輪廻(2)

創作の怖い話 File.94



投稿者 でび一星人 様





「さて、そろそろ占ってあげるかね。 アンタの子供たちが、どんな名前が良いのか・・・。」

百舌木先生は、そう言うとブツブツ何かを唱えながら水晶に手をかざした。

水晶はなにやら怪しい光を放ったように見えた。


「・・う・・む・・・。」


百舌木先生の顔に汗が滲む。


「む・・・この二人・・・。 過去に強い気綱で結ばれておったようじゃな・・。」


百舌木先生はそう言うと、水晶にかざす手を止め、おれの顔を見て話しかけてきた。

「・・・少し、名前が出るまで時間がかかるよ。・・・」

「そ、そうですか・・。 待ってますよ。」

わが子の今後の運命を左右する名前だ。

待って当然だろう。


「・・アンタ、輪廻って知ってるかい?」

百舌木先生は腕を組み、質問をしてきた。


「はぁ・・。 あの、生まれ変わるヤツですよね?」

「そう。 人は死に、そして生まれ変わる。 それを繰り替えすのサ。」

「はぁ・・。それが、どうしたんですか?」

「自分や、自分の子供が、生前何だったのか気にならないかい?」

たしかに気になる。 しかしお金の心配が・・。

百舌木先生、ひょっとして、その占いをして更にお金を巻き上げるというコスい手では・・・。


「安心しな。 別にお金なんて取りゃぁしないよ。」


読まれてる・・・。



「気、気になります。 見てもらえるんですか?」


「ふ。 もう既に見たよ。 名前を決めるためには、そこは避けては通れないからね。」

「ええ! お、教えてくださいよ!! 僕生まれる前、何だったんですか?」

「アンタの嫁さんは、けっこう凄い人だったみたいだね。 戦国時代のとある有名な武将の娘だよ。」

「へ、へぇ〜〜。すごいじゃないですか!! ・・で、ボ、僕は・・?」


「・・・アンタかい?」

「はいっ!」

「・・・聞くのかい?」

「は・・はい!」

「・・・その姫様はね・・。 恋をしたんだよ。 隣の国の下級の武将にね。」

「ほ、ほうほう。」

下級でも、姫と恋に落ちる武将・・・。 かっこいいじゃないか!


「・・その、武将のギョウチュウだよ・・アンタ・・。」

「ハワ・・ぎょ、ギョウチュウ?」

「・・うん・・。ギョウチュウ・・。」

「あ、あの、お尻にペッタンって貼って検査する、 あのギョウチュウ?」

「・・あの、ギョウチュウさ。」

「・・・」


「・・・」



一瞬止まった空気の中、先生は、

「あ、アンタの子供たちは、幕末に恋をした二人だよ。」

「・・ぁ・・あ、そ、そうですか!ハハハ すごいですね!」

おれは精一杯、元気なフリをした。

「・・・しかし・・死後、この世を彷徨い・・・そして二人とも地獄に落ちたようだねぇ。」

「地獄?」

「あぁ。 地獄での永い永い苦痛に耐え、その刑期を負えて、これからこの世に転生するみたいだね。」


「地獄って、終わりがあるんですか?」

「・・・あるよ。 終わりのないものなんて、無いサ。」

先生はそういうと、説明用になにやらグラフ、みたいなのを書いた紙をカバンからゴソゴソと取り出した。


「死後はね、その直前に生きていた時の善悪により、天国に行くか、地獄に行くかが決まる。

しかしどちらにも、定められた期間があり、


その期間が終われば、またこの世に転生されるのさ。」


「な、なるほど・・。」
おれは7割理解した。


「・・・ただね。 あの世とこの世では、時間軸が異なっていてね。

向こうで100年経っても、こっちでは1日しか経っていなかったりするのさ。

・・・これは例えなだけで、時間の速度はこちらと平行しておらず、むしろ逆光することもある。

まったく違うものナノサ。

だから、今アンタが死んだとして、次は戦国時代に転生するという事も大いにありうる事なんだよ。」


「ほほう。なるほど。」
おれは5割理解した。



「ま、アンタの事だから、ほとんど理解しちゃぁいないかもしれないがね。 

とりあえず、昨日成仏して、あの世で1000年暮らして、今日また生まれ変わるなんてことも、

時間軸が違うから頻繁にある事だよ。」



「バッチリわかりましたぁ!!!」
おれは3割理解していた。



「さ、出たよ。生まれてくる二人は、この名前にすればいい。アンタが考えてた名前を少し改良したよ。」

百舌木先生はそういって、名前を書いてくれた紙をおれに手渡した。

「ほうほう。 この名前で、子供は幸せになれるんですね!?」

「あぁ。 まちがいないよ。 幸せに導いてくれるさ。」

先生はそういうと立ち上がり、おれに顔を近づけ、

「・・ただね、幸せの尺度なんて、人によって全然違うのさ。 問題は、本人がどう感じるかだよ。」

先生はニコっと笑い、手をおれに差し出して、

「・・はい。占い料、2000円になるよ。」


「え、に、二千円で良いんですか?あの有名な先生が??」


「ふふ。 それはもう過去の話さ。 今は、アンタのような道に迷った人を、

正しい方向に導いてあげれたらそれで満足なんだよ。 

ただ、飯を食っていくお金くらいはもらってもバチは当たらないだろう?」

「ご、ごもっとも・・・。しかし本当にいいんですか・・?」

「いいからいいから。 ほら。 とっとと払って行きな! もうスグ電話が鳴るよ。 アンタのね。」

テロリロロ〜ン


リロロ〜ン

ロリロロロ〜ン

エイドリア〜ン


裕史の気持ちの悪い着メロが鳴った。

「あ、病院からだ。」




「もしもし?」

『あ、八木裕史さんの携帯電話ですね? ス、スグ戻ってきてください! 生まれそうです!』


「なんですとおおおおおお!!!!」


先生は、「ほら。いわんこっちゃない。」


「先生!ありがとうゴザいます! はい、お金です! それでは!お元気で! このご恩は忘れません!」

「礼はいらないよ! ちゃんと報酬は頂いたからね!」


先生に一礼し、おれは病院に急いで向かった。


電車に乗り、病院に着き、急いで分娩室の前に行く。

まだ、【分娩中】のランプが点灯している。

中からは、沙織のものであろう喘ぎ声が聞こえてきている。

この声が、加藤先生の伝説の【ゴールドフィンガー】のすごさを物語っている。


分娩室の前の椅子に腰掛け、おれは貧乏ゆすりをしていた。

しばらくして、


「キャッ! キャッキャッキャッ!」

分娩室から、赤子の笑い声が聞こえてきた。

これも、加藤先生の成せる技。

加藤先生が取り上げた赤子は、鳴き声ではなく笑い声と共に生まれてくるのだ。

さすが、【ゴールドフィンガー】!!!


分娩室のランプが消え、加藤先生が出てきた。

「先生!」

おれは加藤先生に駆け寄った。

「いやぁ・・・。これはご主人。 超安産でしたよ。」

加藤先生はニコっと微笑んだ。

「あ、ありがとう・・ありがとうございます・・。」

涙が目に滲んできたのが、自分でも解る。

「元気な双子です。 あなた方二人の子だ、きっと、美男美女になるでしょう。」


加藤先生はそう言うと、次の分娩の為、第二分娩室に向かおうとした。

「先生!」

おれは加藤先生を呼び止めた。

「・・何ですか?」

「先生ほどの腕があるのに・・。なぜ、こんな小さい病院で・・?」

加藤先生は足を止め、体半分こちらに向けた様態で、

「・・・私はね、この手で、幸せと共に生命を取り出す事が、好きなんです・・幸せなんですよ。

・・・十分幸せなのに、他に何か要りますか?」

おれは何も言い返せず、数度頷く事しか出来なかった。


加藤先生は、「ご主人も、本当はわかっていらっしゃるはずだ。」と微笑み、第二分娩室に入って行った。



ガラガラガラ・・


ベッドを看護師に押され、沙織が分娩室から出てきた。

「沙織!」

「裕史・・。」


隣には、スヤスヤと眠る猿みたいな小さい二つの生命。

「ぶ・・・無事に生まれたんだな・・。」

また、涙がこみ上げてきた。

「うん・・。私と・・裕史の子よ。」

沙織も泣いていた。

おれはその小さい手に指を近づけてみた。あかちゃんはそんなおれの指をキュっと握った。

「凄いな・・何かすごい・・・。 言葉では・・上手くいえないけど・・。」

「フフ・・。 そうね・・。あ、それより、名前は決まったの?」

沙織に聞かれ、おれは慌てて先生に書いてもらった紙を取り出し、沙織に見せた。

沙織の反応は、

「・・・え・・この名前・・・? 大分当初と違ってるような気がするけど・・・。」


と不満げだったが、おれは「幸せになれる名前なんだぞ!」って言って、無理やり納得させた。

後日、出生届けを出して、おれと沙織の子供は正式にこの名前になった。







【長女: 八木 鍋依    長男:八木 鎌司】



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