リトル・へご(4)

創作の怖い話 File.204



投稿者 でび一星人 様





オジサンが尻尾を振っている相手は、




全身が焼け爛れ、口も鼻も判別出来ない状態の人だった。




目だけがギョロっとしていて、



その目はじっとオジサンを見つめていた。








焼け爛れた人は、オジサンをニ三度撫ぜた後、僕の存在に気づいたのか、



僕をジロリと見ると、パっと姿を消した。





 
オジサンの尻尾の動きがピタリと止まった。





「ぱん。(オジサン、今の人って・・・。)」



僕が話しかけると、オジサンは僕にゆっくりと近づいてきた。




「ワン(見て・・・しまったか・・・。 あぁ。 今の人は、もう生きてはいないよ・・・。 お前にも、見えるんだな。)」




「ぱん・・・。(うん・・・。今の人は、誰なの?)」




僕がそう聞くと、オジサンは「ワン(ちょっと付いて来い)」と言って、

僕を夜景の見えるの小出口のようなところに連れて行ってくれた。

小出口のところから、



オジサンは僕と一緒に夜景を眺めながら、



昔の話をしてくれた。




「ワンワン(・・・坊主、あそこの空き地が見えるか?)」



オジサンが肉球で指す方を見ると、【売 地】と書かれた看板が立っている空き地があった。



「・・・ワンワンワワンワンワンワワン(・・・あそこに・・昔オレ様は住んでいたんだ・・・飼い主と一緒にな。)」



「ぱんぱん?(え? オジサン、昔は飼いイヌだったの???)」



「ワンワン(あぁ・・・。 今でこそ、野良界を牛耳っているが、昔はオレ様も、カワイイ飼いイヌだった・・・。)」



「ぱんぱん?(そうなんだ・・・一体、なんで野良になったの?)」



「ワンワン(オレ様が、まだ2歳の頃、


シンジという、中学生の男の子に可愛がられながら、オレ様はあの家で過ごしていた。


シンジは一人っ子で、両親と一緒に暮らしていた。



お父さんも、



お母さんも、




本当に良い人だったよ・・・。




そんなある日、




強盗が入った。





オレ様はその日、シンジの部屋で寝ていた。

下の階から物音が聞え、オレ様は目を覚ました。





・・・ただならぬ様子・・・。



家族では無い別の匂い・・・。




オレ様は階段を降り、下の階に下りた。





唖然とした。





両親の寝室は、血で真っ赤に染まっていた。





 その部屋にたたずむ包丁を握り締めた、真っ黒な服を着た男。




男はオレ様に気づくと、包丁を振り上げて襲い掛かってきた。






鋭い痛みが体を駆け抜けた。




オレ様はそこで気を失った。

・・・




・・・





 体が熱かった。




オレ様は、誰かに揺すられて目を覚ました。




オレ様を揺すって起こしてくれたのはシンジだった。




「チン丸・・・無事だったんだね・・・。良かった・・・。」



そう言うシンジの体は、血まみれだった。



腹を一文字に切り裂かれ、腸が少しはみ出ていた。




「・・・さ、チン丸・・・そこの窓からお逃げ・・・。」



シンジはそう言うと、オレ様を窓から外に放り投げた。




 窓から、川に落ちたオレ様は、ゆっくりと流されながら、シンジの顔を見た。



シンジは優しく微笑んでいたよ。




家は真っ赤に燃えていた。



おそらく、犯人は家族全員を殺して、金品を盗った後、家に火を点けたんだろう。





住んでいた家が燃えるのを見ながら、オレ様は川で気を失った。






そして気が付いた時、



オレ様は川原に横たわっていた。





 腕には大きな傷があった。



今でも痕が残っているこのキズだ。




それからオレ様は、あの日シンジを・・・家族を殺した犯人を捜しながら野良をやっている。





あの犯人の匂いは今でもハッキリと覚えている。



忘れるものか・・・。

復讐する一心でオレ様は生きた。




復讐するまでは、死ぬ訳にはいかなかった。




気が付けば、オレ様に勝てる野良イヌは1匹もいなくなっていた。)」










 「ぱんぱん・・・(そっか・・・オジサン、そんな辛い事があったんだね・・・。)」




「ワン(・・・まあ、もう昔の話だ・・・。 辛さや悲しみはもう消えた。


今は、あの犯人に対して憎しみの思いしか残っちゃいないさ・・・。)」



「ぱん・・・(そっか・・・。早く犯人が見つかると良いね・・・。)」



「ワン(あぁ・・。そうだな。・・・ところで、この洞穴にはな、死んだシンジがたまに姿を現すんだ。)」



「ぱん?(あぁ。さっきのあの焼け爛れた人って・・・。)」



「ワン(あぁ。シンジだ・・・。シンジはこの洞穴に近づこうとする人間を呪い殺す。



この世に対して、シンジもまた強い恨みを持っているからだ。



だからオレ様は、追われる身になったらここに逃げ込むのさ。)」



「ぱん・・・。(そうなんだ・・・。オジサン、シンジって人にお礼を言っといてね!)」



「ワン(はは・・・そうだな。言っておくよ・・・それより小僧。 お前もこれから野良として生きていくんだろ。


シンジには話しておく。お前もここで暮らせば良い。)」



「ぱん!(え?良いの・・・?)」



「ワン。(あぁ・・・。 但し、提供するのはスミカだけだ。 後は自分の力で生きろ。)」


「ぱん・・。(う・・・うん・・・がんばるよ・・・ありがとう。)」

次の日、『ホケンジョ』のほとぼりが冷めた頃、


僕は洞穴から外に出た。



洞穴の入り口には、沢山の御札が貼られていた。



そして入り口の周りにはたくさんのお花が添えられていた。




・・・きっとシンジ君は・・・今でも人間を恨んでいるんだろう・・・。




世の中にはこういった場所が沢山あるのかも知れない。



興味本位に近付いたりしてはいけないよ・・・。



★→この怖い話を評価する



[怖い話]


[創作の怖い話5]