喰らい尽くす

創作の怖い話 File.79



投稿者 dekao 様





変形菌
(へんけいきんとは、変形体と呼ばれる栄養体が
移動しつつ微生物などを摂食するという
”動物的”性質を持ちながら、小型の子実体を形成し、
胞子により繁殖するという植物的(あるいは菌類的)
性質を合わせ持つ、特異な生物である。
(粘菌、ねんきん)といわれることもある。


俺は、佐々木義男

大学でバイオテクノロジーを学んでいる

時々、同じジャンルの研究をしている教授の手伝いをして

バイト代を稼いでいる、ま、貧乏学生だ

今日も雅教授という、その分野では第一人者の人に呼ばれて

実験の手伝い…のはずなんだけど

「佐々木君、これを見たまえ。」

「これは…変形菌、粘菌ですね。」

「そう、この迷路の出口に粘菌のエサを置いておいた。」

「はい。…一直線ですね。」

「そうだ、迷路の最短ルートを通ってエサまでたどり着いている。」

俺は、教授が何を伝えたいのか知るため

沈黙で返答した

「不思議だとは思わんかね? 目も、耳も、鼻も無い粘菌が…。」

「はい。」

「何故、正確に最短のルートが分かるのか?」

「まだ、その解明は世界中でも…」

「そう!! されていない!!」

急に拳を振り上げると、教授は声高に叫んだ

…大学中でも変わり者の評判が高い教授の真骨頂だな

「私が現在、研究しているのは何だ!? 佐々木君!!」

「はい、粘菌に光りを当てると、特定の形状になる事を利用して

バイオテクノロジーでトランジスターの代わりに粘菌を用いる

粘菌コンピュータに関する研究を…。」

「その通り!! その通りだ!! しかし、それだけではないぞ!!」

…初耳だ

「と、おっしゃいますと?」

「んっ!? …まだ早い!! もっと成果が出てからだ!!」

自分で振っておいて言わないのかよ

「まぁ…環境問題に関する研究、とだけ言っておこうか。」

「環境問題!? 粘菌で、ですか!?」

「まぁ、そのうち教えてやる!! 今日は、もういい!!」

「…はい、失礼します。」

「………もう…間もなく」

「は?」

「何でもない!!」

俺は一礼して、教授の研究室から立ち去った

粘菌で環境問題解決? どんな研究なんだろうか?

まぁ、技術は超が付く一流の教授の事だ

かなり素晴らしい研究成果が出るだろう

それから数日の間、教授から呼び出される事もなく

俺は、卒論のため自分の研究に没頭していた

ふいに携帯が鳴った

…雅教授からだ

「はい、佐々木です。」

「さ…ささきく…ん…」

「教授!? 雅教授!?」

「じっけ…んは…しっぱいだ…たすけ…」

「教授!? 研究室ですか!? 今、行きます!!」

俺は一直線に雅教授の研究室に走った

乱暴にノックしてドアを力任せに開けた

「…っつ!?」

どう表現すれば伝わるのか

子供のオモチャで『スライム』というのがある

その薄黄色のスライムが、壁や天井に

大量に張り付いて、ウネウネと動いている

そんな感じだ

呆然と立ち尽くす俺に

「佐々木…君。」

声がかかった

我に返り叫ぶ

「教授!? 教授!! どこです!!」

「ここ…だ。」

右手奥のデスク、そこから声が…

「…教授?」

薄黄色の粘菌に、体が半分以上飲み込まれた教授の

半ば溶けかかった変わり果てた姿が、あった

内蔵まで見えている!!

「実験は…失敗したよ。」

「教授!! 何の実験だったのですか!?」

「…環境…もんだ…問題の…かいけつ」

「教授!!」

「プラスティックを…食べる、微生物と…粘菌の…融合だ」

成る程!! わざわざゴミに微生物を散布しなくても

粘菌の特性なら、夢の島へ放り出せば

自分からエサを求めて動く

しかも、最短距離を!!

「だが…微生物しか…食べない粘菌と比べ…

この…改良種は…」

「この改良種は!?」

「全てを…食べ尽くすのだよ…佐々木く…ん」

全て!? ちょっと待てよ!?

「しかも、その運動スピード、増殖スピードは…ケタ外れ…だ。

少し、シャーレを開けておいた…だけで…この始末だ。」

「教授!! しっかり!!」

「…燃やせ!!」

「え?」

「こいつらは…動物、植物、無機物関係なしに…たべ…る」

雅教授の視点が合わなくなる

「教授!! 教授!!」

「も…やせ…もや…せ…も…………や……………グブッ!!」

大量に血を吐くと、教授は動かなくなった

「教授ー!!」

俺の肩に、何かがボトッと落ちてきた

慌てて見ると、肩の上で粘菌がウネウネと動いている

叫びながら振り払う!!

とにかく燃やすのが先決だ!!

ドアに向かおうと振り返った俺の目には

ウネウネと動く厚い粘菌の壁しか移らなかった

粘菌を振り払った右手に激痛が走る!!

皮が溶け、肉が見えている!?

俺は子供のように叫びながら右手を振り続けた

ズルリと肉が垂れ下がり、真っ白な骨が見えた瞬間

俺は膝から崩れ落ちた

へたり込み叫び続ける俺の頭の上から

粘菌の固まりが落ちて………………

最後に聞いたのは

切れ間なく

けたたましく笑い続ける

俺の…声…



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