無視(1)

創作の怖い話 File.87



投稿者 でび一星人 様





「う〜ん・・・。」

目が覚めると、おれは公園のベンチの上で横になっていた。

木漏れ日が眩しい。

おれは起き上がり、座った。

「いてててて・・・。」

酷い頭痛だ。・・・一体、なんでこんなところで寝ていたんだろう・・・。


 記憶を辿ってみる。

・・・そうだ。昨夜、会社の忘年会に行ったんだ。

沙織も一緒に・・・。

沙織というのは、去年籍を入れたおれの嫁さんだ。

約1年の同棲生活を経て、おれがプロポーズした。

・・・まぁ、そのプロポーズの話は別にあるのだが、怖くないので、またどこかで話すとする。

話は戻るが、

・・・たしか・・昨夜・・・

忘年会が終わって・・・沙織と一緒に帰っていた・・・。

そうだ。

調子にのって飲みすぎて、途中で気分が悪くなってゲーゲー吐いてたな、おれ・・・。

沙織が背中をさすってくれて・・・。

どうしても立てないから、この公園で休憩してたんだ。

「ヘックション!!」

やヴぁい・・。

こんな時期に、公園で寝てたもんだから、風邪ひいちまったな・・・。

とりあえず、帰ろう・・・。


ん、というか、沙織はどこにいったんだ・・?

おれは辺りをキョロキョロ見渡したが、沙織らしい人はどこにも見あたらなかった。


・・・怒って先帰ったか・・・?

・・・たぶん、そうだ。 おれが調子にのって飲みまくってるとき、「やめときーーや!!」って、

えらい怒ってたもんな・・・。

しかし置いてけぼりとは・・・酷でぇ・・・。

カーン カーン カーン・・・

おれは踏み切りを渡り、家へと向かった。


家に着くと、案の定電気がついていた。


ガチャッ


ドアを開けて部屋に入ると、エアコンがつけてあり、暖かかった。

「た、ただいまぁ〜〜。」

そのままリビングへと進む。


リビングでは、沙織がテーブルの前に座ってた。

「沙織〜。置いてけぼりなんて酷いじゃないか〜。」

おれは沙織に弱々しく語りかけた。

・・・無視・・・。

沙織はこちらを向こうともしない・・・。

やっぱり、忠告も聞かずにあれだけ飲んだ事を怒っているのだろう・・・。


とりあえず、おれは沙織の横に座った。

沙織は一瞬おれの方を見たが、スグにまた違う方向に目を逸らした。


・・・そしてまた無言の時間が続く・・・。

にしても、沙織はなんでテレビもつけないで黙ってるんだろう・・・。


おれはこの静寂に耐えきれず、

「沙織?ちょっとテレビつけるね?」

と言って、テレビをつけた。


パチン


日曜の午後。

ゴルフ番組が画面に映し出される。

しかしおれはゴルフに興味が無いので、ほかのチャンネルに変えようと、テーブルに置いたリモコンを取ろうとした。

その瞬間、沙織はサッとリモコンを取り、テレビを消した。

「・・何だよ?沙織? 」

・・・沙織の息は乱れていた。

沙織はリモコンの電池を抜き取り、畳んである布団のほうに投げた。

「な、何なんだよ? そんなに怒ることじゃないだろ? なぁ・・」

と、おれが言いかけたが、沙織はおれを無視し、台所の方へズカズカと歩いて行った。


「・・はぁ・・・」

おれはため息をついて、テーブルにもたれかかった。

・・・たしかに、飲みすぎるなと注意されたのを無視して飲んだのは悪い・・・。

そして帰りに、途中でダウンしたことも・・・。


でも、

ここまで怒る事ないだろう?

「沙織!」

おれはちょっと大きい声で沙織を呼び、台所へと向かった。


「・・・たしかにさ、おれも悪いよ? でもさ、そんなに怒ること無・・。」

おれがそう言いかけた時、

ふと沙織の目に涙が浮かんでいるのが見えた。

「・・・沙織?・・どした?」


沙織はシクシクと泣いていた。


でも、おれの事はやはり無視して、沙織はまた、部屋へと戻っていった。


「・・・何なんだよ・・。 」

でも、今の沙織の表情の悲しさは、凄く伝わってくるものがあった。


・・・もしかして・・酔っ払った時に、おれは何か凄く酷い事をしたのではないか・・・。


だとしたら、ちゃんと謝らないと・・・。


おれは沙織を追って、部屋に向かった。


部屋では、沙織がテーブルの前に座り、写真を見ていた。

 おれも一緒に、それを覗き込んだ。

「・・あ、披露宴の写真じゃないか。 もうあれから一年経つんだなぁ。」

おれは微笑みながら沙織に話しかけた。

しかし、沙織は泣いているだけで、まるでおれが空気の如く無視をする・・・。


ドン!!

おれは立ち上がり、テーブルを叩いた。

さすがに、ここまで無視されたら気分が悪い。


「なぁ?一体おれが何をしたんだ? ちゃんと話してくれ! おれもちゃんと謝りたい!」

さすがに、音にビックリしたのか、沙織はキョトンとしていた。

そしてやっと沙織が口を開いた。

「・・・何・・・?」


「・・え?いや、何って、だからさ、おれが一体何をしたって聞いてるんだけど・・・。 とりあえずごめん・・・。」(←弱気)

沙織はきょろきょろしている。

焦点が定まっていない感じだ・・・。


「どうしたんだよ?沙織?」

おれはそんな沙織の手を握ろうとした。

「・・・え・・・」

おれは何が起こったのか理解出来なかった。

おれの手は、確かに沙織の手を掴んだ・・・。

掴もうとした・・・。

その手が、沙織の手をすり抜けた。


「・・・・・?」

もう一度沙織を触ろうとした。

でも、おれの手は沙織の体をすり抜ける・・。


何が起こっているのか、マジわからない。

そして、ふとした推測が頭を過ぎる。


もしかして、沙織は・・・死んで・・・。



 沙織はまた泣き出した。

そして、写真を見ながら、

「裕史・・・。」

と喋っている・・・。


おれはどうしていいのか解らず、沙織の横にまた座った。

沙織がすでに死んでいようがいまいが、おれにとって大事な人にはかわりない。

今、ここにいるんだから、隣に居てあげたいと思った。


泣いている沙織を、ただただ見つめていた。

沙織は写真を見ながらポロポロと涙をこぼす。

「裕史・・・何で死んじゃったの・・・。」



・・・え・・・?


沙織はそう言うと、テーブルに蹲った。

沙織がずっと泣いている中、おれは混乱していた。

そして、数分が立ち、なんとなく状況を把握した。


もしかして・・・


死んだのは・・・


沙織じゃなく・・・






おれ・・?



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