奇妙な1週間(8)

創作の怖い話 File.263



投稿者 でび一星人 様





樽田出不夫は語りだす・・・

おれはさ、

まあ、見ての通り、

【オタク】といわれる部類に入ると思うんだわ。


でもさ、

こう見えても、昔は足も早かったし、

けっこうイケてたんだと思うんだぜ?

・・・まあ、そんな事をいまさら言ってもしょうがないか。


 そんおれがね、

ある日、職場から家に帰る途中、

恋をしたんだ。






彼女を最初に見たのは、バイト先の店長に嫌がらせをされ、


すごく嫌な気分で帰路についている時だった。




フワッ・・・



人とすれ違った時、


とても良い香りがした。



振り返ると、髪の長い綺麗な女性の後姿があった。




黒髪の似合う、とても清楚で綺麗な女性。



おれは思わず、その人の後をつけていた。



バレないように、

さりげなく、


その女性の後をつけた。



そしてその日は、その女性がマンションに入るところまで確認して、帰宅した。


1日に深入りして追い過ぎると、バレる危険が高い。


過去、おれは何人かの女性に恋をした時にソレで失敗して学んでいる。


この恋は絶対に実らせたい。


だからおれは深追いせずに、今日はマンションをつきとめる事で満足した。







翌日。


昨日と同じ時間、同じ場所でおれはハリコミをした。


案の定、昨日とほぼ同じ時刻、三分ほど早くに彼女がこの道を通った。



歩いてくる方角から、おそらく彼女は地下鉄にのって帰ってくる事が伺えた。




その読みから、おれは次の日、地下鉄の最寄り駅でまちぶせする事にした。




・・・ビンゴ。


彼女が駅から出てくるところを確認できた。



ハァ・・・ハァ・・・


胸と股間が疼く・・・。



その日は彼女を想像しながらオナニーをした。




次の日はいよいよ彼女の部屋をつきとめる為に、マンションの前でまちぶせ。


待っている間、石原ひとみの【まちぶせ】をIpodで聞いた。


とても切なくなった。

それと同時に、


『かならずおれは彼女を幸せにしてやらないといけない』


と思った。



5・・・4・・3・・2・・1・・


時間通り。

ビンゴ。


彼女が帰ってきた。



おれはマンションの外にある草むらに隠れ、彼女がエスカレータに乗るのを見届けた。


エスカレーターがあがっていくのを見届けると、少し離れ、彼女が何階から出てくるのかを確認する。


・・・どうやら5階のようだ。


そして、エレベータの横の横の・・・横の部屋に入っていった。


503

彼女の部屋をつけとめた・・・。



股間がまた疼いたので、今日は草むらでそのまま出した。






 次の日から、おれはそのマンションの503を見張るようになった。


バイトを終え、まちぶせして彼女の姿を眺める瞬間が癒しの時間となった。



 部屋に入っていく彼女を確認した後、ベランダ側に回って外から確認する。


でも、どうやら彼女は断光のカーテンをしているらしく、真っ暗で部屋の中が確認できないようだ。


それがとてももどかしかった。


 せめて洗濯物だけでも確認したい。



どんな服を着ているのか。


どんなスカートをはいているのか。


どんなブラを・・・


どんなパンツを・・・


とんな染みが付いているのか・・・


ニオイは?




とても気になった。


でも、こんな御時世。


彼女は洗濯物を中に干しているようだった。




 彼女が見たい・・・



 彼女が見たい・・・




       彼女が見たい・・・




僕は彼女を少しでも多く見ていたかった。


彼女の事を少しでも多く知りたかった・・・。

でも、勇気がないから声はかけられないけれど・・・。



僕は自分がとても奥ゆかしく感じた。


この切なる思いが、いつか伝わるだろう。



そんな思いが大きくなり、


ある日僕はドアに付いているノゾキアナから中を覗いてみた。




・・・中は少し赤っぽく見えた。


だが、レンズが付いていて、外から中は確認できないようになっていた。




 とても残念だった。






 しかしある日、


ネットで、ある怪しげな業者を見つけた。


どうやら、2万円で、ドアの覗き穴を外からも覗けるように改造してくれるらしい。


僕すぐに依頼した。


どうやら外国人がやってくれるようだった。




 無事、外から覗けるようになり、僕はハァハァ言いながら部屋の中を覗く。


台所の周りには、赤いカーテンや壁紙があった。


そのせいで前覗いた時は赤く見えたのだろう。



部屋をよ〜く観察する。



・・・彼女が・・・居た!




彼女は着替えていた。




無性にムラムラした。


僕は堪えきれずに、その場で自慰行為をした。


もちろん、彼女を使ってだ。

他の女性を使うなんて下品な事はやらない。


僕には彼女だけだ。




 精液をドアポストにかけ、その日は帰宅した。






 翌日。



マンションの周りには、あきらかに覆面刑事っぽい男たちが数人居た。



過去に、こういうパターンで捕まった事がある。


五万ほど支払ってすぐに出られたけど。




 もう同じ轍は踏まない。


僕はその日自重した。


・・・でも、家に帰った後、僕の中で高まっていくリズムが抑えきれなくなった。



ガバッ!


僕は夜の町を駆けた。


双眼鏡を首にかけて。



 そして丘の上に立った。


この丘の上から、


彼女の部屋の窓が覗けるのだ。


・・・まあ、部屋には断光カーテンが敷かれている為、中は覗けないけど・・・



・・・ん?



部屋の窓から明かりが見えた。



僕はあわてて双眼鏡を手に取り、中を覗いた。



「やった!!!」


思わず声が出た。


なんと、今日彼女はカーテンを敷いていなかったのだ。


僕は彼女を眺めた。

彼女は、なにやら窓を触っているようだった。


(・・・何してるんだろう・・・。)



ペタ ペタ ペタ・・・


彼女はただひたすら、窓をペタペタと触っていた。



 何か寸法を測っているのかな?


それとも掃除かな?



 そんな彼女を見つめ、おれは彼女のスリーサイズを予測したり、


部屋の隅に置かれたパンティーを眺めながら、


月の見える綺麗な丘で射精した。







 ・・・次の日から、


彼女があの時間にあの道を通って帰らなくなった。



 そんな日が何日か続いた。


相変わらず、覆面刑事っぽい男たちはマンションの前で張り込んでいる。


なのでノゾキアナから中を確認する事はできない。



丘に登るも、あの日を除いて、やはり彼女は断光カーテンをしているらしく、


外からでは503号室は真っ暗だ。



 おれは無性に寂しくなった。


・・・彼女が見たい・・・。

ある日、


おれは勇気を出す事にした。


 とある休日の昼下がり。


おれは手土産を片手に彼女の部屋の前に立った。


そして震える指でチャイムを押そうとした。



勇気を出して、


真っ向から彼女に話しかけてみよう。


そう決心したからだ。





 「アンタ、そこで何してるの!」


ビクっとした。


チャイムを押そうとしたその瞬間。


見知らぬおばさんが僕を呼び止めたからだ。


「え・・・あ・・・ちょっとこの家の人に用事が・・・。」


おれは震える声でおばさんに言った。


「・・・あら?アンタ、ここに住んでた人の知り合い?」


・・・ここに住んで【た】人?


おれはそのオバサンの言い方に違和感を感じた。


「・・・あの・・・住んでたって事は、引っ越されたんですか?」


おれは眉間にしわを寄せながらおばさんに聞く。

「ええ・・・引越した・・・けど・・・。」


「そ・・・そうだったんですか・・・


スイマセン。どうもありがとうございました。


・・あ、もしよろしければこれ、どうぞ。」


おれは渡す宛てのなくなった手土産をオバサンに渡した。


「ま・・・うれしい。ありがとう。


私、このマンションの管理人やってるから、


もしお兄さんも部屋探す事あったら相談に来なさいよ。」


ニッコリ笑ってそういうオバサンの優しさが胸に染みた。






 ペタペタ・・・



    ペタペタ・・・




  ペタ・・・





 夜中、


寝ているおれの部屋に変な音が聞こえてきた。


・・・でも、眠いので気にせずにまた寝た。




 翌日、


散らかり放題の部屋を後に、おれは少し早い時間に出勤した。


その出勤途中、


昨日のオバサンに会った。


「あら、おにいさんおはよう。」


「・・あ、おはようございます。」


「・・・そういえば、おにいさん、アンタ、昨日あの部屋の人をたずねてきたって言ってたけど・・・。」




その後オバサンから聞かされた言葉を、僕はすぐに理解出来なかった。

あの部屋に住んでいた髪の長い女の人は、


もう10年以上前に引っ越したという事で、


それ以来あの部屋は誰も住んでいないという事だった。



 ・・・そして、引っ越したといっても、


それは彼女の両親の事で、


彼女は両親不在の間にあの部屋でガス自殺を図ったとの事だった。



両親から発見された時の彼女の姿は無残なもので、


苦しさからかベッタリと窓に張り付いて死んでいたらしい。


その目は窓から世の中を睨み付けるようにカッと見開かれていたという事だった。




 ・・・じゃぁ、


あのノゾキアナから見た彼女の姿は一体?


窓から見えたあの彼女の姿は・・・。



そういえば、


丘の上から見た彼女の姿・・・。



窓をペタペタと触っているように見えたけど・・・

僕は仕事を終え、家に帰った。



そして思い出した。


昨夜聞こえてきた音。


『ペタペタ・・』という音。



そういえば、



カーテンの向こうから聞こえていたような・・・。



僕はそっとカーテンに手をかけた。



もう半年ほど、窓もカーテンも開けていない。


外部とこの空間を遮断していたいからだ。






 カーテンをゆっくりと開くとそこには・・・



























・・・何もない・・・。




 あるわけ無いか・・・。




僕は安堵し、その日はフロにも入らず眠りに就いた。

そして翌朝。






窓にはビッシリと手形が付いていた。


雑巾でふき取ろうとしてもぜんぜん取れないのであきらめてそのままにした。




 『ペタペタ』という音は、



その後もたまに聞こえてくる・・・。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


出不夫が話し終わった後、


皆は二つの意味で怖さを感じていた。


出不夫の量隣の女性陣は、



あきらかに出不夫との距離を広げて座っていた。



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