CROSS(10) |
創作の怖い話 File.227 |
投稿者 でび一星人 様 |
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絶対に理論上いけるはずだったんだ。 ・・・そう・・・。 それは、パラレルワールドが存在しなければの話・・・。 もし、パラレルワールドの存在があったとするならば、 僕が理論立てて創って来たこのマシンは、タイムトラベルする為のエネルギーや耐久性がまったく足りないんだ・・・。 それに・・・ それに・・・。 パラレルワールドが出来るとわかった今、 ・・・僕は過去に行く必要が無くなってしまった・・・。 なぜなら、もし過去に行って鍋衣さんを助けても、 僕の居るこの世界は、すでにこの世界での道を時間と共に進んでしまっている・・・。 過去の鍋衣さんを助けたところで、 鍋衣さんが助かったもう一つの未来が作られるだけなんだよ・・・。 ・・・この世界は、何も変わらない・・・。 僕の世界では・・・鍋衣さんは、ずっと死んだままなんだ・・・。」 モヤシのテンション↓↓↓ 鎌司がすかさずモヤシの肩を叩いて慰める。 「・・・モヤシ君・・・。 その理論、今度こそ間違いは無いのかい・・・?」 「・・・あぁ・・・。 間違いないだろう・・・。 今まで疑問に思っていた事が、 これで全て繋がった・・・。 ・・・鍋衣さん。 鍋衣さんはきっと・・・あの【時空の磁場が最も不安定な場所】に近寄った事で、 おそらくこちらの世界に移動してしまったんだと思います・・・。 普通なら、絶対にありえない事ですが、 僕が昨日、あそこでものすごい磁場を発するタイモヤシン一号を起動させた為に、 磁場は更に荒れ狂い、 鍋衣さんの世界の同じ場所と交じり合ってしまったのでしょう・・・。」 ウチはモヤシの説明がほとんど理解できへんかったけど、 なんとなく今回起こった出来事を理解した。 四年前、 鎌司が死んだバージョンと、ウチが死んだバージョンに世界が分かれた。 そのまま四年の月日が流れて、 タイモヤシンやら、爺さん婆さん(磁場の事)の影響で、 ウチは鎌司が生きてるバージョンの世界へとやってきてしまった・・・。 つまりはそういう事なんやろう・・・。 モヤシは少し落ち込んだ様子だったが、五分くらいで気を取り直し、 「鍋衣さん・・・ 一緒にご飯でも食べませんか?」 と、やさしく微笑んだ。 ウチはなぜか胸がキュンとなり、顔を赤らめて頷いた。 ウチとモヤシ、そして鎌司はとりあえず【てんやもん】を取って腹ごしらえする事にした。 モヤシと鎌司。 ウチの世界では、ある意味失ってしまった二人とこうして話が出来るのも、 幸せな事なんちゃうかなと感じた。 ―夜― 研究所で一人篭るモヤシを残し、 ウチと鎌司は家へと帰った。 その車の中で、鎌司からオトンとオカンの事を聞いた。 ウチが死んでから、この世界のオトンは、めっきり元気がなくなり、 次の年辺りから、物忘れが激しくなったらしい。 今、こっちの世界のオトンは、鎌司の事もほとんどわからない状態らしい。 歩く事や話す事は出来るそうだが、 頻尿、尿漏れなど、介護が大変な状態になっているとの事だった。 そんなオトンを、再婚したオカンは必死に介護してくれているらしい。 「・・・そっか・・・こっちの世界のオトン、そんな状態なんやな・・・。」 「・・・うん・・・。 姉ちゃんの世界での父さんは・・・まだ元気なんだね・・・。」 「あぁ・・・。 ウチの仕事の事を心配してくれるくらい、 まだしっかりしてるで・・・。」 「・・・そっか・・・。 いいなぁ。 元気だった頃の父さんと、僕ももう一度話がしたいよ・・・。」 鎌司はそう言うと、少し寂しげに笑った。 家に着き、鎌司がオカンに事情を話す。 最初はソックリさんを疑っていたオカンも、 ウチとオカンしかしらない小5くらいの頃の手紙の話をすると、 オカンは涙目になってウチを抱きしめた。 「鍋衣、おかえり・・おかえり・・・。」って。 ずっと言っていた。 ・・・向こうの世界のオカンも、こんなふうに寂しがってくれてるんやろかな・・・。 その晩、 ウチはオカンの部屋で一緒に眠った。 ・・・ウチの部屋は、物置になってたから・・・。 夜中になにをしでかすかわからんオトンは、鎌司が一緒に寝てくれた。 オカンは色んな話をしてくれた。 ウチが小さい頃の話。 ウチが居なくなってからの話。 「よく、戻ってきてくれたわね。」 オカンのその言葉に、ウチは返事をする事なく、ゆっくりと頷いた。 なぜなら、 ウチの心境は微妙だったから。 オカンは『よく、戻ってきてくれたわね。』 と言った。 ・・・でも・・・ ウチは、戻ってきてなんかはいない・・・。 ・・・ウチの本当のオカンは、向こうの世界に居る・・・。 ―朝― オカンはご飯を作ってくれていた。 味噌汁と・・・海苔・・・。 向こうの世界のオカンと、何一つ変わらない味・・・。 このオカンも・・・オカンである事には変わりないんやろうか・・・。 鎌司はこの日、K子園球場で試合がある為、10時頃に家を出た。 ウチは、『・・・絶対にぶつけないでね・・・。』と言う鎌司から、セルシオを借りた。 その車で、研究所へと向かった。 キセキ的にぶつけずに着いたのだが、 研究所の横に着けて駐車する時にホイールをこすった。 研究所の入り口に付いている指紋照合システムには、昨日ウチの指紋をインプットしてくれていた。 なのでウチはベットリ指紋をひっつけて中へと入った。 階段を下り、【事務所】に入ると、モヤシが机にうつぶせるように眠っていた。 「・・オイ、モヤシ〜〜〜。」 ウチが声をかけると、モヤシはゆっくりと目を覚ました。 「・・・ぁ、鍋衣さん、おはようございます。 ・・・もうこんな時間か・・・。」 モヤシは柱にかけてある時計を見てそう言った。 「モヤシ・・・また何やら調べものしてたんやろう? あんまりムリすんなや。」 「鍋衣さん・・・心配してくれてるんですか? ハハ。」 「な・・・ そんなん言うんやったらもう心配なんかせえへんぞ!アホ!」 →CROSS(11)へ ★→この怖い話を評価する |
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