輪廻(1)

創作の怖い話 File.93



投稿者 でび一星人 様





産まれる

産まれる・・・。

もうスグ産まれるんだな。

おれの子が・・・。


おれの名は裕史。

今、妻の沙織が入院している病院のロビーにいる。

妊娠してから、もう十ヶ月目に入った。

先生の診察では、今週中にも産まれるという事らしい。


ガチャッ


診察室のドアが開き、沙織と先生が出てきた。

「やぁ。これはこれは、ご主人様。こんにちは。」

先生が笑顔で挨拶をしてきた。

本当に、おれたちは運がいい。

あの伝説の産婦人科医、【加藤 ヤス】先生が担当なんて・・・。

加藤ヤス先生は、ここ近年で一気に名の売れた、【切らない産婦人科医】だ。

今までヤス先生が取り出した赤子の数は軽く数千人を超えるという。

その出産のどれも、

一切【穴】を切った事が無いのだ。

先生の最大の武器、【ゴールドフィンガー】で穴を拡張し、

妊婦は痛みでは無く、快感と共に子供を産む事ができるのだ。


「先生、ヨロシクおねがいします。」

おれはペコリと頭を下げた。

ヤス先生はゆっくりと頷き、

「任せてください。」

と、右腕を掲げ、ゴールドフィンガーをクイクイっとやった。


妻が痛みなく出産できるのは凄くありがたいことなのだが、

ちょっと微妙にジェラシーを感じるのは気のせいだろうか・・・。



「ご主人、一応、年齢的には高齢出産になりますが・・、

沙織さんは日ごろから非常に食生活に気を使っておられるのですね。 

まだまだ、30前の身体機能ですよ。 だから、安心してくださいね。」


「そうですか。 ありがとうございます。 先生、ヨロシクおねがいします。」

おれは再度頭を下げ、先生と別れ、沙織を病室へと連れて行った。



 沙織がベットに座り、おれはその横の椅子に腰掛ける。

「ふぅ。 ありがとうね。裕史。 わざわざ平日に。」

沙織が申し訳なさそうに言う。

「何言ってんだよ。 ひょっとしたら今日産まれるかも知れないのに。 

仕事は朝マッハで片付けてきたよ。 だれも文句言うヤツはいないよ。」

おれも、もう44歳。

今の仕事を始めて15年のベテランだ。

年下も増えたし、何より向いていたのだろう。

周りより仕事はこなせると自分では思っている。



「・・そう。 ごめんね。気つかわせちゃって・・・。 あ、それより、名前、考えて来てくれた?」

「おぉ。 うんうん。考えてきたよ。」

おれはポケットから折りたたんだ紙を出し広げた。

それを沙織に見せ、「こういうのはどうだろう?」

【男 八木 総司   女 八木 エイ】


先生が言うには、どうやら子供は二卵性の双子らしい。

それも男の子と女の子。


「ふ〜ん。 良いんじゃない? 総ちゃんと、エイちゃん。 私、なんか気に入ったよ。」

沙織がニコっと微笑む。


・・・ホっとした。


実は昨日、考えてくると約束してたのをうっかり忘れてて、

今日ここに来る電車の中で、なぜか頭に浮かんだ名前を紙に書いてたからだ。

・・・でも、やはり、唐突に浮かんだ名前はちょっと気になる・・・。

「・・沙織、まぁ、さ。 一応さ、名前の占い師みたいな人にさ、この名前見てもらおうと思うんだよね。 

画数とかさ。いろいろあるみたいじゃない? だから少し変わるかもしれないけど・・・。」


「うん。そのときは、それでも良いとおもうよ。」

「そ、そっかそっか。 じゃあ、ちょっと見てもらってくるわ。 この名前。」

「え?どこかにそういう知り合いいるの?」

「い、いや、いないけど、そういう店?がいっぱいある商店街を知ってるからさ。 神社の近くに。」

「そうなんだ。 じゃぁ、気をつけて行ってらっしゃい。」


手を振る沙織に一声かけ、おれは病院を出た。


I神社の近くの商店街には色んな占いの店がある。

よくもまぁ、こんなにあるのにどれも潰れないもんだな・・と、いつもここを通るたんびに思う。

 どの店が良いかと、品定め?しながら商店街を歩いていると、


「・・ちょいと、お兄さんや。」

後ろから声をかけられた。

振り向くと、黒い服に黒い帽子をかぶった、【魔女】のようなおばあさんが立っていた。


おばあさんは、

「あんた・・占いの店を探してるんだろ?」

と、声をかけてきた。

「は、はぁ。 そうですが・・わかりますか?」

ニコっとおばあさんは笑い、

「・・・あたりまえだよ・・・。 私ぁ、未来が見えるからね。」

といって親指で向こう側を指し、

「・・着いといで・・・。」

と、おれを船頭するようにトコトコ歩いていった。


・・・なんだか気になる・・・

・・・ボッタクリの危険も頭を過ぎったが、おれはおばあさんに着いて行く事にした。





「よっこらしょっと。」

商店街を出て数分ほど歩いた所に、

おばあさんが商売をしているであろうテーブルが野ざらしに置いてあり、その椅子におばあさんは腰かけた。

おばあさんは、その向かいに置いてある椅子を指差し、おれに【座れ】と合図している。

おれはゆっくりとそこに腰掛けた。


なにやらおばあさんは難しい顔をしながら、カードをペラペラとやっている。

そんな状況が数分続いただろうか、おばあさんは唐突に、

「・・なるほど。 あんた、子供の名前を見てもらいに、アソコで店を探してたわけだね・・。」

と、言った。


「え、えぇ! な、なんで解るんですか??」

「私をだれだと思ってるんだい。 今でこそ、こんなところでヒッソリと店出してるが、

一昔前は占い師として第一線でバリバリやってた身だよ。」


おばあさんはそう言うと、今度は水晶玉を取り出し、手をかざし始めた。

「・・・ふむ。 あんた、普通に見えて、ここまでなかなか数奇な運命を辿ってるんだね・・。」

おばあさんはそこまで言うと手を止め、

「申し遅れたね。 私の名前は【百舌木 和子】。 人呼んで、【闇夜の百舌】さ。」


百舌木 和子・・・  もずぎ かずこ・・・。


「・・あ!」


百舌木 和子 聞いた事がある。

まだおれが小学生の頃、

占いや、心霊などのオカルトブームが巻き起こった時、テレビに引っ張りだこだった占い師の名前だ。

ズバズバと占いを命中させ、テレビの企画で生放送中に、時効間近の犯人を捕まえたこともあるほどの人だ。


・・・しかし、闇夜の百舌は、ある日突然占いの力を失う。

何をやってもハズしてしまうようになった。

三度ほどハズし、それ以来まったくメディアに顔を出さなくなってしまった。



「も、百舌木先生・・・。 よく昔テレビで見てました・・。」

「フフ・・。そうかいそうかい。 覚えててくれてたんだね。」

百舌木先生はそう言うと、笑いながら、また水晶に手をかざし始めた。


「あんた・・ひ・・ひろし・・って名前だね・・。 うむ・・。良い名だね。 

あんたの生年月日・・7月1日生まれに実に合った名前だよ・・。」


恐ろしくズバズバ当たるのでおれは怖ささえ感じた。

まだ、名前も生年月日も何も言っていないのに・・・。


「・・・アンタは・・いまどき珍しく、【欲】が少ない人間だね・・。 けっこうな事だよ。

・・・欲は、身を滅ぼす・・。 昔の私がそうだったようにね・・・。」


百舌木先生は、昔の話を少ししてくれた。

先生は、本当に未来がズバズバと見えるらしい。

それを、ただ言うだけ・・・それで有名になり、テレビにも引っ張りダコになったそうだ。

しかし、まだ30代だった当事、やはり欲に目がくらんだ。

金の為に人を見た。

己の欲の為に・・・。


ある日、急に未来が見えなくなった。

何も見えなくなった。

でも、入っているスケジュールをこなさなければならなかった。

先生は、イカサマをして、なんとか食いつないだ。

だが、それにも限界があった。

ある日、自分のしてきた愚かさに気付き、先生は占う事をやめた。

そしてメディアから姿を消した。


「・・・アンタが、欲の少ない人間だからだよ。 こんなに私が話すのはね。」

「・・は・・はぁ・・。 と、ところで・・今はズバズバ当ててるみたいですが・・・。 

もう見えるようになってるわけですか?」

おれは恐る恐る聞いた。


百舌木先生はニヤリと笑い、

「あぁ・・。 アレから、私もいろいろ苦労したさ。 全財産を使い果たし、色んな人を助けた。 

その結果・・だね。これは。 やはり、力というのは、人の為に使わないといけないみたいだねぇ。」

百舌偽先生の一言一言には、何かしらの経験から来る重みが感じられた。


「さて、そろそろ占ってあげるかね。 アンタの子供たちが、どんな名前が良いのか・・・。」



★→この怖い話を評価する



[怖い話]


[創作の怖い話2]