ヤリナオスノ?(1)

創作の怖い話 File.66



投稿者 でび一星人 様





「主任!入院です!!」

「ええ!配膳まであと15分よ?何食?」

「・・えっと、DM1400です!」

「形?きざみ?」

「形みたいですね。」

「・・OK予備あるからいけるわ。 

看護士さんに伝えといて。食事箋は30分前までに持ってきて!・・・ってね。」

「はい!伝えておきます!」

私の名前は沙織。

今年でとうとう、三 十 路 

25歳で入学した大学を難なく卒業する事が出来た。

大学で、食品のなんたらかんたらを学び、

【管理栄養士】という資格をなんだかしらないが取ることが出来た。

なのですんなり、大阪でそこそこ大きな食品会社に就職する事が出来たってワケ。

顔もそこそこカワイイからね。フフ

まず最初は、本社の研修を三ヶ月ほどやらされた。

けっこうな頻度で飲みに誘われて、日中は睡魔との闘いの日々だったわ。

その後は、満床で200床くらいの病院に配属された。

「頭でっかちな栄養士にならないためにも、最初は現場で経験しなさい。」

と、担当の人が言って、私はそこで役一年間現場で調理補助や配膳を行う。

はじめは、なんで四大出て、合格率2割という難関な国家試験をクリアして、

こんな肉体労働をしなきゃならない・・・。

なんて思った事もあった。

いや、随時思っていた。

人間、最初から何でも出来る人なんてそういない。

口の悪いパートさんには、どやされーの、

手癖の悪い調理師のおっちゃんには触られーの。

週一回ドブ掃除までやらなきゃならない。

一体何回くらい辞めようと思っただろうか?

入社から一年くらい経ったある日、私は限界が来た。

担当に退職願を出したんだ。

すると担当は、「もう少し、部長は鍛えたかったみたいなんですが、今でももういいでしょう。」

と言った。

そして私は転勤になった。

驚くなかれ、その転勤先が、私の生まれ故郷だったの。

懐かしい空気。

心機一転、私は新たな病院で、今度は【栄養士業務】をすることとなった。

そこの病院は、満床でも60床くらいの小さな内科専門の病院。

比較的、病院の業務としたら楽なほうらしい。

その病院には、天才外科医の朝田先生という人が居て、他にも女の麻酔医、アル中の消化器外科医、

口は悪いが腕はいい心臓外科医と、個性あふれる集団が、【医龍】のように揃ってるはずはありませんよ。 

内科専門の病院です。(バロス)

小さい病院だからという理由で、栄養士は私一人。

はっきり言って、かなりのプレッシャーだった。

まずは献立をたてなければならない。

ちなみに私は委託会社側の栄養士にあたるのだが、病院が直接雇っている栄養士も居る。

病院側の栄養士さんの厳しいチェックを乗り越え、

朝、昼、夕。 更には常食、糖尿、心高、肝臓、腎臓等、

数種類の病状に分けた献立を、まるでパズルのように組み立てていく。

そのなかで同じ食材が続いたりしたら、病院の栄養士の手裏剣が飛んでくる。

やりなおし。

毎日12時間働いた。

はたらいたさんに5000点状態だ。(若い子ごめん)

それが終われば、監査用書類の日計というのを作らなければならない。

更には発注業務。

栄養指導は病院側の栄養士さんの仕事だから私はノータッチなのだが、

急がしい時には調理も手伝わないといけないし、

三十超えた私には辛いわぁ。 状態だ。

でも、一応納得いく業務に近づいてはいるので、満足はしている。

日々充実していた。

野望を言えば、今年いろいろ覚えて、病院に直接雇ってもらう事かな。

「・・・主任?・・主任?聞いてます?」

調理の鈴元君が喋っている。

「・・あ、ご、ごめんなさい。今ちょっと思い出に浸ってしまってた。」

「・・・もう。 無事配膳が済んだからって、ボーっとするのは悪い癖ですよ!」

「アハハ。 ごめんごめん。 で、何?」

「今日、早あがりでしたよね? 迎えに来てますよ。カ レ シ さんが。」

「あ!そうだった。 今日仕事終わって会う約束してたんだった!」

「・・・どうぞ。後片付けしておきますんで、早く着替えて行ってあげて下さい・・・。」

そう。私はとうとう彼氏が出来たんだ。

今時珍しいよね。30歳になるまで彼氏が居なかったなんて。

彼と最初に会ったのは、もう10年も昔の事だ。

存在すら忘れかかっていた。

それが三ヶ月前、道でバッタリ会った。

後ろから声をかけられたんだ。

運命の再開・・っていうやつかな。

その後食事をして、電話番号を聞いて・・・。

自然に私たちは付き合うようになった。

きっと、あの日、この人と別れてしまったのは、この日ここで出会う為だったのかもしれない。

心からそう思う。

「ごめんなさ〜〜〜い!」

慌てて私は彼の元に走る。

「ハハ。いいよいいよ。全然待ってないし。 走ると転ぶよ〜?」

彼の心配は良く当たる。

膝に新たな擦り傷が増えた私は彼の車の助手席に座った。

「おつかれさん。 お仕事ご苦労さん。」

「ごめんね〜。待たせちゃって。」

「ハハ。だから気にしないでって。 花・・・じゃなかったな。沙織ちゃん。」

「あ!またその呼び方! もうその名前は封印したでしょ!林田さん!」

彼の名前は林田さん。

私は昔お水系のお仕事をしていた。

林田さんはその時勤めていたお店のボーイさんだった。

私の源氏名が【花子】だったため、今でもたまに昔の癖で【花ちゃん】と言ってしまう事があるようだ・・・。

その後私は林田さんと一緒にドライブをし、カラオケに行き、夕食をご馳走になり、家まで送ってもらった。

「じゃあね。沙織ちゃん。おやすみ^^」

「うん。おやすみ^^。またね〜〜。」

今、林田さんは、この町にあるスナックやラウンジ数店を任されているらしい。

社長に気に入られて、「田舎のほうの店だけど、おまえやるか?」といった感じでこうなったらしい。

まだ26歳という若さで、そこそこ稼いでいる。

でも私はお金なんかじゃないからね。

愛よ!愛。

ちなみに林田さんが四つも年下だとは、最近知った。

最初に私が勤めたのが19だったから、林田さんは当時まだ15歳で夜のお店のボーイさんをやっていた事になる。

怖い話だ。


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