タイムカプセル

創作の怖い話 File.65



投稿者 でび一星人 様





【私には能力がある。それは…】

「・・・おいっ!裕史!! 何一人で読んでんだよ!おれにも見せろよ!」

泳吉が駆け寄ってくる・・・

おれの名は裕史。

今日は同窓会に参加した。

高校三年生の集まりだ。

今年で29歳になる。

もう、あれから10年以上も経つんだな。

本当に、月日の経つのは早いと思う。

来年は三十路・・・。

ますます早くなるのかと思うとちょっと凹む。

今、おれたちは卒業式に埋めたタイムカプセルを掘り起こしている。

意外と、木を目印に埋めてても、見つからないもんだ。

ようやく見つけ、掘り起こした。

各々が自分の手紙を読む。

題名は【10年後の自分】なのだが、

ちょうど10年目の時にはぜんぜん参加人数が揃わなくて同窓会は中止になった。

かくいうおれも、その時は定職にも就いておらず、

東京に住んでヒモをやっていたために顔を出さなかった。

でも今は違う。

今おれは大阪に住んでいる。

とある事情で東京から出ていかなければならなくなり、

迷ったあげくに、仕事が沢山ありそうな大阪に住むことに決めた。

始めの一ヶ月は、ネットカフェ難民をやりながら職を探した。

そうこうしてるうちに激安のアパートを見つける事ができた。

・・・まぁ、言ったら【出る】部屋だったんだが、

とある事情で、おれは普通に霊が見えるようになってしまってたんだ・・・。

しかも、おれは一年ほど前から霊に憑かれてしまっている。

首が半分ほど切り裂かれ、いつもおれをじっと見つめる女の霊なんだが、

逆に言うと、今までそのアパートに憑いてる霊はおれに憑いてる女の霊を見るなり、

そそくさとどこかに逃げていった。

そんなにどぎつい霊なのだろうか・・・。

今日は同窓会の為に、生まれ育った故郷にしばらくぶりに帰って来た。

ここ三年ほどは帰ってきてなかったから、久々に見る母さんはちょっと老けたように感じたな。

・・・まあ、そんなこんなで、今日は同窓会に出席している。

クラスは32人だったのだが、参加人数も24人と、けっこうな数が来ていた。

初日の夕方にまずは宴会をやって、

家に帰るものは帰り、翌朝にタイムカプセルを掘り起こして、記念写真

といった予定だ。

おれはもちろん久々に帰って来たので家に帰った。

仕事が変わって、今は工場の作業員になってしまった事を話した。

「大学まで出させてもらったのに。。。ごめん。」

と謝ると、

「あんたが元気だったらそれでいいよ。 ヒモとかやってる最悪な人も世の中いるからねぇ。」

と、言ってくれた。

・・母さんちょっとだけごめんよ・・・。

そして今日、タイムカプセルをおれたちは無事に掘り返す事もでき、

未来の自分に対する手紙をそれぞれが読んでいる。

おれも、自分の手紙を読んだ。

【 10年後の裕史君へ。 3年B組 八木 裕史

10年後のおれは、無事に過ごしていますか?

・・・たぶん、無事中の無事なんだと思う。

ぎゃくに、つまらなさ過ぎる人生になってると思う。

特にあたりさわりもなく、

変に冷めた人生を送ってるんだろうね。

でも、それでいいと思う。

だって、いろいろめんどうなことがあったら、しんどいし。

あたりさわりなく生きれたら、それが楽だと思うから、

これからも、可もなく不可もなくで、過ごして行って下さい。

それでは。】

・・・高3の頃のおれ・・・。

たしかに、冷めてたな・・・。

人生とは、本当にわからないものだ。

大学を出て、就職するまで・・は、この延長線のような人生だった。

どこかで、脱線したんだろうな・・・。

でも、ま、それもいいもんだと思っている。

いまこの道にたどり着いて、見えたものもあるんだから・・・。

そのとき、ヌゥっと、おれに憑いてる女の霊が顔を出した。

・・・はいはい・・あなたも、今の人生だから見えたモノなのかもね・・・。

慣れたっチャー慣れたが、憑かれてる現実にちょっと凹んだ。

さて・・と。 他にもいっぱい手紙が入ってるな・・・。

皆は、自分の手紙を読み終わり、今日出席していない人の手紙まで読み出してキャーキャー言っている。

・・・人の手紙まで・・・。

と、思ってはいたのだが、

(・・・ん?)

まだ、一通だけ、カプセルの中に手紙が残っているのが目に入った。

なんでだろう?

他のやつらが手紙を読んでいるのをイヤラシく思っていたのに、

おれはその手紙をそっと手にとった。

なになに・・・

【10年後の自分へ   三年B組  矢神 照巳】

・・矢神照巳・・・。

そういえば居たな・・・そんなやつ。

ほとんど目立たないヤツだった。

おれもどちらかというとソッチ系の生徒だったのだが、まだおれには【泳吉】という親友がいた。

矢神はおれの数倍は目立たないタイプだった。

なんでおれが名前まではっきり覚えてるかろいうと、名字が【八木】だから、

出席番号の関係で、矢神のすぐ後ろだった。

本当にそれくらいのもんだ。

そんなしょうもないヤツの10年後への手紙なんて読んでも仕方ないのだが、

なぜかおれは自然とその手紙を開いた・・・。

【10年後の自分へ 3年B組 矢神 照巳

私には、能力がある。それは・・・】

「・・・おいっ!裕史!! 何一人で読んでんだよ!おれにも見せろよ!」

おれを見た泳吉が駆け寄ってくる・・・

「・・あ、泳吉。 これ、矢神って覚えてる? 一枚のこってたから・・。」

「おうおう!一枚残ってるのはおれも知ってたんだ。 一緒に読ませろよ^^」

そして、おれと泳吉は並んで手紙を覗き込んだ。

【私には能力がある。それは、未来を見る事が出来る事だ。

最初にこの能力に気がついた時は、高校一年の頃だった。

頭の中に、なぜか体育の時間に、青田君が怪我をする映像が浮かんできた。

なんでだろう?と思っていたら、本当にその映像通りに青田君は怪我をした。

一体どんな現象なんだろうと思ったよ。

それからも、しばしば、頭の中に映像が流れるようになった。

だんだん私は怖くなってきた。

なぜなら、本当にその映像の通りの事が起こるからだ。

ある日、私は自分が怪我をする映像を見た。

鉄棒から落ちて怪我をする映像。

その日の体育はちょうど鉄棒だったために、私は体育を見学した。

でも、ムリだったんだ。

その放課後に体育を仮病で見学したと、他の生徒が先生に言ったらしい。

起こった体育教師は、無理やり私を鉄棒にぶら下げた。

力のつよいその教師に対して、私は抵抗した。

抵抗したのがいけなかったのかもしれない。

私は高い鉄棒のところまで持ち上げられ、そこから落ちた。

まったく映像の通りだった・・・。

そこで実感した。

この世の中では、運命は決まっている。そして、それは変えられないものだと・・・。】

・・そこで一枚目は終わっていた。

「・・・泳吉・・・どう思う・・・?」

おれは永吉に聞いた。

「どう思うって・・・。 ちょっとこいつ、頭おかしかったのかな? 

あんまし喋んないやつだったし・・・。 とりあえず、二枚目いっとこか?」

【 高校二年になるころには、私は未来を見るコツをつかめるようになった。

ある程度、年月の設定をして、未来を見る事ができるようになったのだ。

なので、高校の中間テストで、未来のテスト問題を見ながら、そのまま答えを書いてテスト全て100点を取った。

・・・後日、担任から「どんな方法でカンニングをした?」と問い詰められた。

それ以来、70点か60点に調整して点を取るようにした。

三年になる頃には、他人の未来も見えるようになった。

いついつ、誰がなにをするのか?

が、自分の意思で自由自在に見れるようになった。

はたから見れば、便利なようなこの能力だが、

いざ自分がもってしまうと、単なる怖いものでしかない。

『かならずそうなる』からだ。

変えられないのだ。

つまり、自分が死ぬ未来を見てしまうと、必ず来る死を恐れながら生きなければならない。

こんな怖いことはない・・・。】

二枚目はここで終わっていた。

「・・・けっこうマッドなやつだったんだな・・・。」

泳吉はボソッと言った。

「・・・たしかに・・・。」

おれも言った。

かなり・・・アタマがイッテたとしかいいようがない・・・。

「あ。。。」

と、その時泳吉が声をあげた。

そして、怖いことを言った。

「・・・そういえばさ、矢神、高2のころ・・・確かに全教科100点のときあったわ・・・。 

おれ、同じクラスでさ、どうやってカンニングしたのか、技をおしえてもらおうとしたもん。 シカトされたけど。」

泳吉・・・

三枚目は、こうだった。

【今から三枚目に入るが、ここまでを『アタマのおかしいやつ』等と思って読んでいる人は、

ここでやめておくことをオススメする。

読まないほうがいいと思う。

これは警告だ。

それでも読むというのなら、どうぞ読んでくれ。

まずはじめに、私は自分がいつ死ぬのかを見てしまっている。

28歳の、お盆の頃だ。

同窓会に向かう電車で、突然真っ暗になる。

その先をいくら見ても真っ暗なままだ・・。

10年後・・・

20年後・・

50年後・・・。

ずっと真っ暗だ。

おそらく、そこで私の人生は終わりなんだと思う。

つまりそれが『死』だ。

私はっかならずそこで死ぬ。

そして、どれだけ拒んでも、その電車には乗るのだろう。

なので、この手紙はおそらく私は読むことは出来ない。

・・・まだ、おそらく信じていない人がいるだろうから、他の予言もここに記そう。

私はね、小泉という人が総理大臣になって、郵政が民営化されることを、すでに今解っている。

松坂大輔が、メジャーリーグに行く事も、

ムーディー勝山が流行ることも、

亀田三兄弟という悪漢がボクシング界で話題になることも・・・。

すでに知っている。

この手紙をだれかが同窓会で読んでいるとしたら、

おそらく去年か今年あたりのニュースだろう。

どうだろう?私の予言の能力を、信じてもらえるだろうか?

たとえば、泳吉くん、君が、『人間の目をしたネズミの霊』に見つめられ続けていることも既に見えている。

裕史君に、首が半分切れた女性の霊が憑いていることも・・・。

そして、君たち二人がこの手紙を読んでいることも。。既に見えているんだよ・・・。

泳吉君が赤いジャージを着てる事も、

裕史君がグレーのパーカーにジーパンをはいている事も、

全て見えている。

どうだろう?ここまで細かく書いたから、怖くなったかい?

私はずっと、この怖い能力に脅えながら生きているんだよ・・・。

・・・次、最後の四枚目に、クラスメイト全員の死亡年齢を記そうと思う。

見るのも見ないのも、君たちの勝手だ。

勝手だが、見るのか見ないのかも私は知っているが、それは記さないでおこう。

気になるなら、見るがいい。

自分の死ぬ時を。

見て、私と同じ恐怖を味わうがいい。

これを書いている私は、あと10年ちょっと・・・その恐怖と向き合い生きなければいけないのだから・・・。】

「・・・・」

「・・・・」

おれと泳吉の手は震えていた。

当 た り 過 ぎ て い る ・・・

「な、なあ裕史?ど、どうする? 見るか?4枚目?」

そう永吉が言ったときだった。

「おいおい〜〜何みてんだよ〜おまえら〜?」

他のメンバーもこっちに気付いたようだ。

おれと泳吉は、慌てて3枚目と4枚目を隠した。

3枚目からは、あまりにショックが強いと思ったからだ。

他のメンバーは2枚目までよんで、

「アハハ こいつ、やっぱりなにかんがえてるかわかんないやつだよなぁ。」

とか、

「こんなやつ、そういえばいたなぁ。 きもちわるい」

とかと話しをしている・・・。

数時間後、記念写真を撮り、それぞれ解散した。

だれも居なくなった校庭に、おれは泳吉と二人でたたずんでいた。

「なあ・・泳吉・・・。四枚目・・・。どうする?」

「・・・気にはなるんだけど・・・。よ、よくかんがえたらよ?」

「う、うん。」

永吉は、震える声で、

「こいつの言うとおり、もし、自分がいつ死ぬかわかったらさ、

生きてる心地、しないんじゃねえかな?

必ず来る死を、脅えながら生きなきゃならねえわけだろ?」

「た、たしかに・・・。」

ちょこっと、指を怪我する事はそんなに怖いことではない。

ちょっと痛いくらいだ。

でも、それを自分で故意にナイフで傷つけること、あなたはできるだろうか?

すごく怖いいことではないだろうか?

自分の死期を知るということは、そういうことなんだろう・・・。

おれは、泳吉と一緒に、この三枚目と四枚目の手紙を燃やすことにした。

ライターで火を付ける。

手紙は勢い良く燃えた。

そして、おれたちは無事に今日という日を終える。

・・・はずだった・・・。

運命のいたずらだろうか?

四枚目の手紙は、ほとんどが燃えたのだが、

【手紙の右下のほう】はまだもえておらず、それが突然吹いた風に舞った。

【 八木 裕史(37) 矢神 照巳(29)】

おれは自分の名字がなぜ【ヤギ】だったのだろうと思った。

その日の夜ニュースで、矢神が乗っていた列車が脱線事故に合ったと知った。



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