虚像

創作の怖い話 File.36



投稿者 ストレンジカメレオン 様





オレは小さい頃から科学者というものに憧れていた。

白衣を着て、未知なる答えを求め研究を重ねていく。

いわば人類が進歩するための最先端の開拓者だ!

そんな憧れを抱き続けて来たオレは遺伝子開発の研究員となった。世界に名を轟かすような結果を出し、

人類に貢献し、歴史に名を刻むような科学者になるのが今のオレの夢である。

だから、今はただの研究員の一人だが毎日充実した日々を送っている。

研究所で知り合い、意気投合した彼女もいて、今オレはとても満足な生活をしている。

彼女とは研究の話をしたり、デートとかも科学博物館に行ったり研究所回りをしたりで、

まあ普通のカップルと比べたら少し変に見えるかもしれないがそれはそれで楽しい。

そして今日は久しぶりのオフ。

彼女とデートの予定で、今日は研究のことは忘れて1日、

公園でも散歩して、ゆっくりご飯を食べてまったりする予定である。

こんなまったりデートは久しぶりだったので結構オレは楽しみだった。

公園のボートの乗ったオレたちは、ほのぼのと日々の疲れを癒やしていた。

「ねえ、A(オレの名前)私達が初めて会った時のこと、覚えてる?」

彼女の由香が話しかける。

「覚えてるよ。初めて研究所に研修に来た由香を案内したのがオレだったもんな!

由香、緊張しまくってて、あれはあれで可愛かったな!」

「ちょっとバカにしてるの!!もう!Aだって格好つけちゃって今と全然違うキャラだったじゃない!フフッ」

「そうだったかなぁ、なんかあの時のこと思い出すのは恥ずかしいな。」

「フフッ、照れちゃって!Aにも可愛いとこあるのね!」

「なんか嬉しくない。」

「怒んない。怒んない。Aが優しいのは知ってるよ!フフフフ」

「もう!由香の笑顔には勝てないっす!」

公園でゆっくり、散歩して癒しのひとときを過ごしたオレたちは昼ご飯を食べに行くことになった。

「お昼ご飯、何食べようか?」

「私、おいしいパスタのお店知ってるんだ!

日替わりメニューとかあって、店内も広いし、とってもお洒落なの!良かったらそこ行ってみない!?」

「良いね!!そこにしよう!」

由香は嬉しそうに店を案内してくれた。

「ここよ!先に入って!!」

オレは店のドアを開けた。

高い天井の窓から光が差し込み、店内は自然の明るさを放ち、壁ぎわに飾られた

アレンジメントフラワーがオレたちを迎えた。

「とってもお洒落だね!オレこういう雰囲気の店好きだよ!!」

「気に入ってくれたみたいで良かったわ!窓際のあそこの席に座りましょ!」

席に着いたオレたちは早速注文をして、メニューがくるのを待った。

「昼間から結構お客さん多いな!この店人気なんだね!これは楽しみだよ!」

「フフッ!私はここのパスタ好きよ!気に入ってくれると嬉しいわ!」

トースト、サラダ、パスタが運ばれてきた。

パスタをフォークに絡ませ口へ運んだ。

「ん!………………………………………………おいしい!!!!!!」

味付けも食感も絶品であった。

「これは人気なはずだ!!」

「気に入ってくれたみたいで良かったわ!」

………………………………………………………………………………………………

……………………………でもオレはこの店から妙な違和感を感じていた……

「本当にここのパスタおいしいよ!!結構オレはまるかも!………………………

……………………………で、話変わるんだけど、オレたち誰かに監視されてない!?

妙な視線を感じるんだよ…気のせいかな…?」

「本当!?気のせいよ!私はなにも感じないけど…」

「そうだと良いんだけどな…まあ考え過ぎか!!」

「そうよ!!誰も私達のことなんか気にしないよ!」

食事を終え、まったりするオレたち…

ゆっくりと時間は流れていく…

………………………………………………………………………………おかしい……

……………………………やはり妙だ……

ここに来てから結構な時間は経ってるはず……………………………………………

喫茶店でもないのに一人も他の客が帰らない…………

しかも他の客たちが明らかにこっちを意識しているように感じる………………………

今までこんな感じに襲われたことは一回も無い………………………………………

はっきり言って気持ちが悪い…

「由香、そろそろこの店出ない?」

「そうだね、ちょっと外、散歩しに行こっか」

そうしてオレたちは店を出た。

(何なんだったんだろう……あの監視されてるような感覚…………

なんかオレ変なことしたかな…………?まあ考えたってしょうがないか…。)

「なーにさっきからボケッとしてるのよ!なんか考え事?」

「いや…………ごめんごめん……何でもないんだ!」

だが……………………………………………………外に出ても同じような感覚に襲われた…………

視線を感じる……………………………………そう、監視されているような…………

ふと目の前に建った高層マンションの一室から視線を感じた………………………

………

………………………………窓から双眼鏡を持った男がこちらを覗いていた…

その隣りの隣りの隣りの部屋にも双眼鏡を持った男がいる!

良く見ると、数人の双眼鏡を持った男たちがマンションの一室一室からこちらを覗いていた…!

次の瞬間…

視界が真っ暗になった…

誰かに布で顔をおさえられてる……………………

この手は………………………………………………………………由香!?

布からはきつい薬品の匂いが…

意識が朦朧とする…

どうして…………!?由香なのか!?オレの顔をおさえているのは…

意識が完全に途切れた…

「どうやら実験は成功のようだな!!」

「はい!最高の結果です!」

…………………実験………………?

オレは聞き覚えのある声でやり取りされる会話で目を覚ました…………

「ん………ここは……………?」

目を覚ましたオレは唖然とした……

オレは透明のショーケースの中に入れられていた…

ショーケースの外にはオレの研究所の研究メンバー達が嬉しそうにオレのことを見ていた。

そして…………………………………なんとそこには由香もいた…

「おい!なんでオレをこんなとこに入れんだよ!!早く出してくれよ!これなんの冗談だよ!?おい!由香!!」

「ごめんね……」

由香が謝る…

「ごめんねって…どういうこと!?オレどうなるの!?」

研究メンバーの一人がオレに近づき話しかけてきた。

「君には悪いが死んでもらうよ。君は実験台なんだよ、今回のプロジェクトのね!」

「なんでオレが死ななきゃいけないんだよ!!訳がまったく分からない!

冗談なら早くここから出してくれ!!なあみんな!冗談なんだろ!」

オレは研究メンバー全員に訴えかけた。

その時、ある事にオレは気付いた…………

オレの研究チームはオレを含めて十人…

なのにショーケースの外にも十人そろっている………一人増えている…………

…………

誰がオレの代わりに来やがったんだ!

………………………………………………………………………………………………

…………一人だけ後ろを向いていて誰だか確認できない奴がいる。

(あいつだ!!あいつのせいで!!)

しかしそいつの後ろ姿は全く見覚えがないというわけではなかった………

むしろ以前から知っているような…………

そして十一人目の男がゆっくりと振り返った…

オレは愕然とした……………

そりゃそうだ………………………………………

何故なら十一人目の男はオレの姿をしているのだから……………………………

研究メンバーの一人が話しかける。

「彼の顔を見て気付いたかもしれないが、君は遺伝子クローンプロジェクトで作られたクローンなのだよ。

君はクローン番号A-01、最高の結果を残してくれた!!

姿形はもちろん、性格、記憶、安定性、全てが最良好だ!!しかしあくまでこれは実験なので、

しかも極秘のね、だから君をこのまま残しておくというのは大問題なんだ。

残念だが、こちら側でどうしても君を処理しなければいけないんだよ…」

「……………………………………………………そう……………なのか…………。」

(オレは偽物だったのか……。この記憶も全て作られたものだったのか………

こんなに鮮明なのに………

製品番号まで付けられて……………

確かにこれは最高の実験結果のはずだ…………………………………………

ハハ、さすがオレ…………………

でも死にたくねえなあ……まだ研究続けていたいし、由香だっているのに……

本物のオレがした実験とはいえ少し残酷すぎるよ…)

「ではこれからA-01の処理を始める!!これからケース内に致死量のガスを投入するので操作室へ!!」

ぞろぞろと研究メンバー達は部屋を出て行く。

「オレ!ここに残ります!最期まで自分の目で見届けるのはオレの仕事なので!」

本物のオレはそう言って部屋に残った…

ショーケースを挟んで、自分と対面するとはなんとも不思議な感覚である。

なにも言わず、お互いはお互いを見ていた………

(最期まで見届けるなんて、我ながらしっかりした奴だ…

これなら研究も由香も任せられるな、頑張れよ、オレ…………)

毒ガスがケース内に充満し始めた…

視界が薄くなる…

じゃあな!本物のオレ!!

「!!!!!」

急に本物のオレはとてもいやらしい笑顔を見せた…………

こんな時になって何故かとても憎たらしい…

そしておもむろに、奴は背中を向け、服を脱いだ………

そこには…………………………………………………………………………

………………………………………………………………A-01と刻まれていた…

(奴が偽物で………………………………………オレが…………………………………

………本物………………………。)



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