ニーゲー

創作の怖い話 File.64



投稿者 でび一星人 様





27歳 独身 無職。

今のおれの現状だ・・・。

情け無い事に、三ヶ月前に知り合った看護士の女の家に住まわせてもらっている。

もちろん今は稼ぎも無いから、養ってもらってると言った方が正しいか・・・。

おれの名は裕史。

先月末で、大学を出て四年ほど勤めた会社を辞めた。

辞めた理由?

なんてことはない。

嫌気が差した。

もう随分前の話になるが、就職して最初の方は、ウザイ先輩が常に付いていてくれてね。

かなりウザかったけど、その先輩がセクハラで会社をクビになってからわかったんだ。

あ、先輩、実はおれをかなりカバっててくれたんだな・・

ってね。

先輩が辞めてからのおれの負担はけっこう酷いもんだったよ。

「期待してる。」 「お前しかできない。」 「助けてくれ」

上司のそういう言葉には気をつけな。

結局は、下の者にヤル気をださせて、自分が楽をする手段の言葉だからな。

二年半。

先輩が受け持ってた担当を、まだキャリアも少ないおれが受け持つことになった。

出来て当たり前。 出来なければ注意や叱渇。

目一杯滅入った時を見抜くアンテナは立派な上司だったようで、

そういうとき実にいいタイミングで飲みに連れて行ってくれた。

・・良い様に使われちまったよ。 まったくな。

どれだけサービス残業しただろう?

どれだけ休日出勤をした?

給料だって安い。

利益があがってないって理由でボーナスもハナクソみたいなもんだ。

そんな生活が嫌になった。

「辞めさせて下さい。」

おれは言ったよ。 そしたら上司はなんて言ったと思う?

「自己退社・・・ってことでいいんだね?」

結局、おれは居ても居なくてもどうでもいいポジションだったんだろうな。

自己退社してくれて、職安から目つけられる危険の無い辞め方で良かった・・・

くらいにしか思ってくれてなかったんだと思う。

最後のその上司の言葉で、おれは怒りを通り越して飽きれた。

もっとはやく、答えを出せばよかったなと思うが、今更仕方の無い事だ。

「ただいまぁ。」

英子が帰って来た。

「おかえり。」

「誰か尋ねてきたりしなかった?」

「別に。」

「そ。 あ、私これからちょっと行かなきゃいけないところあるから。 

ほら、これ、弁当買ってきたから、食べててね。」

「わかった。」

英子はそう言うと、仕事に履いて行くのとは別の、ちょっと色の派手な靴を履いて出て行った。

玄関に英子が置いていったコンビニの袋を取り、おれは部屋にもどった。

・・英子・・・。

おれは英子が好きだ。

間違いなく、一緒に居て幸せだ。

性格が良く、気も効くし、顔もそこそこいい。

そしてEカップ。

文句ないじゃないか。

仕事柄給料だっていいし。

そんな事を考えながら、コンビニの袋に入っていた英子が買ってきてくれたであろう求人情報誌に目を通した。

(なかなか、良さそうな仕事がないな・・・。)

そんなふうに思いながら、ペラペラやってると、

【人探しをするお仕事】っていうのが目に付いた。

(人探し・・・ か・・・。)

そういえば、大学を卒業し、東京に就職したのは、 当時ずっと好きだった女性を探すためだった。

しかし、この四年間、出会えるどころか、痕跡すら見えなかった。

電話もわからない。

実家に帰ったときに、彼女の母親に勇気を出して聞いてみたことがある。

その時、彼女の母親は、おれの両耳をちょっと痛いくらいに引っ張りながら、

「あの子、ぜんぜん連絡ないんだよね〜〜〜。」

ってな感じだった。

そのうち仕事に追われ、おれは彼女を探すという心の余裕もなくなっていった。

もう、過去の存在になってしまったんだ。 沙織は・・・。

そんな時、おれは英子と出合った。

背伸びして行ったバーでだ。

英子はおれを気に入ってくれた。

一緒に居るうちに、おれもたぶん好きになった。

この居心地の良さが、好きって事なんだと思う。

おれはいま、心の安定を手に入れたんだ。

きっとそうだ。

結局アテにならなかった求人雑誌を閉じ、おれは何気に窓から下を見下ろした。

良い景色だ。

ここはマンションの10階。

道を行きかう人たちが見える。

彼ら達が交差する道を、おれは見下ろしているわけだ。

神様ってこんな気分か?

ふ。 バカらしい。 神様なんて居るのかすら解らない。

空気を入れ替えようと、おれは窓を開けた。

「・・ん?」

窓を開け、下を見ると、違和感があった。

目がおかしくなったのかとも思ったが、あきらかにおかしい。

「なんだろう・・あの光・・・。」

道を行き交う人を、光が包んでいるのだ。

光の大きい人、小さい人、紫っぽい人、青い人、赤い人・・・。

人により、その光は様々だった。

そんな中、まったく回りが光って居ない女の人を見つけた。

こちらから見たら後姿だ。

(あの人は、光ってないなぁ。)

なにげにそう思った時だった。

その人が振り向いた。

目が合った。

直後に、合わせてはいけなかったと気付く。

首の前半分が、ザックリと切り裂かれていた。

目を大きく見開いて、こっちを見ている。

(ヤバイ・・・ヤバイ・・。)

おれは目を逸らしたが、視界に入るその女はこっちにゆっくりと歩いてくる。

過去にも何度か霊的な経験はあるのだが、 身の危険を感じたのはこれが始めてだった。

おれは急いで窓を閉めようとした。

すると、その女はありえない速度でっちに向かってきた。

(はやく! はやく締めなきゃ!)

焦ってうまくカギをしめれない。

女はマンションの壁を

ま  る   で 蜘 蛛 の   よ う   に 駆  け 上   が っ て  く る !

ペタペタペタペタ!!!!!!

音が聞こえてくる。

窓から女の頭が見えた時、

カチャっ

カギがをやっと締めれた。

ベターーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!

窓に何かが貼り付く大きな音がした。

おれはそっちを見ないようにした。

窓に蜘蛛のように貼り付き、女がじっとこっちを見ていたから。

何時間くらいが経ったらろう?

依然として、その女は窓に貼り付き、おれを見ている。

(英子〜〜〜 早く帰ってきてくれ〜〜〜。)

ピンポーン

そのとき、玄関のチャイムが鳴った。

(英子だ!!!)

おれは急いでドアまで行った。

そしてシリーズおなじみのノゾキアナから外を見る。

間違いなく英子がそこにいた。

一気に安心したおれは急いでドアを開ける。

ガチャッ

!!!??

誰も居ない・・・。

そこでしまったと思った。

英子はカギを持っている・・・。

そして、例外なくチャイムを鳴らして玄関を開けてもらう事なんてしないんだった・・。

うかつ。

黒い影が家の中に入ってくるのがわかった。

すぐドアを閉めたのだが、間に合わなかった・・・。

・・・一時間・・・。

首の前半分がザックリ切れた女は体育座りをして、ずっとおれを見続けている。

おれはなるべく見ないようにプレステ2をしていた。

ガチャッ

玄関が開いた。

(今度こそ英子だ!!!)

おれはすぐに振り向いた。

英子が玄関に居た。

でも、それ以前に顔のまん前に首のザックリ切れた女の顔がドアップで現れた為、おれは気を失った・・・。

その時

おれは夢を見た。

首の切れた女が、おれに言う。

「ニーゲー」

「ニーゲー」

「ニーゲー」

・・・

・・・

・・・

目が覚めた。

「大丈夫?」

英子が心配そうな顔でおれを見てくれてる。

(英子・・・優しいな・・・ありがとう・・。)

ゆっくりおれは起き上がった。

・・まだ、あの首の切れた女は依然として体育座りをしておれの側に居た。

気分が重くなり、英子に慰めてもらおうと、英子の方を見た。

「うわぁ!!!!」

おれは思わず叫んでしまった。

「どうしたの?」

「・・・い、いや・・・。」

英子の後ろには、十人近い男が立っていた。

おれに憑いている女と同じで、既に死んでいるのが伺えた。

目の無い人・・・

頬がえぐれた人・・・

膝が変な方向に曲がってる人・・・。

夢で見た、この女の霊が言ってた言葉を思い出した。

【ニーゲー】

なんだろう?ニーゲーって、 ひょっとして、人間?

この首の切れた女は。。。ひょっとして人間なのか・・?

・・いや、ソレは無い。 英子はまったく見えてない様子だし・・・。

英子は相変わらず、10人ちかいその男たちを引き連れ?台所で自分の料理を作っている。

「裕史〜〜。 ごはんつくったけど、食べれる? 弁当で足りた?」

相変わらず、英子はやさしい。

「あ、うん。食べるよ。ちょうど小腹が空いた。」

英子は料理をテーブルに並べてくれた。

美味しそうだ。

「いただきま〜す。」

おれは箸を持って、料理に手をつけようとした。

その時だった。

「うわぁ!!」

また、あの首の切れた女の顔がヌ〜〜ゥっと、おれの顔の前にドアップで現れた。

「・・・どうしたの?」

英子が不安そうな顔でおれに聞いてくる。

「あ、い、いや。 な、なんでもないよ。 アハハ」

英子を不安にさせてはいけない。

しかし、おれ自身がまずは落ち着かなければいけない。

「ごめん、ちょっと、家にずっと居て、ストレス溜まったのかも。 風にあたってくるわ。 すぐ戻る。」

「・・・うん。 寂しいから、すぐにもどってきてね。」

「わ、わかった。 ごめんな。」

寂しいからなんて、なんてイトオシインだ・・・。英子・・・。

玄関に向かう途中、相変わらず首の切れた女はおれについて来た。

でも、何もしてこないから、なぜか恐怖は薄れていた。

それよりも、英子に憑いている10人くらいの男たちが、

なぜかおれが玄関に向かうとき、皆そろって 手招きをして

【オイデ オイデ】をしていた・・・。

とりあえず駐輪場の隣にある自販機で【ミルクココア】を買って、縁石に腰をかけた。

おれはコーヒーが飲めないからね。

首の切れた女は、おれの向かいで体育座りをしてじっと見つめている。

「・・・おまえ、その首どうしたんだ?」

「・・・」

どうやら、しゃべれないらしい。

しゃべれない相手に一人で話すのもアホらしいので、おれは話を打ち切った。

ココアを飲んで、大分落ち着いてきたのでおれは家に戻った。

ガチャッ

ドアを開ける。

・・・真っ暗だ・・・。

いや、真っ暗というよりか・・

家具も何も無い・・・。

人の住んでる形跡がない・・・・。

じゃあ、今までおれは、誰と生活をしていたんだ・・・?

首の切れた女は、相変わらずおれを見ている。

とりあえず、おれは家を出て、謎が解けた。

間違えて、隣の家に入ってしまっていたようだ。

なんたる不覚。

隣は今、誰も住んでいなかったのだ。

自分の家に戻ろうとした、そのとき。

「ボソッ」

「ボソボソッ・・・」

隣・・つまり英子とおれが住んでる家から声が聞こえてきた。

おそらく英子の独り言だろう。間違いなく英子の声だ。

好奇心か、嫌な性格なのか、

おれは、この空き部屋の【中】に戻り、扉を閉めた。

そして、薄い壁に耳を当てた。

英子の声が聞こえてくる・・・・。

「ウフフ。ウフフ。  楽しみ  楽しみ。

裕史で・・・11人目ね・・・。

前の男は目をくりぬいてやったわ・・・。

前の男は頬を・・

その前は膝を・・・。

オペでいつも見る、あの人間の体・・ステキ・・・。

あぁ・・・今夜また、出来るのね・・・解剖・・・。

自分で解剖できるなんて。。。

すごく感じてきちゃうわぁ・・・。

ウフフ・・・

  ウフフ・・・

           ウフフフフフフ・・・

睡眠薬、これで足りるかしら・・・。 えいっ。もっと入れちゃえ! 味噌汁に!」

おれは首の切れた女を見た。

「お前・・・まさか・・・これをおれに知らせる為に・・・?」

この女は、英子の作った睡眠薬入りの料理を食べようとした時に、

顔を近づけて外に出るように仕向けてくれたんだろう・・・。

夢で言っていた、【ニーゲー】

【人間】ではなく、【逃ーげー】だったんだな・・。

「ありがとう。」

おれは首の切れた女にそう呟いて、その部屋を出た。

そしてその足で駅に向かい、新幹線に乗り込んだ。

幸運にも、携帯とサイフと自分の銀行のカードは持って出ていたので、逃げる事が出来たんだ。

時間帯の関係もあり、ガラガラの座席に座り、窓から東京の夜景を眺めた。

携帯には、20件の着信と、30通のメールが来ていた。

最初は【まだ?】とかの内容のメールだったが、

だんだん【感づいたの?】や、

【どこ?】

になり、

【逃げれると思うなよ?】

や、

【必ず殺すからな】

といった内容にエスカレートしていった。

でも、もう関係ないよ。

このまま逃げ切ってやるさ。

・・・と、強がった言葉を頭でつぶやいても、正直足は振るえています・・・。

これからどこに逃げよ・・・。

首の切れた女はおれの隣の席に体育座りをし、相変わらず無言で見つめている・・。



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