河童(1)

創作の怖い話 File.197



投稿者 でび一星人 様





ガタンゴトン・・・



    ガタンゴトン・・・。




 娘と二人、電車に揺られる・・・。

おれの名は裕史。


今年の7月で65歳になる。


仕事は一昨年に退職した。

自分としては、まだもう少しくらい働けると思っていたのだが、

会社の都合なのでこればかりは仕方が無い。


 今日は娘と二人、元職場の先輩の家に招待されたので、


電車に乗り、とある九州の田舎町へと向かっているところだ。


「オトン!おい!オトン!」


「・・・あ、ゴメンゴメン、どうした鍋衣?」


【鍋衣】とは、おれの娘の名前だ。

今年で22歳。

普段はコンビニでアルバイトをしているフリーターだ。

時給はコンビニ昼勤務なのに、1030円。


最初は700円からスタートしたらしいが、

まさに【継続は力】なのだろう。


「・・・ホンマに、ボケ〜っとして・・・。

これから行く家って、広いんか?

美味い飯はもちろん出るんやろうなぁ?」


「ん・・・。

多分出ると思うけど・・・。

ご両親も健在で、

お母さんは手料理に自信があるって言ってたし・・・。」


「ほほ〜〜。


そりゃ楽しみやなぁ。


ほな、ウチはしばらく寝るさかいに、

着いたら起してな!」



「・・・あ、鍋衣、起してって、父さんも昨日荷物の整理とかであまり寝てないんだよ・・・。オイ?鍋衣?」


「Zzz・・・。」



・・・もう寝てる・・・。

ガタンゴトン・・・。



電車は揺れる。




 一昨日の夜、久しぶりに【百朗さん】から手紙が来た。

百朗さんとは、冒頭で触れた、元職場の先輩だ。


年齢はもう80半ば。


ご両親は100歳を超えて未だ健在。


親子三人で、今は農業を営んでいるらしい。



隣に座る鍋衣は、半目を開けて眠っている。


「・・・遺伝か・・・。」


そう呟いて、おれは窓から景色を眺めた。


・・・ずいぶん田舎のようだ。


一面、田んぼと畑が広がっている。



 

 『次はぁ〜【河童ヶ丘】〜』


「・・・お、そろそろ着くみたいだ。

オイ、鍋・・・。」


そこまで言いかけて、オレは躊躇した。


あぶないあぶない・・・。


準備を怠るところだった。



 おれはカバンから【安全第一のヘルメット】と、【ナベのフタ】を取り出した。




装備完了。

「オイ!鍋衣!おきろ〜〜着いたぞ〜〜〜。」



「うっせーーーー!!!」



 鍋衣の攻撃がおれを襲う。


ヘルメットとナベのフタがまるでメークイーンのようにボコボコになった。




・・・数分後。




「・・・あ、オトンおはよう・・・。何や、その格好は?」


「・・・いや・・・っていうか、着いたよ・・・。」



・・・鍋衣は恐ろしく寝起きが悪いのだ・・・。














「・・・えっ・・・と・・・この道を左で良いのかな・・・。」


「・・・オトン、なんや、ホンマに畑と田んぼばっかりやな・・・。」



 百朗さんから郵送してもらった地図を頼りに、おれと鍋衣は家に向かっているのだが、

いかんせん、どこまで歩いても田んぼと畑ばかり・・・。

この、百朗さん作の簡易地図では不安になってきた・・・。




「あ!オトン!あそこ、ポリ公がおるで!道聞いてみようや!」

「・・ん?あ、本当だ。

やっぱり鍋衣は、警察には敏感だなぁ。アハハハ。」


「ま・・・まあな・・・。ようお世話なったし・・・ゴメンオトン・・・。」


 ほんのりテンションの下がった鍋衣と共に、

おれは出来の悪そうな警官に道を聞く事にした。


「す、すいません。 この家に行きたいんですけど、こっちで合ってます?」


「ん?あぁ。ハイハイ。【樋湯亜】さんの家ですね。合ってますよ!」

「そ、そうですか。よかったぁ〜。ありがとうございます!」


 おれと鍋衣は、少し安心してまた百朗さんの家に向かって歩き始めた。


【樋湯亜 百朗】


変わった苗字だ。

カァー・・・





      カァー・・・








何時間歩いただろう・・・。




「・・・オトン・・・ホンマに道、合ってたんかいな・・・。 あのポリ公、ウチらをハメよったんちゃうか・・・。」


「はぁ・・はぁ・・・な、鍋衣。そんな事言っちゃぁイカン。 きっと、合ってるよ。人を疑っちゃぁいけないよ・・・。」


「でも・・・もうカラスが鳴いとるがな・・・。」


「カラスか・・・反対から読んだらスカラだな・・・。」


「ホンマやな・・・守備力が上がるな・・・って、何言うとるねん、戦後を生きたオトンが。」


「・・・。」


「・・・。」



 次第に二人の会話も途絶えた時だった。






「あ!!オトン!見てみ!家がある! 明かりや!明かり!!」


「え・・・あ!本当だ!」




 前方に、家が見えた。


家にはぼんやりと明かりが灯っている。


「行くで!オトン!」


「あ、ま、まてよ鍋衣!」


鍋衣は元気良く家へと駆け出した。

おれも後を追うように65歳の老体で走る。



「ハァ・・・ハァ・・・ゼェ・・・ゼェ・・・。」






 「オトン、大丈夫か?

ほんで今気ついたけど、カラスの反対はスカラや無い。

【スラカ】や。  何のこっちゃわかれへんな。」


 「ゼェ・・・ゼェ・・・た、たしかにな・・・。」



家に着いた・・・。


門の表札には、【樋湯亜】の文字。


 ホっとした。



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