裕史怪談(1)

創作の怖い話 File.229



投稿者 でび一星人 様





―AM 3:00―


裕史はふと目を覚ました。

隣では妻の沙織が寝息を立てている。

目は半目。

これは沙織の昔からの癖だ。



「よっこらしょ・・・。」


裕史はトイレに行こうと重たい体を起こした。

今年でもう73歳


別に太っている訳では無いが、この歳になると寝起きは体が固まってちょっと大変なのだ。


 手すりに捕まり、ゆっくりと階段を下る。




 階段を下り終え、裕史は居間を覗き込んだ。


居間には、数年前に亡くなった息子の写真が飾ってある。


「・・・鎌司・・・。」


息子の【鎌司(かまじ)】は本当に何をやっても出来てしまう優秀な子だった。

享年26歳。



裕史はそんな鎌司の小さい頃を思い出しながら、トイレに向かう。





ジョボ・・・


ジョボボボボボ・・・


チョロン・・・。




あまり出ない・・・。


残尿感。



・・・歳はとりたくないものだ・・・。


裕史はそんな事を思いながら、赤フンを締めた。


ちょっぴり残尿がこぼれた。



部屋に戻る途中、

娘の【鍋衣(なべい)】の部屋が目に入った。


「・・・鍋衣・・・。」


鍋衣は昨年、

行き先も告げずに家を飛び出し、そのまま消息不明となった。


当時、警察や、

鍋衣の学生時代の知り合い(元ヤンの鍋衣の舎弟1000人を含む)総出で大規模な山狩りが行われた。

・・・だが、鍋衣は見つからなかった。

警察犬も出動したが、山の中ほどで匂いは消えていたらしい・・・。



裕史は、この歳になり、

今まで大事に育てて来た子供を全て失ってしまっているのだ。


心の中には大きな悲しみを抱えていた。


今の裕史を支えているのは、妻の沙織だけだった。



裕史は部屋に戻った。


沙織は布団の中でスヤスヤと眠っている。


裕史はその布団にもぐりこみ、また眠りに就いた。



浅い浅い眠りに。








・・・。



・・・。



(・・・また目が覚めてしまった・・・。)




周りはまだ真っ暗だ。



(ふぅ・・・。朝までが永い・・・。)


裕史はそんな事を考え、また目を閉じようとした時だった。


(・・・ん?)


裕史は違和感を感じた。



隣に寝ていたはずの沙織が居ない。


(・・・どうした?トイレか?)



しかし、寝ていたのはおそらくほんの一瞬。


沙織がトイレに行ったとしたら、それで目が覚めてしまうだろう。


(おかしい・・・。)

裕史は部屋を見渡した。








(・・・。)


沙織が居た。


沙織は、襖の前で横になって寝ていた。




(沙織・・・相変わらず、寝相が悪いのは変わらないな。)


裕史は沙織が風邪を引かないようシーツをかけてやろうとはせず、そのまま寝た。

理由はめんどいから。






裕史は目を閉じ、昔の事を思い出した。



(そういえば・・・おれもこの歳になるまで、いろんな心霊体験をしたな・・・。


20代後半からの10年間が得に凄かったが・・・。


中学と高校の時に体験した、


あれも怖かったな・・・。)




 今夜の怖い話は、そんな裕史が中学の時のお話・・・。


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