ツンデレラ(1)

創作の怖い話 File.248



投稿者 でび一星人 様





【ツンデレラ:意味】

ツンデレラとは『ツンデレ』と『シンデレラ』の合成語で、ツンデレの普段はツンツン、

二人きりになるとデレデレといった特徴をもつキャラクターのこと。

また、そういったタイプの実在する女性に対してもツンデレラが使われる。

これとは別にツンデレ愛好家という意味でツンデレラが使われる場合もある。

ただしこの意味で使用する場合、

英語で「〜する人」という意味にする接尾語“-er”をつけ、ツンデレラーとのばすことが多い。

なお、ツンデレラは2006年新語・流行語大賞にノミネートされた。

(日本語俗語辞書より引用)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 私の名前は 下山 静香

24歳 OL

 上司ウケはそんなに良くない。

他の子は何やら飲みに誘われたら着いていって、機嫌をとっている。

私はそんなのイヤ。

なんでそういう子ばかりが、仕事でもヒイキされるのだろう?

結局人間、どんな場所でも最後は感情で動くって事なのかもしれない。

 おもしろくない・・・。



「お、下山ちゃん、今日も定時でアガリかい?」

35歳、独身の浜根さんが声をかけてきた。

「・・・ええ。そうですが、何か? 自分の仕事はもう済ませましたが?」

「ぉ、ぉぅ。 そ、そうかそうか。 そんなツンツンするなよ〜。下山ちゃん〜。」

笑顔で詰まりながらそう言う下山さんに私は

「用が無いならこれで。 お疲れ様でした。」

と、目も合わせずに挨拶をし、会社を出た。



 【ツンデレ】という言葉があるが、きっと私もこの部類に入るんだろう。

会社では常に↑の通り、ツンツンしている。

会社だけじゃない。

買い物の時も、

初めて行く場所も、

学生時代もそうだった。


外では常にこんな感じだ。


・・・でも、そうじゃない相手もいる。



 ピンポ〜ン

ガチャッ


 玄関のドアが開き、彼氏のヨシちゃんが出てきた。

「・・・おお。静香か。仕事終わったか。お疲れ。」

「・・・うん。おつかれ。 あがって良い?」

「どうぞ。」


 ヨシちゃんの部屋に入ると、昨日片付けたばかりというのにもう散らかってる・・。

「も〜。ヨシちゃん。 たった一日でなんでこんなに汚れてるの〜?」

「うん。 ごめんよ。 友達が来ててさ。」

「も〜〜。」


・・・と、言いながらも、私はヨシちゃんの膝の上に座りスキンシップをとる。


「ねえ?ヨシちゃん。今幸せ?」

「・・・ん?何で?」


「・・・うううん。何でもない。」


本当に何でもない。

何でもないこういう会話が、幸せなんだ。


 好きな人の前だけ、これだけ無警戒な自分を出せる。

世間では【ツンデレ系】なんて言葉を使ってるけど、

そんな単純な言葉でひとくくりにされるようなつまらない心理では無いと思う。


・・・それより・・・

・・・なんだろう。

今日のヨシちゃんはなんだかヨソヨソしい・・・。

「ヨシちゃん?どうしたの?なんか悩み事?」

「・・ん。いや・・・。」


ヨシちゃんは目を合わそうとしない。

これは悩み事がある時のヨシちゃんだ。


「もう!何かあるんでしょ?ハッキリ言ってよ?」

「ん・・・。」


しばらく間が空き、ヨシちゃんはゆっくりと口を開いた。


「・・・なぁ。 おれたち、別れないか?」



・・・え・・・?



・・・え??・・・


今・・・何と・・・?


 あまりに急な事で、言葉が出てこなかった。

ヨシちゃんは続けて、

「・・オレ、静香がわからなくなってきてさ・・・。 一緒に出かけた時は、全然今と違うじゃん。」


「・・え・・・だって、あれは、ほら、外だし・・・。 外であんまり甘えたら恥ずかしいじゃんか。」


「恥ずかしいとか、言うなよ! オレ、もうイヤなんだよ。 お前みたいに、場所によって顔色変えるようなのがさ。 

今みたいな感じの静香が好きなんだよ。」


「え・・いや、だから、今の私が本当の私じゃん? 何言って・・・」

「オレはもう、そういうややこしいのは嫌なんだよ! 

外でも、中でも、 同じでいいじゃんか。 何でそんなに意識すんだよ?」


「・・意識って・・・。 だって、2人だけの時は甘えたいじゃんか・・・。」


「それはまだいいよ! 外でさ、オレがどれだけプライド傷つけられたと思ってる? 

振り回されて、バカにされた気分だよ。 もう本当に別れてくれ。顔も見たくない!」




 
 私はフラれた。




 ショック。

彼にだけは、心を許してたのに・・・。

彼にだけは・・・ 彼にだけは・・・。


コンビニで、夕飯を買ってから、ワンルームのアパートに帰る。

もちろん、店員さんとは目も合わせなかった。


 
 ご飯は、あまりノドを通らなかった。

布団の中でうずくまり、私は泣いた。


 前の彼氏と、その前の彼氏の事を思い出した。


皆、最初はこの【ツンデレ】な部分をかわいいと言ってくれる。

男なんて大体そうなのかもしれない。


 でも・・・でもね、

時間が経って、

一緒に居る時間が増えるにつれて、

それは変わる。


外と、2人だけの時で態度が違うのが嫌になるんだろう。

 2人だけの時の良い態度が、特別なものから、当たり前なものに変わる。

それにより、

外でのツンツンした態度が、当たり前なものから、マイナスなものへと変わる。

きっとこうなんだ。


・・・と、分析したところで、

私は他の女と違って、この【ツンデレ】を作ってるワケじゃないからどうする事もできない・・。


 辛い・・・。


そしてもっと辛い事。


私は明日から、 心を許せる相手が居ない生活を送らなければならない事だ・・・。


「・・・もう寝よう・・・。」

私はコンビニで、弁当と一緒に買ってきた梅酒を一気飲みして、即寝した。



――――翌朝―――――


 「・・・ヤバイ! 遅刻だ!」

朝、目覚ましは鳴らなかった。

なぜなら前日にセットし忘れたから・・・。

どうがんばっても会社には間に合わない。

私は会社に電話をかけた。


『お世話になっております。〇〇〇〇です。』

受付の女の子が出る。

「あ、もしもし、すいません。 総務の下山ですが、総務部に繋いでもらえますか?」

『はい。かしこまりました。 しばらくお待ち下さいませ。』


丁寧な対応だな・・・。


ガチャッ


『もしもし?下山ちゃん?どした?』

・・・この声は、独身の浜根さんだ・・・。

「あ、浜根さんですか・・。すいません。少し今日遅れます。」

『ん・・・。何かあったか?下山ちゃん?』

寝坊なんていえるワケないな・・・。

「いえ・・。すこし体調が悪くて。 でも大丈夫です。1時間くらい遅れて行きますので。」

『ナント。声に元気が無いと思ったら、体調壊したか。 アッハッハ。 下山ちゃんも人間だったか。』

・・・どういう意味だ・・・。

「・・・そういう事なんで、切りますね。」


『あ、ちょっとちょっと、待って。 今日、下山ちゃんの仕事、オレが片付けとくからさ、もう休みなよ?』

「・・え?」

『なんか、最近疲れ気味だったんじゃない? 1日ゆっくり休んで、また明日から頼むよ。』

「・・でも、」

『いいから、いいから。アホの部長には上手いこと言っとくよ。じゃあね!・・・ブチッ』

「あ・・・。」


 浜根さん・・・。 変な気遣いを・・・。

でも、ま、 なんとなく気が楽になったといえばなったかな。

 私はグっと伸びをした。

くよくよしても仕方が無い。

買い物にでも行こう。

うんとオシャレして。


 普段より念入りに化粧をする。

服も気合の入ったのを着てみる。


そんな自分を鏡で見てみる。

私も、まだまだ捨てたものでは無いじゃない!



 いつもと反対方向のホームから電車にのり、デパートに向かう。


 デパートの洋服売り場を見て周り、少し疲れてきたのでベンチの置いてある場所で休む事にした。

 少しぼーっとしていると、


「・・あの・・。」

隣から、男の人の声が聞こえてきた。

ゆっくりとそっちを向いてみると、スラリと背の高い、真面目そうな男の人が座っていた。

「・・・はい?」

私は例の如く、無愛想に返事をしてしまう。

「・・あ、すいません。 急に声をかけてしまい、嫌な気分にさせてしまいましたね・・・。」

「・・・。」

別に嫌な気分では無いが、あえてそれを発する必要は無いだろう。


男の人は、続けて、

「すいません。 アナタの手相、ちょっと変わった手相だったものでつい・・・。」


「え?」

私は自分の手の平を見る。

「手相、興味ありますか?僕詳しいんです。 よろしければ見せてもらえないですか?」


半信半疑ながらも、そんな言い方をされると気になるので、私は手相を見てもらう事にした。



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