ヤリナオスノ?(2)

創作の怖い話 File.67



投稿者 でび一星人 様





「ただいま〜」

「あ、おかえり沙織。」

高校を出て、十年も一人暮らしをしていたもんだから、

実家で暮らすようになって、家に帰って母が居てくれる事のありがたさが身にしみる。

母は、私の大好物を作ってくれた。

母オリジナルで、作り方はまだ教えてもらっていないが、とにかくおいしいのだ。

「これ、本当においしいよね。コリコリしてて。」

「フフ。東京に出てってから、舌が肥えたと思ってたけど、それ聞いて安心したわ。」

夕飯を食べながら、母との会話。

30歳という年齢になって、その重みを感じるようになった。

結婚して、子供が出来たら、

またもうひとつ、母のありがたみがわかるようになるのかな。

「もぐもぐ・・そういえば、沙織。」

「ん?」

「ちょっと思い出したんだけど、裕史君って、覚えてる?」

「ん・・。裕史君・・・。だれだっけ^^;」

「ほら、高校の同級生で居たでしょ?」

「・・あ!」

思い出した。

裕史くん・・・。

高校二年の頃、同じクラスだった裕史くん。

どちらかというと地味な子で、そんな目だったタイプではなかったんだけど、

ちょっとグレ気味で、クラスに仲のいい子も居ない私にとって、なんとなく気になる存在だった。

なんというか、一見真面目なんだけど、どこか変だった。

たとえば、ケシゴムを落としたときに、しゃがんで取ればいいのに、

上履きを脱いで、足の指で挟んで取ろうと必死になってたり、

鉛筆は必ず貧乏削りをしてたり、

チラっと見たノートの端っこにはイミフメイの落書きだらけだったり、

おそらく本人は自分が普通だと思いこんでるっぽいけど、ちょっと変だった。

私はどことなくそういう魅力に惹かれたのを覚えている。

・・・いや、

そんな裕史君が好きだった。

そうだ。

高校三年生の卒業式。

私は裕史君を待ち伏せした。

荒井由美ばりにまちぶせした。(若い子ごめん2)

気持ちを伝えようとした。

でも、

裕史君は、私が気持ちを伝える前に、友達に呼ばれて、去っていった・・・。

その時、なにか私に叫んでいたけど、何言ってるかぜんぜん聞き取れなかったっけ。

そうだ。

その後、寂しく私は就職の為に東京行きの列車に向かったんだ。

列車の中で、私は寂しさで泣いたけど、

あれは母や故郷に対する寂しさだけではなかったんだろう。

裕史君・・・。

「・・その裕史君がどうかしたの?」

「いやさ。何回か、アンタをたずねて来てたんだよ。 まぁ、ここ数年はもう来なくなっちゃったけどね・・・。」

「・・・え?」

裕史君が・・・

私を訪ねてきていた・・・!???

「な、なんで今まで黙ってたの??」

「ん?ごめんごめん。忘れてたんだよ。 というか、最後に来たのはもう五年くらい前だよ?」

五年前・・・。

私が大阪に行った時くらい・・・。

母にはほとんど連絡をしていなかった。

たま〜に、年一回くらい電話してた程度。

大阪で水商売してるなんて言える訳がなかったから・・・。

食事が終わり、お風呂に入り、私は床に就いた。

裕史君・・・。

母からあんな事を聞いたもんだから、私は裕史君がまた気になってしまった。

でも・・・

でも、もう昔の話しだよね・・・。

今の私には林田さんがいる。

私を大事に想ってくれてる林田さん。

優しい林田さん。

忘れなきゃ。

林田さんにも、失礼だ。

私は今で、幸せだよ。

林田さんと一緒に居れて、凄く幸せ。

裕史君、ごめんなさい。

アナタは、もう・・

思い出です・・・。

サヨナラ・・・。

その晩、私は夢を見た。

高校三年生の卒業式のあの日の夢だ。

裕史君がよく時間を潰してた場所で、

私は座って待っている。

案の定、裕史君はそこに来た。

裕史君は、先客が居るから仕方ないと思ったのか、すぐにどこかに行こうとしたので、

「・・・裕史君・・・。」と私は呼んだ。

「あ!」

裕史君は、どうやら私に気付いたらしい。

「さ、沙織ちゃん・・・ひ、久しぶり・・・。 」

「う、うん。」



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