奇妙な1週間(14)

創作の怖い話 File.269



投稿者 でび一星人 様





百瀬老人は、何か悟ったような薄い笑みを浮かべ、ただその発表を聞いていた。


「・・・では、最下位百瀬さんは、これから地獄に行ってもらいます。」


デビロがそう言い、手をかざすと、ぼんやりとした光とともに、地獄へのゲートが開かれました。


「オー・・・ォォー・・・。」


地獄のゲートからは、なんとも言えない苦痛の声が聞こえてきます。


その色や音を聞くだけで、とてつもない恐怖感を皆は感じていました。


「・・・さぁ。百瀬さん。アナタの選んだ道です。どうぞ、お入りください。」

「わかりました・・・。」


デビロに誘導され、百瀬老人はそっと席を立ちました。



そして一歩一歩、


地獄のゲートへと歩みを進めます。



「・・・では、どうぞ、いてらっしゃい。さようなら。百瀬さん。」

デビロが百瀬老人の背中に手をかけたときでした。


「ちょ、ちょっと待ちなよ!デビロさん!」

デビロと百瀬・・・他の皆も、声のする方を見ました。

その声は、じろ吉の声でした。

「デ、デビロさん、百瀬老人がさ・・・地獄に行く前に・・・さ、

オレの願いを叶えてくれよ。

順番とか、関係ねえだろ?」

デビロはそっと手を下ろすと、

「・・・ええ。別にどちらでも構いませんよ。」

と、じろ吉の顔を見ました。

「そ、そうかい・・・。

ありがとうな。デビロさん。

 オレ・・・さ、

たぶん、人を殺してるから・・・

正当防衛なんだけど、人を殺しちゃったから・・・さ、

地獄行きだと思うんだよね・・・。

そんでさ・・・。


その地獄へのゲート、

ものすごい恐怖を感じるんだわ・・・。


今でも、足が震えてる・・・。


ものすごく、怖いよ・・・。


だから・・・さ、


その地獄になんて、絶対に行きたくない・・・。


だって、怖いから・・・。



で、でもさ・・・


その地獄に、



生前、別に悪い事しても無いのに、進んで行こうとしてるんだよな・・・


百瀬さんは・・・。



オレ・・・さ、


自分が恥ずかしくなった。


もともと地獄に行く運命を受け入れようとした健治に、


行かなくても良い地獄に、進んで行こうとしている百瀬さん・・・。



・・・オレさ、


二人から、何か大切な事を学んだ。


だから、オレ、願い事は、



これにする。








百瀬さんを、


天国に連れて行ってやってください。」



「えっ?」


皆は驚いた顔でじろ吉を見た。

「ヘヘ・・・これだけ二人が皆の事を考えてくれてるのに、オレだけ自分勝手な事は出来ないよ。」

じろ吉は鼻をこすりました。

「・・・じろ吉君・・・。」


じろ吉の顔を、心配そうに見る百瀬。

「・・・じろ吉君、いけない。

君は優勝したんだから、自分の好きに願いを使えば良い。


ワシみたいな老いぼれの為に、もったいない事をするんじゃない!」


「百瀬さん!

オレたちはもう死んだ身。


老いぼれも若造も関係無いよ・・・。


それに良いんだ。


百瀬さんが天国に行って、


オレは本来行くべきところへ行く。


普通じゃないか。これで・・・。


皆、こういう願いの使い方をしたら良いのにな。


オレ、今それがわかったよ。


これで普通だ!


何も悔いる事もないじゃないか。


ねえ!皆!」

じろ吉は笑顔で皆に言いました。


「じろ吉君・・・。」

「じろ吉・・・。」


皆、じろ吉の顔を見つめています。

「・・・本当にそれで・・・良いんですね?じろ吉さん・・・。」


デビロはじろ吉に確認を取ります。

じろ吉はゆっくりと頷きました。


「・・・良かったですね・・・百瀬さん・・・。」



デビロは百瀬にそう言うと、またゆっくりと手をかざしました。



ボワッ・・・




地獄のゲートの横に、今度は優しい光が浮かび上がりました。


そこからは、とても安らげる雰囲気が漂っていました。


心地よい香りと音も聞こえてきます。



「・・・では、百瀬さん、

アナタは天国へ行く事となりました。


どうぞ、こちらへお入り下さい・・・。

生まれ変わるまで、天国での暮らしをしばしご堪能下さい。」


百瀬老人は、皆の方を振り向きました。


「・・・皆・・・。

じろ吉君・・・。


本当に、


ありがとうw


君たちと、


この場で出会えて、


本当に良かったと思う・・・。


最後に、


最後に、本当に良いものをみさせてらった気分だよ・・・。


生まれかわったら、


また会おうね!皆!」


百瀬は皆に手を振ります。

皆も百瀬に手を振ります。


「幸せにな!」

「また後で会おうね!」


皆それぞれ百瀬に声をかけます。

「・・・あ、そうそう。百瀬さん。」

デビロは天国へ行こうとする百瀬老人に言いました。

「最後に、ですね、

現世であなたの遺族の姿が見れるサービスがあるのですよ。


こちらのモニターをどうぞ。」


デビロはモニターを取り出し、百瀬に見せました。

「・・・あっ・・・。」

そこには、百瀬の奥さんと息子が墓参りしている姿が映し出されていました。

「奥さんと息子さんは、アナタの墓参りを欠かさずしてくれてるようですよ・・・。

それに・・・ほら。」

デビロは、百瀬の息子の横を指差しました。


「あ・・あぁぁ・・・。」

百瀬は声にならない声を漏らし、涙を流しました。


息子の隣には、奥さんらしき人が立っていました。

そしてその腕には、まだ幼いあかちゃんが抱かれていました。

「どうやら、息子さんは結婚できたようですね・・・。

幸せそうな笑顔だ。」


「デビロさん・・・


アナタに感謝する。

最後に、こんなに良いものを見せてくれて・・・。

なんてお礼を言っていいのか、おれにはわからない・・・。」

「いえいえ。


あくまでこれは、この会のサービスです。


私にお礼を言われても筋違いです。


・・・ささ、それではどうぞ。


天国へ行ってらっしゃい。」


デビロにそう促され、百瀬は一礼し、天国のゲートへと吸い込まれていった。


「さようなら・・・百瀬さん・・・。」

狩羽は百瀬のいろんな気遣いを胸にかみ締め、そう呟いた。

「・・・さ、次です。」

デビロは出不夫を手招きした。


「・・あ、おれですか・・・。」


出不夫はドキドキしながら、両ゲートの方へと歩いていく。


「出不夫さん、


アナタは、ストーカーまがいの事もいろいろとやってきました。



アナタの行き先は・・・
















おめでとう。天国です。



良かったですね。



幸せイクラの効果ですよ。



あれのおかげで、



生前の最後に、他を一掃するくらいの不幸を得た。



生きてる間に、十分に罪を償ったのです。」



「え、あ、ありがとうございます!

ハ・・ハハ・・・!やった!天国だ!」


出不夫はうれしそうに笑いました。


「・・それでは、出不夫さん。

あなたの遺族の映像です。」


「おれの・・・遺族・・・?」

出不夫はずっと一人暮らしだったため、少し難しい顔をしながら映像を眺めました。

「・・・あ・・・。」

出不夫の口から、思わず声がこぼれました。


映像には、出不夫の両親の姿が映っていました。


デビロはそんな出不夫に言います。

「・・・アナタの両親は、アナタを本当に心配していました。

でも、アナタはあまり両親に顔も見せず、

家にこもってPCいじりばかり。


しまいには、イジリー出不夫ってアダ名をつけられる始末・・・。


でも、両親はそんなアナタでも、


ただ一人の息子と、大事に想ってくれていたのですよ・・・。


みて下さい。


両親のこの部屋を。」


部屋の中には、出不夫が小さい頃の写真がいっぱい飾られていました。

「・・あぁ・・・これ・・・運動会で1位になった時の写真だ・・・。

これは・・・県大会でベスト8まで行った時の・・・。

あ、あれは、怪我して転んで泣いてる写真だ・・・。」


出不夫の目からは、いつの間にか大粒の涙があふれ出ていました。

「あぁ・・・ぁ・・


ゴメンな・・・とうちゃん・・母ちゃん・・・


おれの事・・・こんなに想ってくれてたんだな・・・。


それなのに・・おれ・・・おれ・・・





何一つ親孝行、してやれなかった・・・。」





出不夫はその場にしゃがみこんでしまいました。

「・・・出不夫さん・・・。


もう、終わってしまった事です・・・。


アナタはこれだけ想われていた。


想ってくれている人がいる。


それでいいじゃないですか。



・・・もし、次に生まれかわった時には、



きちんと親孝行してやれたら良いですね。」


デビロに抱えあげられ、出不夫は立ち上がった。


そして皆に一礼すると、天国のゲートをくぐって行った。



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