でびノート(2)

創作の怖い話 File.48



投稿者 でび一星人 様





「あああああああああああああああああああ!!!!」

オレは頭が真っ白になって、

阿部に拳を突き立てて向かって行った。

阿部は面白そうな顔をしてノートを破り、

そのノートを投げ捨て、

オレのパンチをいとも簡単にかわした。

…その後、オレはボコボコにリンチされた。

「ヒッグ… ヒッグ…」

一時間ほどが経っただろうか。

オレは独り、破れて散乱しているノートを拾い集めていた。

「ヒッグ…ヒッグ…」

涙が止まらなかった。

「母さん…ゴメンな母さん…」

母さんにも申し訳ないし、

何もできない自分が情けなくて仕方なかった。

「…オレ…何でこんなにどうしょうもないんだろう…」

ノートを全て拾い集めたオレは、

もう薄暗くなってしまった空を見ながらまた帰路に着く。

…顔が痛い…

 …おなかが痛い…

…ヒザも…

なんだか、

胸も痛い…

トボトボと歩いていると、

ふと、古本屋らしきところが目に入った。

ボロッボロの木造の店のようで、看板も汚れていて文字が読めないレベルだ。

…あんなところに、古本屋なんてあったっけ…

オレはそんな事を思いながらも、ゆっくりと店の中へ入ってみた。

ガラガラガラ…

入り口は玄関式のようだ。

「ふぐっ!」

店に入ると、まずその埃に喉をやられた。

「がはぁっ!」

オレはムセた。

ムセていると、

「いらっしゃぁい」

奥から、なにやら怪しげなおじさんが出てきた。

「え…あ…」

埃のせいなのか、緊張か、

すぐに言葉が出てこなかった。

「いらっしゃい、ボウヤ。

よく来店してくれたね。

…何かお求めかい?」

「えっ…いや…」

「フフフ。

何かは求めているんだろう?

買うものが決まっていないのなら、

まずは何か欲しいものを言ってごらんなさい。

ここには色んなものが揃っているからね。」

「えっ?」

よく店の中を見てみると、本だけでは無く、いろんな骨董品のようなものがズラリと並んでいた。

「えっ…あっ…

す、すいません。

古本屋だと思ってて…

どうも失礼しました…」

オレは慌てて帰ろうとした。

…と、突然、おじさんがオレの腕を掴んだ。

「…待ちな、ボウヤ。

何も買わずに店を出るのかい?

…ボウヤには、払えるのかい?

退出料。」

「えっ?たっ…退出料???」

おじさんは、入り口上部の貼り紙を指差した。

【何も買わずに帰られる方は、見学料拾萬円頂戴します】

ジーザス…

…↑思わず死語が出た。

オレは…

…ハメられたのか…?

「フッフッフ…」

おじさんは不適な笑みを浮かべている。

…このおじさんは…

…悪魔か…

「フッフッフ…

ボウヤ、まあそう怖がる事ァ無いよ。

人っていうのはね、

誰しもが何らかの悩みを抱えているもんなんだよ。

悩みの無い人間なんてこの世に居ない。

他人からみれば【何だそんな事か】っていう小さな悩みでも、

本人は深く悩んでいる事がある。

…内容なんて関係ないさ。

問題は、悩んでいるかどうかなんだよ。

悩んでいる以上、心は傷つく。

問題はそこなんだよ。」

「…は、はぁ…」

「とりあえず、ボウヤ、お茶でも出してあげるよ。

奥においで」

オレはおじさんに手を引かれ、店の奥へと連れて行かれた。

正直、震えていた。

…奥に行くと、サングラスでスーツの人が三人くらい出てきて…

そしてオレは…

…そんな事を考えながら、奥の椅子に座っていると、

おじさんがお茶の入った湯のみを持ってきてくれた。

「あいよ。熱いからヤケド注意ね」

「…は、はい…」

オレは震える手で湯のみを持った。

リアルに熱かった。

熱くて湯のみを落っことしそうになったが、

この湯のみが20万円とかって言われそうだったので我慢した。

「ズズズ……んっ?お、おいしい」

「フフフ」

お茶は、とてもおいしかった。

…オレはお茶の味なんて解る歳ではないのだが、

なぜかこのお茶はおいしいと思えたのだ。

「フフ。

ボウヤ、その歳でお茶の味がわかるなんてたいしたものだねぇ」

「…い、いえ…」

本当はわからないのだが…

「…

とりあえず、怖がる事は無いよ。

あの貼り紙はね。

せっかくこの店に来たのに、何も買っていかない人がかわいそうだなって思って貼ったものだ。

…ボウヤ、何か色々と悩みがあるだろう?

おじさんに話してみな。

…この店にはねぇ。

きっとボウヤの悩みを解決してくれるものがまぎれているよ」

「…は、はぁ…」

オレは、真っ直ぐにオレの目を見つめてくるおじさんに対してこう思った。

このおじさん、

中二病か?

って。

おじさんはニコニコしながらオレを見つめている。

…でも、何か悩み事を言わないと十万という大金を払わされる事となる…

…何か良いアイデアは無いかと、オレは脳内コンピューターをフル回転させた。

たぶん2KBくらいの容量だ。

「…あっ、そうだ」

ひらめいた。

「んっ?何か悩みを思いついたのかい?」

「は、はい。

…じつは…これなんですが…」

オレは、阿部にやぶられた母さんのノートをカバンから取り出した。

「…酷いねぇ…。

物をこんなふうに粗末に扱っちゃぁいけない」

「…はい…

…すいません…」

「…。

…ボウヤ、

おじさんはね、

顔を見ればわかる。

ボウヤは、物をこんなふうに粗末に扱う人間じゃないでしょ。

…誰かに、破られたんだね?

このノートを?」



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