大切なもの

創作の怖い話 File.44



投稿者 ストレンジカメレオン 様





「今年はあんまり雪が降らないな〜、」

雪景色が大好きなオレはそうぼやきながら窓から3月の空を見上げる。

「!!…やばっ!!もうこんな時間だ!」

今日は付き合いはじめて3ヶ月の彼女の由香とのデート。

クリスマスにおもいきって告白。

向こうもオレに気があるんじゃないかっていうのは感じてたが

オレにとっては初めての彼女だったから返事をもらった時は天にものぼるようだった。

「早く準備して家を出なきゃ!!今日は由香の買い物にひたすら付き合うんだったな!」

普通の男だったら買い物を付き合わされるのは、

結構女の子の買い物ってとても時間かかって、しんどいから、

「え〜〜〜〜」って感じだろうがオレは由香と少しでも一緒にいたかったから

今日のデートもとても楽しみでテンションが上がっていた。

というかむしろ買い物を手伝いたいと言ったのはオレのほうだった。

「おし!!今家を出れば五分前には間に合うぞ!」

急いでオレは家を出る。

待ち合わせ場所の駅に到着。

改札に目をやると由香は改札の端のほうですでに待っていた。

「お待たせ!!」

「私も今着いたばっかりだよ!!今日はありがとね!

すっごい楽しみなんだ!たくさん付き合ってもらうわよ!」

由香が笑顔でむかえる。

こんな感じでデートの待ち合わせはいつも、

どちらかが早く来てて五分前には二人とも到着している感じだった。

「由香ってどんなお店で買い物するの?オレあんまし女の子のファッションとか分からないんだ…

でもいつも由香が着てる服ってとっても似合ってて素敵だよね!

今日も由香見つけた時、ドキッてしたし!!」

「ほんと!?お世辞でも嬉しいなぁ!」

由香はほんとにとても良い笑顔をもっている。

正直この笑顔にやられたと言っても言い過ぎではない。

「お世辞じゃないって!!」

ほんとにこのまま時間が止まっても良いと思うくらい幸せだった。

そんな思いとは逆にあっという間に時間は過ぎていった。

「今日はとっても良い買い物が出来たわ!!ほんとにありがと!

そろそろお腹がすく時間だね。ご飯食べに行こ!

今日は付き合ってもらったお礼もあるし、わたしにおごらせて!」

「おっ!ほんと!?めずらしいじゃん!」

「高級なとこは無理ですけどね!ウフフ」

「どうせオレ高級な味分かんないから安くてがっつり食べれる場所が良いな!はは!」

「じゃあそこのハンバーグのお店はどう??」

「おぅ!良いね良いね!さすが由香!」

そう言ってオレたちは店に入っていった。

学生同士だったオレたちはそんなにお金あるわけではないので

こうした簡単な店やファミレスに入っておしゃべりすることが多かった。

「おいしかったね!!それと今日はほんとありがと!こんな楽しく買い物出来たのは初めてだったわ!」

「いやいやオレもすごい楽しかったよ!ご飯までおごってもらって僕は感動してます!」

「フフ それなら良かったわ!時間ってあっと言う間だね!」

「ほんとだよ!由香といると時間の流れが早くて 早くて!」

「でも時間って不思議よね、中身が詰まってれば詰まってるほど短く感じるし、何にもないと長く感じるし」

「そうだね」

由香は時間について話すのが好きだった。以前も何回かファミレスで時間についての話をしていた。

「ねえねえ時間って始まりってあるのかしら?

ずっーとずっーと過去に戻ったらってとか考えるとなんか不思議よね!」

「そうだな〜ドラえもんにでも聞いてみるか!」

オレがこんな答え方をしたら由香は少し不機嫌そうだった。

「もう!真面目に考えてよ!

こんな壮大な時の流れの中だとわたしたちが生きてる時間ってあっという間かも知れないけど

そんな時間を一生懸命生きてるって考えると素敵な話じゃない!?」

時間の話はオレも嫌いじゃなかった。

ざっくばらんな性格であんましいろんなことを考えない性格のオレにとっては由香が話すこと、

ひとつひとつ新鮮なものだった。

「そうだね!そう考えると時間がすごい大切に感じるな!」

「うん、だからこうやって限りある時間の中でわたしは笑っていたいなって思う!

そりゃ泣くときだってあるよ、

でも出来るだけ楽しい時間を笑って過ごせていたらそれは素敵な人生になると思う!」

「だから由香はいつも笑顔なんだね!由香の笑顔みるとオレも笑顔になれるよ!ありがと!」

「なんか照れくさいな!でも嬉しい!」

「ハハハ!あっ!もうこんな時間だ!そろそろ行こうか」

「そうだね 今日はほんとありがと!」

「おう!じゃ駅向かおうか」

オレたちは駅で解散しオレは家へと向かった。

「ふぅ!今日も楽しかったな!」

家に着いたオレはゆっくり風呂に入った。

風呂からあがり携帯を確認。

「なんも連絡なしか…由香からメール来てると思ったんだけどな…オレからメール入れてみよ!」

メールを由香に送信。

だがメールが返ってくる気配はない。

「もう寝ちゃったのかな…まああれだけ一日中歩いてたんだから疲れてるんだろうな」

そう思いオレは眠りについた。

次の朝、学校も春休み中だったのですこし寝坊気味に起きる。

「…ん、九時半だ…そろそろ起きるか」

ふと窓をみると窓の外が白いことに気づく。

(もしや!!これは!)

期待に胸を踊らせ、窓を開ける。

期待どおり!外は一面雪景色!

雪は見慣れた外の景色を銀色の別世界につくりかえる。

由香にも教えてあげなきゃと思い、携帯をとりだす。

「まだ返信ないや…まだ疲れて寝てんだな!もうこんな時間だし起こしちゃお!」

オレは由香に電話をかけた。

「トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル………………」

全然電話に出る気配はない。

「しょうがないな〜、今日も休みだし、こんな雪景色今年初めてだからちょっと散歩に行くか!」

おれは近くにあったすこし大きい公園へと向かった。

「すっごい綺麗だな!感動だなこれは!」

オレは公園を360度見渡した。

ふと視界の先に誰かがいるのに気づく。

(見覚えのある背格好だな〜、………ん、あれは由香じゃないか!なんでこんな所に!?)

「由香!!」

由香が振り向く。

「なんでこんな所に!?」

「あなたに会えると思ったからよ」

「え!?雪が降ってたからオレが公園来ると思ったのか!?急にどうしたんだよ!

来るなら連絡くれれば良かったのに!オレメール入れても返事なかったから心配してたんだぞ!」

「………ごめん………………でも雪の景色、好きって言ってたよね!今日の景色も好き!?」

「もちろん!!最高だよ!そうだ!写メ撮るよ!由香!そこに立ってて!」

さっきまで笑顔だった由香の顔が急にくもった…

(どうしたんだろ………おれなんか悪いこと言ったかな…)

「はいはい!由香!笑って!」

そう言ってオレは由香にレンズを向けた。

携帯の画面を見ると由香の姿がない。

携帯から視線をはずし実際に由香を見る。

由香は確かにそこにいた……

けれど一度も涙を見せたことが無い由香が泣いていた。

「どうした!?由香!」

「もっともっと…………笑ってたかったよ………

時間ってみんなに平等に与えられるものじゃないのは分かってた…………でも………………

もっとあなたと一緒にいたかった………」

「何変なこと言ってんだよ!!これから一緒だよ!もっと笑っていられるよ!」

「時間って始まりも終わりもないんだ………これからもずっと時は流れていくだろうし……

でも私たちは始まりも終わりもある。永遠じゃないんだよ。

だから私たちが生きてる間の時間は永遠の時の流れと比べたらほんのわずか……………

大切な時間なんだ……その中で笑っていられる時間ってとっても幸せな時間で貴重なものだよね!

時間の大切さって自分一人じゃ理解できない…いろんな人が感じさせてくれるもの………………だよね…」

「オレにとっては由香といる時間がなによりも大切だよ!!」

「ありがとう!嬉しいな!フフ!」

笑顔に戻った由香は雪景色と同化し消えていった。

「由香!?」

嫌な予感を感じたオレはすぐに由香の家に向かった。

由香の家にたどり着く。

インターホンを押した。

「ピンポーン!!」

「……………………………」

誰も出る気配はない…………

「チャララララ〜」

急に携帯が鳴りだす!

(由香からだ!!!)

「もしもし!由香!?」

「もしもし 〇〇君(オレの名前)?私、由香の母親の△△と申します。

〇〇君のことはいつも由香から聞いています。

今 時間ありますか?もしよろしければ〇△病院まで来ていただけないでしょうか?」

「すぐ行きます!!由香も病院にいるんですね!今すぐ向かいます!」

病院へ着いたオレは案内された由香の病室へ駆け込む!!

「………ゆ………由香!?」

そこには確かに由香と由香の母親がいた。

けれど由香の顔は白い布で隠されていた。

「はじめまして。私、由香の母親の△△と申します……………………………………

昨日の帰り道に交通事故にあって病院に運ばれてずっと意識不明で

…………………今さっき……………………」

「おい由香!!由香!!!冗談だろ!?起きろって!!オレだよ!分かるだろ!!

さっきまで公園に一緒にいただろ!?なんで病院で寝てんだよ!」

けれど由香は起きる気配はなく、目を閉じたままだった。

「〇〇君、娘からいつもあなたのことは聞いていました…この子ほんとにここ最近楽しそうで、

笑顔も多かったんですよ。どうしたのかな?と思いこの子に聞いてあなたの存在を知りました。

もともとあんまり笑わない子でしたから……」

「笑わない子!?」

由香の母親は涙目のまま続けた

「ええ……父親から家庭内暴力を小さい頃から受けて、

なかなか人を信用出来なくなってた所がありました…

それは私の責任もあると思います……………もう離婚しているんですけどね…………

この子には辛い思いばかりさせてきたものだから

心から笑っている笑顔をみると私も幸せな気持ちになりました。」

「オレそんなこと初めて聞きました………………由香…………いつも笑顔で……

…そんなことがあったなんて………」

「だから私はあなたにとても感謝しています。

短い間になってしまいましたがこの子が生まれてきて人生の中であなたと出会ってからの時間が

この子にとって一番素敵な時間だったと思います。」

「感謝してるのはオレのほうです!!由香からいつも元気もらってばっかりで!

オレにとっても由香と出会ってからの時間は一番素敵な時間でした……………

でもまだ由香が死んだなんて信じられない……」

「そう言ってもらえればこの子も幸せだと思います。」

「……そ、そうですか……………」

オレはそう言って一人病院を出て行った。

外をみるとさっきまで降っていた雪が嘘のようにやんでいた…

途方にくれたオレはどこに向かうのでもなくただ雪道をふらふらと魂が抜けたように歩いていた

………………そこにはまだ由香の死を受け止めきれていない自分がいた………

その夜、まだ今日の出来事を信じることが出来ないオレは由香の携帯に何度も着信を入れてみるが

………………………………ただ「現在この番号は使われておりません………」

という機械音が聞こえるだけであった。

今日 公園で会った由香は自分の死を悟り、オレに会いに来てくれたのか…

最期の別れを告げに…涙をこらえ、笑顔のまま…………

おれはこの行き場のない気持ちをただ過去という思い出に向けることしか出来なかった…

いまある時間もまたこれから来るだろう時間もいつかは過去になっていく……

由香と過ごした3ヶ月はオレにとっては今まで流れてきたどんな時間よりも貴重なものだった。

失って初めて分かる大切さもある……

実際この3ヶ月の大切さをきつく思い知らされたのは由香がいなくなったからであろう。

由香がいなくなってなければ時間の大切さなどこれほどまで感じることは出来なかっただろう……

そんな思いにオレはふけっていた…………………

「チャラララ〜」

突然オレの携帯にメール着信が一件入った。

「………誰からだろ……………………………ゆ、由香!?」

急いでメールを確認する。


件名 ありがとう


本文 素敵な時間をありがとう。私の人生はあなたと出会って素敵なものになったよ

いつかあなたが私のことを忘れてしまったとしてもあなたの笑顔が消えないように


……このあとすぐにメールを返信するがエラーメールとなるだけであった………

時間の大切さを教えてくれた由香をオレは忘れることはないだろう。

またその時間をより素敵なものにしていこうとオレも出来る限り笑顔を絶やさないでいようと思う

…………………………………由香のように



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