花火大会(3)

創作の怖い話 File.214



投稿者 でび一星人 様





ただ、おれの腕には、


クッキリと、ほたるが握っていたであろう手形が付いていた。







 しばらくその場に座って休み、

おれはもう温くなってしまったサイダーを飲んだ。

温かったけど、当時は今ほど甘いものを口にする機会がなかったので、とても美味しく感じた。





おれの体調も特に問題はなかったようなので、

そろそろその日に宿泊予定の旅館に向かおうという事になった。


母さんとおれはゆっくりと立ちあがる。


その時だった。



「あ、裕史見て、蛍。」


母さんがおれの肩を指差した。


おれの肩口に1匹の蛍がとまっていた。


蛍はボーっと柔らかな光を放っていた。


おれは思わずその蛍を手で払い除けた。



「な、何するの!裕史!かわいそうでしょ!」


母さんはおれを叱った。


「・・・ごめん・・・。」


おれは謝った。

何を言っても、言い訳ととられると思ったからだ。


「・・・まあいいわ。裕史、もう帰りましょう。」


母さんとおれは、旅館へ向かって歩いていった。


母さんの手を握りながら、ふと振り向くと、

あの草むらの上を、1匹の蛍がふわふわと舞っていた。


なんだか寂しそうな光を放っているように感じた・・・。

・・・あれからもう、60年以上も経つのか・・・。


本当に、月日の流れるのは早いものだ。


もうすっかり、おれもおじいちゃんになってしまった。


・・・孫は居ないが・・・。




 気が付くと、おれは草むらの方へと戻って歩いていた。


そして草むらに声をかける。



「お〜い。

そんな所で遊んでたら、危ないぞ〜〜。」




・・・。








草むらからは、何も反応が無かった。



(さっきの女の子、警戒しているのかな・・・。)

 


そんな事を考えながら草むらを眺めていると、























 ツンツン・・・。














腰の辺りを誰かがツツいた。














ゆっくりと、おれは振り向く。

「・・・ずっと待ってたのに・・・。」





そこには、静かな顔をした沙織が立っていた。



「さ・・・沙織・・・。」


「ジュース買いに行くって言って、何分も戻ってこないから、心配して来ちゃったわよ。」


「あぁ・・自販機、近くに無かったからさ。 本当にごめん。」


「・・・そう。


ま、良いわ。


戻りましょう。」




おれと沙織は、二人並んで、元居た場所へ向かって歩いた。



歩きながら、おれは冷たいサイダーを飲んだ。


良く冷えていたのでとても美味しかった。







 遠くからあの草むらを眺めると、小さな光がふわふわと舞っていた。



★→この怖い話を評価する



[怖い話]


[創作の怖い話5]