不法侵入(2)

創作の怖い話 File.83



投稿者 でび一星人 様





(う、嘘だろ・・・。)

裕史は人形かなにかと見間違ったのかと思い、もう一度よくその死体を見てみた。

くぼんだ目

乾燥して、ところどころ崩れかかっている箇所、

やはりどう見てもこれは死体だ・・・。

一体なんで死体が転がってるんだろう・・・。

並の人間なら、ここで引き返していただろう。

でも裕史は更に階段を下る。

死を三年後に控え、自分に残された時間が少ないという感覚なのか、

何かをやりかけて、途中でやめる事は最大のムダだという理念があったのだ。


・・・コンコンコン・・・


例の音がまた聞こえてきた。

大分大きく聞こえてくる。


階段をくだり終えると、真っ直ぐに廊下が続いていた。

左右に部屋のようなスペースがあるが、扉はついていないようだった。


(・・・ん?)

向かって右側の部屋の奥に、人影らしきものが見えた。


・・・コンコンコン・・・

左奥の部屋から、例の音が聞こえてくる。

(両方気になるが。。。さて、どちらから見ようか・・・。)

裕史は一瞬考えたが、やはりムダの少ないであろう、近い場所から見てみる事にした。

向かって右側の部屋にある、人影の方へと進む。


近づくにつれ、人影はハッキリと見えてきた。

・・どうやら、女性らしい。

白いスカートを履いている。

ゴソゴソと、座り込んで身を縮めるように動いている。

念のため、裕史はその女性のオーラを遠目ながら、目をこらして見てみた。

・・肌色に光っている。

つまり、ちゃんとした生身の人間という事だ。

霊では無い。

ゆっくりと、女性に近づく裕史。

女性は裕史の存在に気付き、脅えているようだった。

そんな女性を見て、裕史は、

「あの、すいません。怪しいもんじゃないんですが・・。 あなたはこんなところで一体何を・・・」

そう言いかけたときに、その女性の顔がハッキリと見えた。


「え・・さ、沙織ちゃんのお母さん?」

さっきまで一緒にいた、沙織ちゃんのお母さん・・・にそっくりな女性が、そこに座り込んでいた。

そっくりとわかったのは、その女性はずいぶんとやせ細っていたから別人だとすぐに気付いた。


訝しげな顔をしながら、その女性は口を開いた。

「・・・あなたは・・?」

危険な相手では無いと、裕史は察し、その女性に顔を近づけながら、

「僕は、ちょっと沙織さんっていう子の母さんに頼まれて、この家の様子を見に来たんです。

 ・・そこでこんな部屋を見つけたというワケなんですが・・・。 」

「・・・」


女性は無言になり、裕史の顔をじっと見つめていた。

それにしても。。。

似ている。

かなり痩せてはいるが、沙織ちゃんの母さんにウリ二つだ。



 そのとき、突然その女性の目からポロポロと涙がこぼれ出した。


裕史はビックリして、

「え、あ、どうしました?何かありましたか?」

女性の涙は止まる気配が無く、裕史の顔をじっと見つめて、ただただ泣いていた。

裕史も、どう声をかけていいのかわからずに、じっとその女性を見つめていた。


そのまま数分が経っただろうか、

女性は口を開いた。

「・・・裕史君・・・。」

「え・・・?」

裕史はハッとした。

『裕史君・・』

今の声には、聞き覚えがあった。

昔の記憶が蘇る。


そう。目の前の女性は、


「・・もしかして・・沙織ちゃん・・・?」

沙織は手で顔を覆いながら泣き崩れた。


「・・沙織ちゃんだった・・のか・・・。 」


沙織ちゃんは、左腕に長い手錠のようなものをはめられ、柱につながれていた。

手錠に付いた鎖は5メートルといったところか。


その動ける5メートルの範囲内にトイレや風呂などの設備はちゃんと整えられているようだった。

「沙織ちゃん・・・なんでこんな事に・・・。」

裕史はそう言いかけて止めた。

大体察しが付いたからだ。


・・沙織ちゃんと婚約したという林田と言う男。

彼が沙織ちゃんをここに監禁しているのだろう。

・・つまり異常者という事が伺える。

そして、定期的に母親に電話をさせる。

あたかも幸せに生活をしているように話をさせて・・・。

でも、林田も沙織ちゃんも気付いていなかった。

沙織ちゃんが隠し事をするときの話方の癖を。

それを沙織ちゃんの母親は感じ取っていた。



そんな事を今の沙織ちゃんに聞いても、傷口をかき回すようなものだ。

無き崩れている沙織ちゃんに、裕史は

「沙織ちゃん、ちょっと待ってて。 その手錠を外せるようなものを探してくる。」

と言って、他の部屋等を調べに行こうとした。

立ち上がろうとした裕史のズボンの裾を、沙織が掴んだ。

「・・・お願い。側に居て・・。」

・・かなり酷いことをされて来たのだろう・・・。

かなり精神的に衰弱している様子だった。

顔や腕に無数の痣も伺えた。


 裕史はそっと、沙織の頬に手を当てた。

「大丈夫。必ず、その手錠を外すから。 そして早くここから逃げよう。」

と言って、ゆっくり頷いた。

沙織も、涙は止まらない様子だったが、ゆっくりと頷いた。

そして、「・・・ありがとう・・・。ごめんね・・・」

と、裕史に呟くように言った。

とりあえず、裕史は例の音が聞こえて来る部屋に向かった。



コンコンコン・・・


相変わらず音は聞こえている。

ゆっくりゆっくりと、左奥の部屋に向かって歩く。

・・他の部屋には扉は無かったのだが、その左奥の部屋だけはきちんとドアが備え付けられていた。

そのドアを見た瞬間に、裕史の顔色が変わった。

あきらかに、ドアの隙間から【黒いオーラ】がにじみ出ていた。

黒いオーラは、死んだ者が発するオーラだ。

これだけのオーラという事は、ものすごい死者がうごめいている。

裕史は自分に憑いている首を切り裂かれた女性の霊を見た。

・・・相変わらず、じっと裕史を見ている。

(・・まあ、こいつが居るから大丈夫だろう・・・。)

大概の霊は、裕史に憑いている霊を見ると去って行く。

もしくは、取り込まれてしまう。

裕史に憑いている霊は、なにかしら強力な霊のようなのだ。

裕史は息を飲み、ドアノブを回した。


ガチャッ






















異臭が鼻を突く。

部屋は死体の山だった。

冷蔵庫のようにすごい低音に設定されているのだろう。

凍えるような寒さの部屋だった。


そして、オーラから察したように、案の定、数十体の霊がじろりとこちらを一斉に見る。

裕史は目を合わせまいとしたが、これだけの数だ。

数体と目が合ってしまった。

睨みつけるように裕史に近づいてくる。


・・・だが、裕史は怖くもなんともなかった。

やはり、裕史に憑いている霊を見ると、逃げ出すように部屋から消えて行った。


霊が消え、死体だらけの部屋を裕史は見回した。

「・・ん?」

部屋の奥中央に、柱が立てられ、そこに縛られるている死体を見つけた。

(なんであの死体だけ縛り付けられてるんだ・・?)

裕史はその死体に近づいた。

・・・コンコンコン・・・


ビクっとした。

その死体から、音は聞こえてきていたのだ。

死体が、手をグーにして柱を叩いている。

「ぅ・・ぅぅ・・・」

突然、その死体がうめき声を発した。


裕史は混乱したが、冷静にオーラを見てみた。

・・・薄めだが・・・肌色・・。 まだ生きている・・。


「お、おい?聞こえるか?」

裕史は声をかけた。

「・・ぅぅ・・う・・・お、お前は・・?」

どうやら意識はしっかりしているようだ。

急いで裕史は縄を解いてやった。


どうやら何も食べずに何日も放置されている男のようだった。

「・・ふぅ・・手足が  ガチガチに 固まってもて・・上手く動か へんわぁ・・」

糞尿も垂れ流しの状態だったようで、死体の匂いで紛れてはいるが、かなりの悪臭を放っていた。


裕史はとりあえず、カバンに入っていたペットボトルのお茶と、

母さんにあげようと商店街で買ったコロッケをその男にあげた。

「・・あ、ありがてぇ・・。」

男はお茶をイッキに飲み干し、コロッケをちびちびと食べた。

固形物は何日も食していない胃にはイッキに入り辛いらしい。



コロッケを食べ終わり、一息つくと、ゆっくりと男は口を開いた。

「・・にいちゃん・・助かったで・・。 ありがとうな。」

裕史は、まず自分がここに来たいきさつを男に話した。

そして、こう続けた。

「・・いえ・・。それより、一体この家は何が起こっているんですか・・? この死体の山は・・・。」

当然の疑問を口にした。

男は、
「ああ、兄ちゃん、カタギの者か・・・。 そかそか。ホンマは、あんまりそういう人間には話すモンやないんやが・・・、

助けてくれた流れや・・・。話さんわけにもいかんわな・・・。」


その男の名前は教えてくれなかったが、どうやら本職のヤクザ屋さんらしい。

聞くところによると、

まずこの男の組と、林田の属している組は非常に仲が悪く、あちこちで小競り合いが耐えない状態のようだ。

その小競り合いで、身柄を押さえた人間を監禁し、弱ってきたり死んだ者を【捨てる】部屋として、

最近ここを使っているような事を、林田は言っていたらしい。

この男も、林田の組に捕まり、拷問を受けたあげくに、ここに監禁されたとの事だった。

「・・じゃあ・・林田って男は・・ヤクザって事なんですか・・?」


「ん?おう。知らんかったんか・・・兄ちゃん。 

こいつは・・・れっきとした幹部や・・。その筋では・・・有名なやつやで。 」


(・・・そうだったんだ・・・。沙織ちゃんはこんな男と・・・)

裕史のテンションレベルが3くらい下がった。


「まあ、とにかくほんまにこの恩は・・必ず返すからな。 感謝するで。兄ちゃん。」

男がそう言った時だった。


ガチャッ


上から音が聞こえた。

男が難しい顔をして、
「・・ヤバイな・・・。 アイツ、帰って来よったで・・・。」

「・・え?あいつって、林田が?」

「・・・あぁ・・。 今の状態じゃ、まず負ける・・。 ワシの体も大分弱っとるからな・・。 」

男はゆっくりと立ち上がって、さっきまで縛り付けられていた柱を指指し、。

「・・兄ちゃん、もっかいここにワシを縛ってくれ。さっきとおんなじようにな。 時間が無い。早ぅしてくれ。」

裕史は言われるがままに男を柱に縛り付けた。

ギィ・・

ギィ・・・

ギィ・・・

階段を下りてくる音が聞こえて来る。

「・・チっ、この死体、ジャマだなぁ!」

林田であろうボヤキ声も。


再度縛られた男は裕史に、

「兄ちゃん、ちょっと臭いかもしれんが、そこの死体に混じって、死体のフリできるか? 

とりあえず、アイツに兄ちゃんがバレてもうたら、ゲームオーバーやさかいにな。 

アイツは強い。頭もキレる。 しっかり死体やってくれや!」

裕史は抵抗を感じながらも、死体に埋もれて横たわった。

背に腹は変えられない・・・。


ギィ・・

ギィ・・

足音は、だんだん大きくなる・・・。



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