弥彦の仮面

創作の怖い話 File.38



投稿者 ストレンジカメレオン 様





今から何百年も前の話になる。

その頃ある集落では、作物がとれず、飢饉となっていた。それでも幕府の年貢の徴収は厳しく農民たちは、

今日を生き延びるための暮らしを強いられていた…

そんな中、一つの宗派が出来あがっていた。

〈禁欲、忍耐、貫き通せば極楽へ逝けるであろう、苦しみ、悲しみ、それを顔に出すな、

耐えろ、そうすれば死後は極楽が待っている〉

ひどく貧しい生活をしていた集落の人々にとってこの思想は、唯一の救いとなり、皆、

そうすれば極楽が待っていると信じて真面目に年貢を収め続けた。

この思想が幕府が人々を働かせるために都合良くつくられた思想とは知らずに…

………………………

この話の主人公は、弥彦というこの思想を人一倍強く信じて、

真面目に働き続け極楽を求めた男である。

「相変わらず良く働くねぇ!!弥彦さんは!いつも笑顔だし!

あなたみたいな人がきっと極楽へ行くんだね!」

「はい!!神様はきっと私達のことを見てくださってるはずです!

みんなで極楽へ行けるよう頑張りましょう!」

私はいつも通り、今日も朝から晩まで田を開拓し、働き続けた。

(今日は特に疲れたな……変な天候が続いているが、無事作物が穫れると良いな。

明日は朝早くに村の長に呼ばれているから今日は早めに寝よう)

翌朝、私は村長を訪ねた。

「お早うございます。弥彦でございます。」

「おう弥彦、よく来てくれた!実はお前にしてもらいたい任務があるのだ。」

「一体なんでしょうか?私が出来ることであればぜひ。」

「最近、この集落で怠惰な者が増えてきているのは知っているだろう?ここの宗

の教えを無視する無法者がいるのだよ!奴らの存在は他の人々に影響を与え怠惰な者を増やしている!

そこでだ、儂は特にひどい無法者の名簿を作った!

この名簿に載った者達をお前の手で殺して欲しい!」

「えっ!!私がですか?怠惰な者が増えてきて、

年貢が間に合わなくなってきているのは知ってますが…………………………何故私が?」

「お前は村で一番、働き者だ!誰かが殺されたとなれば騒ぎになるだろう!

その時、お前を疑う者はいないだろうからだ!」

「納得出来ません!!私は極楽へ行くために真面目に働いております!

もし神様が私が人殺しをしているのを見ていたら極楽へ行けなくなってしまいます!」

「それならこの仮面を使うが良い!この仮面をつければ素顔は見えぬ、

神様だって仮面をつけていたらお前だっていうことを特定することは出来ないはずだ!

村の為なんだ、たのむ!お前しか村を救うことは出来ん!!」

「仕方ありません、分かりました、それでは名簿と仮面を!」

「頼んだぞ!」

私はこの晩、早速、名簿に書かれた奴を殺すための準備をしていた…

(よし………これで準備は整った!あとはこの仮面をつければ…)

私は準備を終え、まず村一番の怠け者である左助を殺しに行くことにした…

左助の家にたどり着く……………

左助は気持ちよさげに寝ている。

(こいつは本当に寝てばかりで役立たずだ!早く殺してしまおう!!)

私は用意していた鍬を左助の喉元めがけて振り下ろした!

「グカッ」

鈍い音と気味の悪い感覚と共に血が吹き出る………

ものすごい量の血だ…………

見るも無惨な光景である……

だが私はこの行為が村の繁栄に繋がっていると思い、ある種の達成感を感じていた……

こうして私は次の日も次の日も無法者どもを殺していった…

そして今日も…………………

(へへへ、今日は誰にしようかな〜、こいつ普段からむかつくし、今日はこいつを殺そう!!ヒヒヒ、楽しみだ!)

人を殺すことに慣れた私は無法者に制裁を加えることに快感を感じていた………

真面目な日々を送っていた反動もあり、仮面をつけている時の私は私であり私ではなかった……

私は仮面をつけるたびに、私は理性という心の仮面をはずし、ただの殺人鬼になっていたのだ…

昼間は真面目で村一番の働き者。

夜中は殺人鬼。

この任務は始めてからは昼間のストレスを夜の人殺しという行為が発散し、

私の心のバランスを保っていた…

このような日々を送っていた…………………………

しかしそれも終わりを迎える……

名簿に載った全ての者を殺し終わったのだ……

(やっと終わった…………これで村は良くなるはずだ!!今日からはまた夜はゆっくり寝れるぞ!)

その晩…………

(寝れない、寝れない…………なんだこの感覚は………?…………………誰かを殺したい!!!!)

気がつけば私は仮面をつけている…………

そして名簿にのっていない者を殺しに出掛ける…

「ヒィ ヒィ ヒィ!!殺さなきゃ!!殺さなきゃ!!誰でも良い!ヒィ ヒィ ヒィ!!

仮面をつけていれば何をしたって大丈夫なはずだ!!誰を殺そう?………

…………………………………………………そうだ!!村長を殺してしまおう!

そうすれば私が人殺しをしているのを知っている奴はいなくなる、そうすれば私は自由だ!」

私は村長の家へと向かった……

胸の高鳴りを感じながら……

そして村長の家へとたどり着いた……

(あれ、こんな時間なのに灯りがついている……村長以外に誰かいるみたいだな…)

中から話し声が漏れている……

「無事、私の村の者が宗の教えを守らん無法者どもを片付けてくれました。

これでまた、村が活性化していくでしょう。」

(村長の声だ………何を話しているんだろう?殺す前に少し聞いてみるか、)

「良くやってくれた!!これが我々幕府からの報酬だ!!

この村は我々が作り上げた思想を信じ込んでいる者が多いから年貢の徴収が楽で実に素晴らしい!!

これもあなたのおかげですな!」

(思想を幕府が………………作り上げた…………?)

私は息をのんで、話を聞き続けた。

「いやいや、村の者たちが馬鹿なだけですよ!

特に村一番、馬鹿な弥彦という者がこの任務を達成してくれましたよ!ハッハッハ!」

(何を言っているんだ!?村長は!!……………………………………………………

……村長が村一番の無法者だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

殺してやる !!!村のためだ!!)

「ドカッ!!」

私は家の戸を蹴り上げた。

「だ、誰だ!?お前は!?」

幕府の役人が叫んだ。

「その仮面は弥彦だな!!弥彦、お疲れ!もう任務を終わったのは知っているぞ

!よくやってくれた!お前は村の英雄だ!!さあ仮面を返しておくれ、報酬はたくさん出すぞ!」

村長の言葉は言い訳にしか聞こえない…

私は村長の顔面めがけて鍬を振り下ろす…

「やっ!やめっ……………」

「グチャ!!!!」

村長の顔が潰れ、血と脳味噌が飛び出る……

さらに私は村長の腹部、脚部めがけて鍬を振り下ろす。

その隙を見計らって、幕府の役人が腰にかけた刀で私めがけて斬りつけてきた…………

それでも私は止まらない…………

鍬を振り下ろし続ける……………

「グチャ!!!グチャ!!!グチャ!!!」

私は幕府の役人にも鍬を振り下ろす。

「グチャ グチャ」

内臓やらなにやらが誰のものだか分からないくらい飛び散っている……

その中にはもちろん、斬りつけられている私のものもある………………

気付けば、無惨な二つの死体の前で私も倒れ、死を迎えようとしている…………

………………

(か、仮面をはずさなきゃ……………………………そうしないと極楽へ行けない…………………)

最後の力で仮面をはずし、放り投げた…………

(これで………………………私は極楽へ逝けるはず………………………もし逝けなければ

………………呪い殺してやる……………………)

これで狂信的な弥彦は死に、以後、村の者が、殺されるという事件はなくなった

…………………………

しかし弥彦は極楽へ逝けるはずはなく、弥彦の怨みの念は、

呪いとなって仮面に宿りついたままだという………………………




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