創作の怖い話 File.247



投稿者 でび一星人 様





「にっちゃん!」親友のじろきちがオレを呼ぶ。【にっちゃん】とはオレのアダ名だ。

「じろきち。どうした?」

「いや、あのさ。 最近付き合い悪くてっごめんな。」

「だいじょうぶだよ。 オレの友達はじろきちだけじゃないから。」

オレは少し強がって言った。 そうしないとなんだか負けのような気がしたから・・・。



「ハハハ。それもそうだな。」じろきちは頭を掻きながら言った。

「で、今日は何だ?彼女は放っといても良いのか?」

「・・・別れたんだよ・・・。だから今日久々に一緒に帰ろうと思って・・・。」

たまげた。 じろきちに彼女が出来て、まだ二週間。もう別れたのか・・・。

「しんじられねぇな・・・。ラブラブだったように見えたんだが。」

「まぁ、合わなかったんだろうね。とりあえず帰ろうぜ。」



レストランの前を横切り、信号を渡り、じろきちと一緒に歩いていると、

「すまん!」と言って、突然じろきちが立ち止まった。

「わすれものか?」オレが聞くと、

「とりあえず、帰りにおれの家に寄ってくれないか?ワケはそこで話す!」とじろきち。

「あぁ・・・。別に良いけど?」 オレはじろきちの家に寄る事にした。


・・・

・・・

・・・

テーブルに、紅茶が運ばれる。

いい香りだ。

「ムリ言ってスマンな。」じろきちはそう言うとオレが座るテーブルの向かいに座った。

「ヲール・ティー って、言うんだっけ?このお茶」

「くわしいな。 珍しいお茶なのに・・・。まあ、そんな事はどうでもいい。

ガールフレンド、さっきおれ、別れたって言ってたよな?」

「うん・・・。 別れたんだろ?嘘なのか?」紅茶をすすりながらオレが聞くと、

「ホントだよ。別れたよ・・。ただ・・・。」じろきちの表情が険しくなった。

のこりのヲール・ティーを全部飲みほし、おれはじろきちの顔を見る。

「死んだんだ・・・。彼女。・・正確には殺した・・・。」

ガタッ・・・と、椅子を引き、じろきちは立ち上がった。

「ヒドイよな・・・おれ・・・。 彼女、おれの事を愛してくれてたんだよ・・・。

にっちゃんは、好きな人居るのか?」じろきちがゆっくりとオレに近寄る。


「い、居ないよ・・・。って言うか何だよ、その冗談・・。面白くねーよ。」

なんだか不気味だ・・・今日のじろきちは・・・。

いつも何考えてるかわからん系の奴だが、今日は特に不気味だ。

「ん〜。スマン。にっちゃん。 今の話、本当なんだわ。」じろきちが言う。

「かんべんしてくれよ。 もう良いって。」 少しイラつきおれは言った。

じろきちは尚もゆっくりゆっくりと近づいてくる。

「4・・・3・・・

2・・・1・・・。」

・・・

・・・

手が震えだした。 じろきちは何やらカウントダウンを口にしている・・・。

「え・・・。」突然景色が揺らいだ。 バタン! 足がもつれてその場に倒れてしまった。

オレの意識はそこで途絶えた・・・。





「ミズホ・・・。良い子だったんだけどな・・・。」

よこから声が聞こえてきた。 どうやらオレは気を失っていたらしい。

「ヲール・ティーに、睡眠薬を入れていたんだ・・・。ごめんよ。」

しろきちの声だ。 睡眠薬?どういう事だ・・・。オレはゆっくりと目を開けた。

「な・・・何だこれは・・・。」 オレの体はイスに縛りつけられていた。目の前には・・・女性の死体。

はき気がした。 じろきちが付き合っていたミズホさんの死体だった。

「のんびりしてると、母が帰ってくるから手短に説明するよ・・・。」じろきちが口を開く。

「この、ミズホはね・・・。僕を殺そうとしたんだ。【愛してるから】という理由で・・・。」

はなしの意味がわからない。 「【愛してるから】だって?なぜ殺す?」オレが聞くと、

「うん・・・。ミズホが言うにはね・・・愛が大きくなればなる

ほど、自分だけの物にしたくなるんだそうだ・・・。そして彼女は、おれを殺そ

うとして、包丁を持って向かってきたんだ・・・。ただ、所詮は女の力。

ほうちょうは簡単にかわす事が出来た。 おれは奪った包丁で、逃げようとす

るミズホを捕まえて、そして・・・。」


かんがえられない・・・。 「・・・殺したのか・・・?なぜ殺す必要が?」 


「すまない事をしたと思う・・・だが、あの時は怖かったんだよ・・・。」

たしかに、自分を殺しにくるような相手に恐怖を覚えるのは無理もないかもしれないが・・・。

「すきな人を、殺したくなるまで愛す気持・・・。でも、今なら少し解るんだ・・・。」

まじめな顔をして、じろきちがそういった。

「きみを・・・にっちゃんを・・・。おれは・・・。」じろきちはそう言うと、

テーブルの向こうから何かを取り出し、オレに向かってきた。・・・手には包丁が握られていた。

「つらい時も・・・楽しい時も・・・いつも一緒に居てくれたにっちゃんの事が、

やっぱり好きなんだよ。おれ・・・。ミズホとは付き合っていたけど、好きじゃなかった。

にっちゃんの事が・・おれ・・・好きなんだ! 」  

ロープはほどけそうにない・・・。 もがけばもがくほど腕に食い込む。

こんな絶体絶命な状況の中、右手付近に不思議な物を発見した。

とうやら、何かボタンのような形をしているようだ。

のっしのっしと、じろきちは包丁を片手に近づいてくる。

たすからないで元々。 何もしないよりはマシと、このボタンを押す事にした。

「なむさん!」 親指で力いっぱいにボタンを押した。

「あっ!!!」 一瞬の出来事だった。 オレの真後ろから、数本の槍のようなもの

が飛んで来た。 そしてそれは・・・じろきちの体に・・・。


いたいたしい光景が目の前に映る。じろきちの体や口から、赤い液体がこぼれ出した。

「れ・・・礼を言うよ・・・にっちゃん・・・。」 じろきちは、這うように近づいて来て、

ノロノロとした手つきで、オレの縄を解いてくれた。

よくワケが解らない・・・。 なぜじろきちはお礼を言うんだろう・・・。


「じろきち・・・。一体これはどういう事なんだよ・・・。」

のっそりと、その場にへたりこんだじろきちは、震える口調で話し始めた。

「か・・・彼女がさ・・・おれに殺された時・・・笑ってたんだ・・・。

ニコって・・・。そして・・・初めて理解したよ・・・。彼女の最

後の笑顔で・・・。」



日が、窓から差し込んできた。 もう夕方の五時くらいだろうか?

三月の夕日に照らされたじろきちは、なんだか優しい表情をしていた。

「ミズホちゃんの笑顔で、何を理解したんだ?」


「よ・・よく聞け。にっちゃん。 ・・・本当の【愛】とは、見返り・・・

を求めないもの・・・だ・・・。【殺して自分の物】という考え・・は、愛じゃない・・・

【死んで相手のモノに】・・と・・・いうのが・・・最大級の【愛】だ・・・。」


なんという事だろう・・・。 じろきちは、あのボタンと槍を、自分で仕掛けていたのだ。

はなし終えた直後、じろきちは動かなくなった。

のこされたオレの目からは、とめどなく涙が溢れ出した。

『こんなじろきちになら殺されても良かった』と思う自分が居た。



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