奇妙な1週間(1)

創作の怖い話 File.256



投稿者 でび一星人 様





百瀬真一は静に目を閉じた。

(あぁ・・・これでおれの人生終わりだな・・・。)

百瀬真一は病の床に伏していた。

ここ1ヶ月ほどは話をする事もできなかった。

周りの会話は聞こえるし、何をしているかを見る事も出来る。

ただ、自分の意思表示が出来ない。

(・・・まあ、仕方ないか。)

百瀬はある程度覚悟はしていた。

自分ももう71歳。

そろそろ寿命が来てもおかしくは無い歳だ。

自分の人生にはそこそこ満足していた。

心残りはまだ結婚していない息子だが、

つい先ほど夢を見た。

遠く離れた息子に会いに行く夢。

妙にリアルな夢だった。

本当に行ったかのような感覚に捕らわれた。

だからなんとなく【息子に会う】という点において、心残りは無くなった。

 それに、若い頃からずっと好きだった人が、今自分を看病してくれている。

もっと元気なうちに再会できたらよかったのだが、

まあ今こうして自分の世話をしてくれているだけでも十分満足に値する事だった。


百瀬真一は満足だった。

自分の人生に悔いは無いと思った。

そうした中で、百瀬真一は息を引き取った・・・。




・・・

・・・

・・・




「・・・ん?」

気がつくと百瀬は真っ暗な空間に立っていた。

地面も空も、何もかもが真っ暗だ。

(一体ここは・・・夢か・・・?)

百瀬はその真っ暗な空間を歩いた。

とりあえず前にへ向かって歩いた。


どちらが前か後ろかわからない真っ暗な空間だが、

自分が最初に向いていたほうを前と決めて歩いた。



 しばらく歩くと、なにやら数人の人間が見えた。

男女が数人。

百瀬は慌てる事なくゆっくりと、その人達の方へと歩いて行った。



たどり着くと、まだ若い男女が7人立っていた。

「・・・なんだ、今度はじいさんか。」

その中の妙にエラそうにしてる男が言った。

「・・・君たちは、何してるの?」

百瀬はその男に聞き返した。

「・・・何って、オレにもわかんねえよ! どこなんだよまったくここは・・・。」

そのエラそうな男は20代半ばといったところか。

妙にイライラしているようだ。

百瀬は他の人達も観察してみた。

30歳前後の小太りの青年・・・

高校生くらいの青年・・・

こちらも高校生風の細身の女の子・・・

20代後半くらいの綺麗な女性・・・

なよっとした学生服を着た青年・・・

OL風の20代半ばの女性・・・



 皆、一体どうしてこんなところに居るのかわからないといった感じだった。

百瀬もなぜ自分がここに居るのか解らない。

イライラしている男はずっとぶつぶつ愚痴を言っている。

他の皆はその男をチラチラ見ながら無視している様子。

 しばらくそうしていると、


「・・・ひょっひょっひょ。 ようやく皆揃いましたね・・・。」


突然頭の上から声がした。


皆一斉に上を見る。



・・・誰も居ない。

「・・・あれ?今の声、なんだ・・・。」

高校生風の青年もそう言ってキョロキョロしている。


「・・・こちらですよ。」



突如、辺りが明るくなった。

皆それぞれ当たりをキョロキョロ見回す。

広くもなく、狭くもない部屋だ。

周りは木の板で覆われ、暖炉のようなものが1つ見受けられた。

・・・ただ、窓も入り口も無かった。

周り全てに木の板を貼り付けたような部屋だ。

 そこにはテーブルがあり、その真ん中になにやら模様が描かれていた。

テーブルの周りにはイスが8つ。

その部屋に、百瀬を含む八人の男女は立っていたのだ。

「オイ!なんだよこの部屋は! お前姿を見せろよ!」

ずっとイライラしている男が、声の主に向かって叫んだ。


「・・・フフフ。こちらですよ。見えませんか?」

「?」

「?」


声はすれども姿は見えぬ。

八人はキョロキョロしながら部屋を見回す。

「あっ!」

女子高校生風の女の子が声をあげた。

皆は一様に女の子を見る。

「あっ!」
「アッ!」

皆も声をあげた。


女の子のまん前に、真っ黒なコートを羽織った男が立っていた。

「・・・ひょっひょっひょ・・・。皆さん、ようやく見つけましたか・・・。」

男は不適な笑みを浮かべてそう言った。


「オイ!こら!お前一体何者なんだよ!」

いずっとイライラしていた男が、ずかずかとコートの男に向かって歩き出す。

「ひょっひょっひょ。牧野さん、そう怒らずに、まず話を聞いてくださいよ・・・」

「ウルせえ! おれは今イライラしてんだよ!」

その【牧野】というらしい男は、コートの男の胸倉をつかもうとした。

「フフ・・・。」

・・・コートの男は、ヒョイと牧野の手をかわした。

そして笑みを崩さずに、

「・・・牧野さん・・・私に触れるのはルール違反ですよ・・・。

これは牧野さんだけではありません。

皆さんも一緒です。

決して私に触れないで下さい・・・。

もし触れたら・・・。」


そこまで言った時に、牧野は素早くコートの男に踏みより、胸倉を掴んだ。

「ハハン。オイ!おっさん、もしアンタに触れたらどうだって言うんだよ?

あ?

何もおこらねええじゃねえかよ!

そのニヤケ面、妙にイラつくんだよ。

ぶん殴ってやる!」

牧野が手を振り上げた時だった。


「・・・ひょっひょっひょ・・・あ〜あ。

アナタは失格です。」


「・・・は・・?」

牧野は腕を振り上げたまま動かなくなった。

「あ・・・あれ?お・・・おい!なんでうごかねえんだオレの体!」

牧野が慌てた口調で言った。


「ひょっひょ・・・よいしょっと。」

コートの男はゆっくりと牧野につかまれた腕から服を抜き取り、

襟元を正した。

そして・・・


「牧野さん、残念ですが失格です。

・・・それでは。」

と言って指をパチンと鳴らした。


「グ・・・ぐあああああああああ・・・!!!!」


牧野の叫び声が部屋に木霊した。


「キャアアアアアアァァァ!」

と、同時に高校生風の女性や、OL風の女性も叫び声を上げた。

牧野の首と腕がぶちぶちとちぎれたのだ。

「ぐぅぇぶ・・・」

牧野のちぎれた首が床に転がり、

口からはとめどなく血がこぼれ出ている。

「ぐぇぶ・・・ぐはぁぶ・・・。」

床に転がった牧野の首は何かを言いたそうだが、血が口から溢れ出ているので上手く喋れないらしい。


コートの男はその首をそっと持ち上げた。

「・・・ひょっひょ・・・残念ですね・・牧野さん。

それでは、アナタは失格なので、お先にどうぞ・・・。」

コートの男はそう言って、牧野の首を机の上の怪しげな模様の上に落とした。


シュルシュル・・・


落とした首が怪しげな模様に触れた瞬間、

模様の中からなにやら無数の触手のようなものが出てきて、

あっという間に牧野の首を包み込み、模様の中へと吸い込んで行った。


「ひょっひょ・・・。」


コートの男は笑いながら、牧野のちぎれた手足をぽんぽんとテーブルの上へと投げた。

それらは首同様、模様から生え出した触手により中へと吸い込まれて行った。




 牧野の体は全て、テーブルの中へと消えた。

残った7人の男女は恐怖のあまり何も話す事が出来なかった。

中には奮えが停まらないものも居た。


そんな彼らを見て、コートの男はまたニヤリと笑い、口を開いた。

「・・・やあ。皆さん。

いきなりえらく手荒いモノをお見せして、申し訳ありませんでした。」

コートの男はペコリと頭を下げた。

そしてさらに話を続ける・・・。

「・・・私の名前は、 デビロ・イチーゾと言います。

もしろん偽名でございます。

さて・・・

皆さんは、なぜこんなところに居るのか、

自分自身でも気づいていないでしょう?

ひょっひょ・・・

ぶっちゃけて言います。

あなた方は、

既に亡くなった方々なのです。」


「えっ!」

「はぁ?」


皆が口々に疑問の表情を浮かべた。

それもそうだろう。

今ここにキチンと存在している。

それを【死んだ】などと言われても信じられるはずが無い。

 ただ、百瀬真一だけはなんとなくそれを受け入れる事が出来ていた。

自分の記憶は、病院のベッドで目を瞑ったところまで。

いつ死んでもおかしくないくらい体は衰弱していた。

だからそのまま死んだとしても自然な事だろう。

なので百瀬だけは周りと違い、【なるほど】といったリアクションを取っていた。


 そんな百瀬を見たデビロは、

「ひょっひょ・・・さすが、この中で唯一のご老人・・・。

アナタは素直に受け入れたので、特典として【最後】にしてあげましょう。

さあ、このイスにお座り下さい。」

と言って、百瀬を1番奥にあるイスに誘導した。

イスには【8】と書かれていた。

百瀬はゆっくりとそのイスに腰掛ける。


「ね、ネエ! その【最後】ってどういう意味なのよ?

そ・・・それに私たちが死んだってどういう事よ!?」

OL風の女性がデビロに対して言った。

「ひょっひょ・・・

これからその説明をします。

・・・とりあえず、残りの方は好きなイスにお座り下さい・・・。

・・・あ、そうそう。

一人【失格】となったので、イスが一つ余りますね。」

デビロはそういうとイスを一つ持ち上げ、テーブルの上に置いた。



シュルシュル・・・!


「ひぃっ!」

数人が小さく悲鳴をあげた。



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