか見た先入観でしょ・・・。」

しかし、たしかに気になる事だ。

ちょっと今日、かーくんと2人で話しをしてみようと思った。

「沙織、今日さ、なっちゃんと2人で風呂入ってくれるか? おれはかーくんと2人で入って、少し話ししてみるよ。」


「そう?お願いね。」


 男同士、裸の付き合い。 男だけの会話も、そろそろ必要だろう。

おれは遊び部屋の方へ行き、戸を開けた。

「かーくん。 風呂、入ろう。」

息子は、なにやらダイヤブロックで作っている手を止め、おれの方へ歩いてきた。

「なっちゃんも入るーー!!」

「なっちゃんは今日はお母さんと入りなさい!」

「えええええ ヤダヤダヤダヤダーーーー」

「今日はかーくんと2人で風呂に入るから、ね。 我慢してよ。」

「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダーーーー」

「う〜ん・・・。」

ドンドンドンドン!!

沙織の駆け足の音が聞こえて来る・・・。

「・・・なっちゃん、ヤバイぞ・・?」

娘も、この次の展開が読めたようで、顔が引き締まった。

バーーン!

沙織が鬼のような形相で部屋のフスマを空ける。

「なっちゃんっ!!!おとなしく言う事ききなさいっ!!!」

・・・おれと息子は、手を繋いでソロソロっと風呂へと向かった・・。






 ザパーン・・・

「どうだ?かーくん、きもちいいかぁ?」

息子のちいさい背中を流すおれ。

「・・うん・・。」


「今度はお父さんの背中も流しとくれよ。」

息子はコクリと頷き、ゴシゴシと一生懸命に背中を洗ってくれた。


ザパーン

「ありがとう。 ごめんな。かーくん。 今時シャワーも無い家で。」

「・・・」


息子とおれは、ゆっくりと湯船に浸かった。


今だ。今、このタイミングで話さなければ。

おれは、ゆっくりと息子の背中越しに質問をした。

「・・なぁ、かーくん。保育園でかーくん、独り言を良く言ってるって聞いたんだけど、

家では独り言なんて言わないだろ? 保育園で、何かあるのかい?」

「・・・」


息子はやはり、何も答えようとはしなかった。

「あ、はは・・。ごめんごめん。 言いたくない事もあるよな。 男だもんな。」

おれは息子の、まだ【ドリル】みたいな先っちょを見ながら言った。


ザバーン・・・


「さ、さぁ、そろそろあがろっか。」

無口な息子だ。 繊細なのでやはり多少は気を使ってしまう。

「・・・お父さん・・・。」

「ん?」

息子は、湯船に浸かったまま出ようとしない。

「もう少し、浸かってよう・・・。」

珍しく息子がおねだり?をしたので、

「・・ん、あぁ。そうだな。 外、寒いもんな。」

といって、おれは再度お風呂に浸かった。


湯船に浸かるおれと息子。

・・・ふと、息子の視線に気づいた。

 息子は、風呂場の扉の端をじっと見つめていた。

一体なんだろう・・。

おれも見つめてみた。

・・・


・・・何も・・ないが・・・。

・・・

・・・ん?

じっとそこを見つめていると、ある事に気づいた。


その部分は、棚の横なので影があるのだが、


その影が異常に大きい事に気づいたのだ。


おれは目を逸らした。

第六感が、それを見るなと言っている。


おれは息子の目も、そこから離そうとした。

「・・やめて!」

息子はめずらしく大きな声でおれの手を払った。


息子は、その影を見ながらうんうんと頷いている。


1分くらい、経っただろうか。

黒い影は、風呂場の窓の隙間からスーーっと外へ出て行った。


ザブン。

息子はのぼせた赤い顔をして湯船から出た。

「・・あがろう。お父さん。」

「あ、あぁ。」

おれと息子が風呂場から出ると、

「遅かったわねぇ!」

沙織と娘が全裸でスタンバっていた。

「風邪引くやんか!このクソオヤジ!」

娘の言葉遣いは親として今のうちに教育すべきだろうか・・・。



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