鎌男

創作の怖い話 File.61



投稿者 でび一星人 様





「今日、同窓会だから、お母さん遅くなるね。 誰かお家に来ても、危ないから絶対に玄関を開けちゃダメよ。」

裕史君の家は母子家庭。

母親がこんな言い方をするのは、最近この付近で不可解な出来事が起こっている為だ。

その出来事とは、【鎌男】が出るという事だ。

鎌男は、夜な夜な町を徘徊し、鎌を頭に突き立てて、殺害するらしい。

らしいというのも、まだ誰も、その鎌男の姿を見た人が居ないからだ。

警察は犯人逮捕に全力を挙げているが、それでも、誰に姿を見られるわけでもなく、鎌男は殺人を繰り返す。

もうすでに七人もの被害者が出ている。

最近では、一部で、「これは霊的な何かではないか・・・。」という声も聞かれるようになった。

母親が、誰が来ても玄関を開けるなと子供に言うのは、当然かもしれない。

「うん。わかってるよ。母さん。」

裕史君は小学四年生。

そんなにグレてる事もなく、もちろん鎌男の噂も知っているので、ちゃんと言う事を聞き、

母親が家を出た後、しっかり玄関のカギが閉まってる事を確認し、

自分の部屋に戻りテレビゲームで遊んでいた。

ゲームで遊ぶのにも飽き、裕史君は漫画を読んでる間にうとうとし、寝てしまったらしい。

ふと部屋の窓から外を見ると、空はもう真っ暗だった。

窓から見える街灯のフモトが、なんだか赤く見えた。

ピンポーン

その時、玄関のチャイムが鳴った。

(誰だろう・・・?母さんはカギもってるから自分で入って来るし・・・)

裕史君は母の言いつけを守り、無視することにした。

ピンポーン

ピンポーン


ピンポーン

チャイムは鳴り続ける。

(しつこいな・・一体誰だろう・・・)

裕史君は玄関のドアについている覗き穴から、外の様子を伺う事にした。

ピンポーン

ピンポーン

ピンポーン

部屋から玄関に向かう途中も、チャイムの音は鳴り続ける。

玄関に着き、裕史君はそっと覗き穴から外の様子を伺った。

(なんだか・・・赤い・・・)

覗き穴から見た外は、なんだか赤いセロファンを貼ったように、少し赤っぽく見えた。

その赤っぽい景色の下方から、なにかがチラチラ見える。

(何だろう?)

裕史君は覗き穴に顔を近づける。

ドタン

顔を近づける時に、ドアに手を突いてしまった。

と、同時にチャイムの音が鳴り止んだ。

そして下の方でチラチラ見えているものが、だんだんと覗き穴から見える高さまで上がってくる。

!!!!

(か・・鎌だ・・・)

裕史君はバッとそこから飛びのいた。

どうやらドアに手を突いてしまった音で、外にいる【何か】に、自分が居ることがバレてしまったらしい。

ガチャッ

ガチャッガチャッガチャッ

外にいる【何か】は、ドアノブを回し始めた。

どうやら家に入ろうとしているらしい。

それと同時に、外にいる【何か】は、「うぅ・・ うぅぅ・・」と、男とも女ともとれないうめき声を発し始めた。

さすがにパニックになった裕史君は、とりあえず自分の部屋に戻ろうとした。

トゥルルルルルル

トゥルルルルルル

その時だった。 リビングに置いてある電話の音が家に鳴り響いた。

(か、母さんかもしれない。)

少しの希望のようなものを感じ、裕史君は少しだけ冷静さを取り戻た。

急いでリビングに向かい、何かにすがるように電話に出た。

「も、もしもし?」

帰って来た返事は、

「ぅぅ・・・うぅぅぅ・・・」

外から聞こえるうめき声とまったく同じものだった。

「ひぃ!」

裕史君は急いで電話を切った。

部屋に戻ろうとすると、また、

トゥルルルルル

電話が鳴った。

裕史君はパニックになり、電話を床に投げつけた。

電話線やコンセントが抜け、電話は鳴らなくなった。

ガチャッ

ガチャガチャガチャッ

ドアノブはまた音を立てだす。

裕史君はとりあえず自分の部屋に戻った。

そして部屋のドアの前に、机やらタンスやらを置き、外から開かないようにした。

後は、もうどうする事もできないので、毛布を頭からかぶり、ベッドの上でただただ震えていた。

ガチャッ

ガチャガチャガチャッ

ガチャッ

他の音がしないため、玄関のドアノブの音がここまで聞こえる。

裕史君はただただ震えながらその音を聞いていた。

ガチャガチッ

ガチャガチ

カチャッ

!!??

ギィィ〜〜・・

ドアの開く音がした。

(な・・なんで・・なんでなんで・・・)

「うぅぅ・・うぅぅぅ・・・」

遠くから、あのうめき声が聞こえる。

ズルズル

ズルズル・・・

床を這いずる音も聞こえる。

「うぅぅうぅ・・・」

ズルズル・・  ズルズル・・

音はだんだん大きくなる。

あきらかに、その【何か】は

自  分  の  部  屋  に  向  か  っ  て  来  て  い  る

「ぅぅうぅ・・」

ズルズル・・・

ズルズル・・・

ズルズル・・・

・・・

音が止んだ。

恐る恐る、裕史君はベッドから外の様子を伺った。

部屋には特になにも変化は無い。

裕史君は震える足を必死に動かし、自分の部屋のドアのほうへ様子を伺いに向かった。

そしてドアの前に置いた机に手を置いたときだった。

ガチャガチャッ!!

ガカガチャガチャ!

「ひぃっ!!!」

部屋のドアノブがガチャガチャと回された。

「ぅぅぅ・・ううぅぅぅ・・」

そしてまた、あのうめき声が聞こえてくる。

裕史君は飛ぶように自分のベッドの毛布に潜った。

ガチャガチャと、ドアノブは回され続ける。

うめき声も聞こえ続ける。

裕史君は、ただただ、その【何か】が去るのを、毛布に潜り込んで待つしかなかった。

・・・

・・・

何時間が経っただろう?

うめき声は聞こえなくなった。

ドアノブをガチャガチャと回す音も聞こえなくなった。

ただ、その【何か】は依然としてまだドアの前にいた。

ガリガリ

ガリガリガリッ

ドアノブは回さなくなったが、ドアを詰めでガリガリと引っ掻いている。

ガリガリガリガリッ

ガリガリッ

不気味にその音が聞こえてくる。

チュンチュン

チュンチュン

気がつくと、裕史君は毛布に潜ったまま眠っていたらしい。

ひょっとしたら気絶してしまったのかもしれない。

外はもう明るくなり、小鳥のサエズリが聞こえていた。

もうドアノブを引っ掻く音もしなくなっていた。

(ひょっとしたら、あれは夢だったのかな?)と思い、

毛布から出てドアの方を見ると、ドアの前に机とタンスが置いてあり、

昨日の出来事が夢じゃなかったのだという現実を突きつけられた。

そっとドアに耳を当てて見る。

・・・

・・・

やっぱりもう音は聞こえない。

(去ったんだ・・・!)

裕史君は安堵の表情を浮かべ、机とタンスをドアの前から退けた。

そしてドアを開くと、そこには頭に鎌を突きたてられ、血を流して死んでいる母親が居た。

後日、犯人は捕まったという事です。



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